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Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (ホームパーティ) 18

 翌朝、樹が身体を起こした気配に優ははっと目を開ける。

「ああ、ごめん。起こしちゃった? 君は、まだ眠ってて良いよ」

 部屋の中は薄暗く、周り中がしーんと静まり返っている。まだ早朝の時間らしかった。
 樹がシャワーを浴びにバスルームに消えた背中をぼうっと見送って、優はまたとろとろと眠りに落ちる。身体中が気だるく、樹の腕に抱かれていた部分が温かかった。
 


 シャワーを浴びながら、樹はふと彼のベッドに眠る少女を思った。

 優を初めて抱いてから数日後、樹は、いつものように仕事帰り、町で女を誘ってホテルへ行ったことがあった。
 それほど、遊びなれている風には見えなかったが、その子はベッドで豹変した。樹は女に奉仕されることがあまり好きではない。そういうことを嬉々としてする女の顔をあまり見たくなかったのだ。

 途中でうんざりして、さっさと行為を終わらせ、彼はお金を払った。
 帰り道、ビルの明かりを見上げた途端、優の顔が浮かんだ。

 小さく震え、切ない喘ぎ声をもらす幼い、しかし女の顔。柔らかい肌。喜びに揺れる瞳。身体中にキスをして、腕の中で鳴かせ続けたいと、樹は思った。

 身動きの取れない仕事の忙しさをそのとき初めて恨めしく思った。



「桐嶋さん、昨日、樹さまにお知り合いのお宅のホームパーティに連れて行ってもらったんですって?」

 その日、学校が終わって施設に戻った優に、事務の女性が声を掛ける。彼女は樹が施設長に電話をしたとき、そばにいて聞いていたのだ。

「…?」

 優は、言われたことの意味を理解するのに一瞬の間が空いた。しかも、会場にいたときのことはほとんど覚えていなかった。不思議な味の食事をしたことと、綺麗な飲み物、その食事を盛り付けてくれた女性の印象が少し残っているだけだ。

 慣れない衣装にほぼ全神経を集中させていた優は、それを外してほっとした後、ひたすら眠かったことをぼんやり覚えているだけだった。

「楽しんできた?」

 樹が慈善事業的な意味合いで、閉じこもってばかりいる優を外に連れ出してくれたのだとしか考えていない彼女は、無邪気に微笑んで彼女を見る。

「…はい」

 答えようがなくて優はただ頷いた。

「そう、良かったわね」

 事務の女性はそう言って立ち去る。幼い頃からの優の境遇を知っている彼女は、ほんの少しでも優が‘楽しい’ことを知ってくれると良いと思う。家族もなく、友人もなく、笑うことを知らない優の心の内を一瞬でも照らしてくれるものがあるのならば。
 


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

~ Comment ~


そうか、優ちゃんはたぶん、心の底から笑ったこととか、震えるほどに何かを嬉しいと思ったこととか、という体験が(あまり?)無いのかな。

樹という、そばにいてくれて安心できる存在が出来て、良かった。とりあえず。

樹との出逢いが優ちゃんをどう変えていくのか、追っていきます。良いほうに変えてね。
#2255[2012/07/12 13:01]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

ありがとうございます!

実際のドキュメンタリー的なモノは、わからないし、そういう手記を読んだことがある訳じゃないけど。
虐待って、存在否定・・・って感じになるのだろうか、とか。
虐待をリアルに扱ったモノは辛くて読めないので、保護者を得て、安定してきた状態・・・の子どもを描いた小説は読んだことがありました。

これは、そういういろんなモノを込めたのですが、まぁ、題材的な背景はやはりfateくんなんで(^^;
ははははは。

ヒトは出会いで変われる。
と、以前、ある本で読みました。
そういう世界を描いてみたかったのかぁ。
#2257[2012/07/13 07:25]  fate  URL 

手のぬくもり。

お風呂で優をクレンジングでなでてあげているところの描写がよかったです^^
母親が子どものお世話をするみたいで^^
優ちゃんも素直に気持ちいいと安心してますね。
こういう手のぬくもりの記憶が一番人を安心させるんだとおもう。いや、人だけじゃなく、動物もみんなそうなんだろうな。
こうやって信頼関係というのは築かれていくんですよね^^

欧米型の幼児教育を学んだ際に、日本人の考えと違うなぁと感心したことに、「子どもの心に寄り添い子どもの信頼を得ることが大事」と教えていることがあります。
その具体的な方法に、どんなに忙しくてもきちんと対応するということがあげられていました。油を使った料理中で手が離せなくても、「今これ手が離せないから少し待って」といい、ちゃんとその約束通りに油料理が終わったら子どもの話を聞いてあげるとか。理由はわからないけど落ち込んでいる子どもには、変に聞きだそうとせず「元気を出して」と、ポンポンと肩を叩いてあげるとか。子どもに寄り添うのじゃなくて、その心に寄り添う方法を具体的に例示していました^^

信頼関係を築く。これが対人では最も重要で、これなくしてはどんな建物も建てられませんね^^
#2422[2012/09/18 12:40]  あび  URL 

Re: 手のぬくもり。

あびさん、

ああ、ご指摘いただいて気づきました。
樹はなんだかんだ言っても、母親に愛された記憶があるからそういうことが普通に出来るんだろう、と。
多少歪んでいても、そういう根底が揺るがないから、まぁ、マトモに育っている方かな。
スキンシップって、生物には必要らしい。自身の存在を確認する方法として。

> 欧米型の幼児教育を学んだ際に、

↑↑↑あびさんは、そういう・・・宗教的なことも含めて、欧米・ヨーロッパスタイルを学んだ方なんだな、といろんな瞬間に思います。恐らく、お仕事として?
日本的なことを日本的と意識できるのは外から眺めた経験がなければ出来ないこと。
それぞれの土地で、それぞれの素晴らしい教育にしても宗教観にしても、土着のものがきちんと育っている筈なのに、日本は古来の素晴らしいものを一気に否定し過ぎて、今はまさに崩壊と混沌と再生の時期ですね。
再生は、もう間に合わないかも知れんのぅ。
まぁ、文化とは都度作り上げていくものだから、ここから模索を始めるしかないのかも知れない。
個人主義って、まだ日本には早かったのかも知れないな。或いは、あまり合わないのかも知れない。
だけど、育児・教育はその民族を構成する最も根本的なものなので、良いところはどんどん取り入れて、良い方向へ進んでいくことを祈ります。
イジメや虐待は、いったいどうして生まれたのか。
それをそろそろ根本的な部分でそれぞれ(ひとりひとり)が考えるべきだろうと。

> 信頼関係を築く。これが対人では最も重要で、これなくしてはどんな建物も建てられませんね^^

↑↑↑まったくです。
これは、国際間でもそうだよな、としみじみする今日この頃(ーー;
#2424[2012/09/19 07:04]  fate  URL 














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