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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 (Cosmos) 2

 これが、椿とコスモスの出会いだった。

 コスモスは宇宙のcosmosと掛けている。だから、カナ表記なのだ。両親が、取り分け母が焦がれた‘空を駆ける者’空とエンジェル。その想いは宇宙へと還っていく。

 椿に基本的な手解きを受け、コスモスはジャスミンと同じく中学生ですでに仕事を請け負うまでに成長した。

 父は、過労で早くに逝ってしまった。まるで母を追うように。しかし、姉は、椿が一旦立て替えてくれたお金で無事に手術を受け、なんとか日常生活をこなせる程度に回復し、少し遅れはしたがゆっくりと大学生活を送っている。それでも、常人と同じという訳にはいかない。激しい運動は今も出来ないし、過労は命取りである。

 双子の人生を救ってくれた椿に心酔したコスモスは、彼に借りた手術代の返済と共に、姉を守って生きるために『花籠』のコスモスでいることを止めない。

 体術と共に、コスモスは仕事中の自分の姿を知り合いに気付かれないための変装を本格的に学んだ。特に、姉に知られる訳にはいかない。彼女に精神的負担、特に「心配」はこの上ない毒になる。姉に似た甘いマスクを生かして、彼は女装をする。女装は、敵の目を誤魔化すことと同時に、姉の人生を共に生きている証でもあった。そして、場合に寄って性別を使い分けたり、他のメンバーの変装の助けをしたりする為にいろいろなアイテムも揃えるようになった。

 そして。
 現在では「変装」という項目も特技として重宝され出している。単純に別人になってみたいという現実逃避的な人間や、産業スパイなど、本気で変装を必要とする人々から、彼の技は好評だった。



「空、今日は私が何か作ってあげる」

 その日、‘竹’に寄ってそのまま大学まで迎えに来た弟をにこにこと見つめて、杏樹は微笑む。各店の店主、特に一番関わりの多い‘竹’はコスモスにとって父親のような感覚を抱く相手だった。早くに親を亡くしているコスモスにとって、そして、姉を守らなければならない、と気負っている彼にとって、ほんの少しでも甘えられる相手として、彼は相応の年齢であり、直接一緒に仕事をする訳ではない店主という位置が手ごろだったのかも知れない。

 変装のアイテムを調達しようと店に行って、彼は一般の客の振りをして少し話しをしてきたのだ。

「腕があがりましたな」

 と彼の変装術を目を細めて褒めてくれる彼が、好きだった。それでも、コスモスの変装をいつも彼は見破る。いつか彼に見破られずに驚かしてやりたい。それが夢だった。驚かすと喜ばすが同義だと、コスモスは気付いてはいなかったが。

「いつも空がいろいろやってくれるから」

 杏樹は、ほとんど友達がいない。町に出かけたり、コンサートに行ったりと普通の友達付き合いが出来ないことに引け目を感じて、彼女はいつも遠慮しているのだろう。そして、周囲も、彼女に何かあったときの責任を負いたくないという心理が働くものと思われる。

 杏樹も空も、特に友人を欲しいと思わずに、お互いだけを拠り所に今まで来てしまった。

「じゃ、作って。そろそろレパートリー尽きた」

 コスモスは笑ってこんっ、と足元の石を蹴る。並んで歩くと、妹かと思うくらい姉は小柄で小さい。顔がよく似ているので、恋人同士には見えない。彼女は、弟の仕事を知らない。コスモスは、コンビニで店員のアルバイトをしている。それだけで生活費から姉の学費まで稼げる訳はないことは感じていても、父がお金を遺してくれたから、という彼の言葉を信じている。

「空は、好きな子とか…いないの?」
「いないよ。姉さんは?」
「…私は…人を好きになんて…」

 言いかけて、杏樹は自分より背の高い弟を見上げて、ふふふ、と笑った。人を好きになる資格なんてない。だって、私はその人と共に生きていける時間が残されているのか分からないのに。

「こんなカッコいい弟がいるから、他の男に目がいかないのかも」
「褒めたって夕飯の支度は手伝わないよ。今日は僕はバイト入ってるからね」
「なんだぁ、じゃ、褒め損だわ」

 する、と杏樹は弟の腕に腕を絡めてもたれかかる。

「具合、悪いの?」

 コスモスはちょっと驚いて彼女を見下ろした。

「タクシーでも拾うおうか?」
「やだ、違うよ。駅まで10分くらいだもの。ちょっとくらい歩かないと、太っちゃう」
「姉さんは痩せすぎ! 少し太ったって良いって」

 仕事が入って自宅を空けるとき、コスモスは出張だと言ってある。本当にそれを信じているのか分からないが、姉はあまり詮索をしなかった。普通の生活というものをあまり知らない彼女は疑うこともしないのだろう。

「空もあまり太らないね。体質なのかな」
「遺伝かもな。父さんもけっこう細かったしね」

 淡々と会話を交わしながら、二人は歩く。ここしばらくは静かで、仕事の依頼は入っていなかった。空を見上げて、コスモスは、ふと黒い雲が湧き起こってくるような錯覚を得た。

 それは、これから起こる大きな事件への予感だったのかも知れない。
 彼の恩師である椿は数年前からずっと海外にいて、今はほとんど連絡も取れない。たまに帰ってきても、顔を合わせることなく去ってしまう。

 久しぶりに会いたいな。
 彼は思った。
 椿は、彼が初めて会った頃からほとんど変わっていないように見える。
 それどころか、益々若返っていないか? …妖怪か?
 くすり、とコスモスは笑った。



 西の空が茜色に染まっていくのを見上げて、腕に感じる小さな気配を愛しく思う。守るべき者を抱く重みと幸せをコスモスは噛み締めた。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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