FC2ブログ

Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 4-27

 さすが、「氷の番人」だ。
 椿はひらりと何度も身をかわしながら、大分、分が悪いことを感じていた。

 もう、トシだと思っていたのに、なかなかどうして相手は身が軽かった。建物内部のこと、不用意には発砲してこなかったが、このままでは確実に殺られると思った。

 最上階にいる筈の不知火会長たちはどうしているんだ? 椿はふと疑問を抱く。クローゼットのような大きな箱モノを蹴倒したり、ボードのガラスが割れたりと、これだけ派手な音を立てているのに、誰も様子を見に現れる様子はない。しかも、‘アリョーシャ’の部下すら姿が見えない。

「気を散らすな、クロツバキ。何を気にしている?」

 まったく息のあがっていない様子の暗殺者は、椿の落ち着きのない視線を捕えて彼をじっと見据える。この戦いをどこか神聖なモノとでも捉えているのだろうか。椿が集中していないことを明らかに不快に感じているようだった。

「…不知火の幹部連中や、お前の部下はどうしたんだ?」

 ああ…と彼は笑った。

「不知火の人間は今日はここにはいない。俺の部下は俺の命令を待って…待機しているだけだ」

 早口のロシア語で答えながら、どこか狼狽しているように感じられたのは気のせいかも知れない。

「…つまり、部下は不知火一族を見張っているということか。‘アリョーシャ’が俺を倒して戻ってくるのを待って…?」

 椿が聞くと、‘アリョーシャ’は更に不快そうな表情を浮かべた。

「余計なことだよ、クロツバキ」

 言葉と同時に彼の攻撃が繰り出され、椿はなんとか身をかわす。しかし、逃げの一手ではいずれ追いつめられる。なんとか相手の隙を突かなければならないのに、相手には隙がない。

 もう、引退かなぁ、俺も…

 『スムリティ』本部に置いた訓練施設も軌道に乗り始め、後継は育っている。彼の育てた精鋭も各地に散り、『花籠』の登録メンバーは順調に確保出来ている。
 そして、ふとジャスミンのことを思い出して、椿は微笑んだ。

 ここで、俺が殺られても、息子が華麗に仇を取ってくれるだろう。あいつには俺になかった唯一の武器がある。…そう、仲間がいるのだ。

 そうだ、俺はもう何も心配することなんてないじゃないか。‘黒椿’には後継者がいる。ふっと笑みが漏れ、その次の瞬間、空気を切り裂くような発砲音が響いた。

関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←『花籠』 4-26    →『花籠』 4-28
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←『花籠』 4-26    →『花籠』 4-28