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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 4-25

 ここに情報がすべて繋がった。ジャスミンの、正確には李緒からの情報で、椿は概ね‘彼’であることを推測した。そして追ってもたらされたローズが決死の思いで得た最終情報。

 これで、危険を犯してターゲットの潜伏先を探る必要も、所在の確認も必要なくなった。気付かれないように闇に紛れる必要すらない。もともと優位な彼は、刺客の到着を待って迎え撃つつもりだろう。しかも、占い師の最後の占いだ。彼は、そこで椿を待っている、という明確なビジョン。

 彼に勝てる要員は今現在『花籠』にはいない。それを、椿が誰よりも分かっていた。

 宵闇が辺りを包み込む。すでに、不知火の本社ビルに待機していた椿が、最期の指令を受けて侵入を試みようとしていた。しかし、今回、急な展開のためにセキュリティの解除をする間がない。そして、囮となる人間も連れてきてはいなかった。

 東京の町並みを見下ろす最上階の窓。ローズが見覚えがあると感じたのは、彼が以前に請け負った仕事で、ここを思い浮かべた人間がいたからだ。死者の思念を辿って行き着いた魔の巣窟。不知火の人間に恨みを抱いて死んでいった人間は数知れない。

 殺るか殺られるか。…いや、経験、実力とも向こうが上だ。勝てるチャンスがあるとすれば、本気で相手の一瞬の隙を突くこと。…まぁ、十中八九無理っぽいけど? せめて、深手を、いや、戦闘能力を下げる程度に、龍一が逃げられる程度に怪我を負わせることが出来れば…。

 白く高い壁を見上げてすうと息を吸い込んだとき、不意に赤い人影が警備を突破して中へ走りこんだのを見た。
 その軽やかな身のこなしに、椿は最初ジャスミンかと思った。しかし、違った。女だ。

 そして、分かった。ここ数日、ずっと彼に張り付いていた何者か、知っている気配のようで、しかも敵意がないので放っておいた人物であろう。おそらくそれが、彼女だったのだ。
 彼女は彼女なりに役割を考え、椿の協力をすることで報復を果たそうとしているのだろうか。

「アイリス…毒を操る女豹か」

 通りすがりに、彼女は警備の人間を次々眠らせていく。一陣の風を感じた瞬間には視界が暗くなっているという状態らしい。

 そして、警備の人間のポケットから探った鍵で、中へ入り込む。

 カメラが作動して、当然の如く、警備室に待機していた警備員がやってくる。女一人にさすがに警報ベルまでは鳴らさないようだ。

 彼女を取り押さえようと警備員が大騒ぎをしている隙をついて、黒い影が彼らの背後を横切っていった。


 
「クロツバキ、お前か…」

 最上階へ階段でふわふわと向かった椿が出会った相手は、紛れもなく‘アリョーシャ’氷の番人だった。広い最上階の一画。廊下から続くそこは広いホールのような空間。ダンス教室でも行っていそうなつるつるのフローリングに、片面がガラス張りだった。

 旧ソ連の秘密結社の暗殺者にして幹部。組織の番人にして断罪者である。彼の主な仕事は裏切り者の制裁と始末。こうやって外で暗殺を請け負うのは実は珍しい。

 いや、だからこそ、こんな極東の日本で顔を晒したところで問題がなかったのだろう。
 以前、バッティングしたターゲットは、彼らにとっては裏切り者であり、椿たちにとっては犯罪者である密貿易者だった。新種の‘覚醒剤’を売りさばいて若者を食い物にしていた売人。実はそのクスリは、その組織で開発されたものだったらしい。

 幾人もの女の子を薬漬けにし、彼女らを売春させ、男に「精力剤」だと言ってクスリを与える。恐ろしいのは、たった一度の服用で依存性が高率に起こることだ。一度、その作用を知った身体は、狂気のような勢いで二度目を欲しがる。彼らはそして、二度目以降からは金を取るのだ。

 個人差はあるだろう。しかし、そのクスリを一度でも投与された者はほぼ数ヶ月程度で廃人になる。使い捨てられる少女たちは、各地・各国から集められ、訳も分からないままクスリの反復使用に寄りボロボロになって死んでいくのだ。

 これが、さらった子ども達のひとつの使い道だった。

 そこまで根が深いモノとは当時は分からなかった。しかし、その売人を突き止めて‘黒椿’がその男を追いつめたとき、そこに制裁に現れたのが‘アリョーシャ’だった。ターゲットが同じで、しかも、彼はどうもその身内らしいと判断した椿は、獲物を彼に譲って退散した。

 そのとき、お互いに感じたのだ。次に会うときは、どちらかが死ぬときだと。

 にこり、と椿は相手を見つめて一礼した。その優雅な仕草に黒い衣装が奇妙に映える。アリョーシャはあのときと同じ、一見するとごく普通のスーツ姿だった。

 お互い静かに見つめあい、間合いを計る。
 アリョーシャは銃を、椿はナイフを手にした。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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