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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 4-17

「待ってたよ~、弥生ちゃんっ」

 飛びつくように小柄な羽鳥に抱きつかれて、弥生は驚いてよろけそうになった。背丈はそれほど変わらないが、羽鳥はものすごく細かった。恐らく、彼女が羽鳥の姿を直接見た、初めての外部の人間であろう。

 あ…っ、なんて綺麗で可愛らしい子なんだろう?
 それが弥生の第一印象だった。

 そう、羽鳥は女の子で、しかも、恐らくまだ15~16歳。大人になりきっていない少女の体つきをした本当に小鳥のように小柄な子だった。くるんと丸い大きな黒い瞳と、栗色の長い髪の毛。頬にはソバカスが少し、可愛らしく並んでいる。日に焼けているというより、もともと少し肌の色が日本人より濃いようだ。

「あ、は…はじめまして。弥生です…あの、羽鳥…さん」
「いいよぉ、呼び捨てで。さん付けなんてされたこと、ないしぃ」

 身体を離してにこりと彼女は笑った。まるで邪気のない瞳なのに、その奥には知的な光が宿り、どこか小悪魔的な魅力がある。

 何度か交通機関を変えて、最終的に車で数時間走り続けて着いた先は、蔦のびっしり絡んだ古いレンガ造りの大きな屋敷だった。周囲は深い森に囲まれ、かなり近づかないと建物があることすら分からない。雑草が生い茂る庭にはかつては丁寧に手入れされていたのだろう、という花壇の跡があり、玄関の周囲だけは綺麗に手入れされていた。

 古びた大きな扉を開けると中は思ったよりもこぎれいで、薄暗かったがそれほど陰湿なイヤな感じはしない。むしろ、どこかほっとするような温かい空気が感じられた。

 コスモスに案内されて、中央にある朱色の大きな階段をあがり、弥生はそのまま奥の応接間のような部屋へ通された。そして、そこで弥生の到着を今か今かと待ちわびていた羽鳥と感激の対面、となったのだ。

「ここではあたしに何でも聞いてね。食事の支度だけは交替でいろんな人が来てやってくれるけど、他は基本、自分でやんなきゃならないんだ」
「あ、それは大丈夫です。あの、食事の支度ももし良かったら私が…」
「ええっ? 本当? 嬉しい~!」

 本気で喜んでいるらしい幼い顔を見ると、弥生はちょっと施設の子たちのことを思い出して微笑ましくなった。そして、彼女のことがとても可愛く思えた。

「まずは、私は何を?」
「ああ、ううん。今日はまず部屋でゆっくりして。コスモス、案内お願いしても良い?」

 羽鳥の言葉に、コスモスは肩をすくめる仕草をして、どうぞ、と言う。

 羽鳥と龍一が今、緊急事態であることを、だけどそれを弥生に気付かせないようにしていることをコスモスは知っていた。昨夜の‘竹’の襲撃。敵もバカではなかったということだ。

 店主の無事が確認されておらず、コスモスは正直、気が気ではなかった。彼が殺られたりする筈はない、と信じてはいても、無事を確認するまでは落ち着かない。焼け跡の店に遺体はなかったということで、コスモスも彼の捜索に加わる予定でいた。

「弥生さんを案内したら、僕は任務に戻りますよ」
「うん、ありがとう」

 羽鳥はいたずらっぽく微笑んで、二人を見送る。そして、扉が閉まったのを確認すると、ついと奥の壁の前に立って模様に紛れた取っ手を引き、くるんと壁をまわして龍一のいる空間へ戻って行った。

 龍一は、羽鳥と、各店の店主、そして椿と悠馬にしかその姿を見せたことはない。
 そして、羽鳥は。
 生まれながらに驚異的な天才頭脳を持った英才児だった。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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