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Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (狩られた仔猫) 6

 8月の最後の週の初め。
 その日は、公立中学校は登校日だった。

 登校時間。施設から中学校の門へ続く道の脇に、一台の黒い車が停まっている。次々と登校していく生徒たちは、特にその車を気にする風もなく、わいわいと通り過ぎて行く。そして、一通り生徒の群れが過ぎ、そろそろいつもなら始業時間に近づいた頃、慌てて小走りに駆けてくる小さなセーラー服の人影が現れる。

 優だった。
 彼女は、人が大勢歩く時間帯に一緒に表に出ることができず、いつも、始業時間ぎりぎりになって学校へ急ぐのだ。

 優は、路上にまったく生徒の姿がないことに、すっかり慌てていた。休みが続いたせいで、まだ生活リズムの調子が戻っていないのだ。それで、時間を気にするあまり、彼女は停まっている車にはまったく注意を払わなかった。



 優の姿を確認すると、車に乗っていた男、樹はドアを開けて外に立つ。それでも、周りの様子をほとんど視界に入れていない優はまだ何も気付かなかった。

 いよいよ優が、車の前を通り過ぎようとした瞬間、不意に呼びかけられて、彼女は凍りついたように固まった。

「優ちゃん、おはよう」

 ぎょっとして声のした方を振り向いて、優は声をあげそうになった。この間の男が、優をじっと見据えて、真っ黒な光を照り返す大きな車に背を預けて立っていた。

 反射的に後ずさって逃げようとした優の腕を後ろからつかみ、樹はそのまま彼女の身体をもう一方の手で抱えるように押さえ込む。

「ひゃああ!」

 小さな悲鳴をあげて優は必死にもがいたが、背の高い樹の胸までしか身長の届かない彼女の抵抗は、ほとんどないに等しかった。

「優ちゃん、良い子だから静かに」

 背後から耳のそばでそうささやかれ、優は恐怖とそれに伴う呼吸困難の息苦しさに、あっという間に気を失った。
 ぐったりと腕に崩れ落ちた少女を抱き上げて、樹は車に乗り込む。

「鹿島、出してくれ」

 鹿島はバックミラーでちらりと少女の様子を見て、静かに車を出す。
 
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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

~ Comment ~


え、登校日に拉致?

って、こちらにやってまいりました。

人生わけありの二人がどう触れ合っていくのか楽しみです。

優ちゃんは体力なさそう・・・大丈夫か?
#2245[2012/07/09 11:13]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

ぎゃああああっ・・・
と、やはりウロたえてしまいました(・・;

(ホームパーティ) 15
の他作家さまからいただいたコメントを読んでいただくと分かると思いますが(ネタバレ?(^^;)なかなかこれも、はははは・・・なやつっすよぉ(^^;

> 人生わけありの二人がどう触れ合っていくのか楽しみです。

↑↑↑そういえば、そうなんですよ。
訳ありだねぇ。樹も、何げに苦労人かなぁ。

> 優ちゃんは体力なさそう・・・大丈夫か?

↑↑↑大丈夫じゃないかも・・・(・・;
#2247[2012/07/09 20:31]  fate  URL 














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