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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 4-10

「龍ちゃん、‘竹’から良い情報があがってきたよ」

 羽鳥は、やった! と叫んでガッツポーズを決め、いくつ並べてあるのか、沢山の携帯電話をランダムに取り上げて話しながら、難しい顔でもう一台のパソコン画面を眺めている龍一に向かって微笑んだ。にこりと笑顔を作ると、ものすごく可愛い顔になる。小鳥のようにくるんと丸い黒い瞳が夜空の果てを垣間見せる。

「なんだ?」
「呼び出した相手は間違ってなかったみたいだ。やっぱり、一つは発信元は日本、しかもあのグループで間違いないね。ちょっとフライングかと思ったけど、バッチリだったよ。同時進行がうまくまわりそうだね」
「そうか、お前の勘が当たったな」
「これで、ジャスミンへの指令が意味のある仕事になったわ。う~わ~、実はハラハラしてた。ハッカーちゃん同士の意見の一致。後は、潜伏先を割り出せればね。いったいどこに潜んでいるのかな。もしかして、関連施設にのうのうと滞在してる可能性も…」
「いや、殺し屋を抱える日本企業なんてそうないよ。そこまで背負える器のある経営者なんていないと思うね。いや、或いはよほどのバカか」
「それは、どうかなぁ。…トップには知らせずに野心のあるヤバイやつが抱え込んでいる可能性だってあるよ。それに、今は形振り構わない節操なしが君臨する世界だからね。日本だって例外じゃないと思うけどな。龍ちゃん、甘いよ」
「確かにな。もう、今まであった秩序が崩壊しているに等しいからな」

 苦笑して龍一は一点を見据える。

「ただ、分かっているのは、国内に協力者がいるってことだ。ブラックリストに乗っている筈の裏の人間がこれだけすんなり入国されているとね。まだ正体は不明だが、やつの一味は数日前から日本に腰を据えている。いよいよ狙いは俺に向いたってことだろうね」

 どこか面白そうに龍一は言った。

「それが恐らく、君が探ったどちらかでほぼ確定だろう。今、言えるのはそこまでだ」
「うん、でも…憶測ばっかりじゃね。でも、もう憶測で動き始めながら後付けで情報を積み上げている段階だから、時間も惜しいし、情報もいくらでも欲しいんだよね。それでね~」

 携帯電話をパタンと閉じて机の上に置いて、羽鳥はきらりとその瞳を光らせた。

「牡丹っているでしょ?」
「ん? ああ…」
「あの子、けっこう良い才能持ってるね。ちらりと覗き見に来た子、あれ、牡丹だったんだな。うん、なるほど」

 そして、ん~…と頬杖をついてちょっと考え込む様子を見せる羽鳥の横顔に、龍一はため息をついた。

「牡丹を助手に欲しいとか言い出すなよ、羽鳥。あの子は事務要員じゃないんだ。しかも、まだ学生だ」
「うわ、勝手なことばっかり!」
「何が勝手だ」
「じゃあ、早く弥生ちゃん頂戴よっ、いったいどんだけ休みなしで仕事してると思ってんの?」

 すう、と息を吸い込んで、仕方ないだろ、と言おうとした龍一だったが、そのまま息を吐き出して彼は頭を抱えた。

「…分かった。早急にハナシを付けるよ」
「ぜひ、そうしてね」

 羽鳥はもう画面に向かって、盗んだIDでどこやらにメールを送信していた。今、『花籠』或いは『花篭龍一』と検索をすると、強制的に検索者のIDとアドレスが羽鳥のパソコン端末に送られてくるシステムを構築してある。龍一を探そうとしている相手はこれで、引っ掛かってくる。

 しかし、当の本人はすでにそれを予測して、もう検索をかけてはこないようだ。或いは、探しても無駄だと諦めているのか。今は、周囲の雑魚程度、或いは一度そのターゲットが騒ぎまくったお陰で興味を抱いたヒマなハッカーが検索に引っ掛かる程度だ。

「それから、龍ちゃん、李緒ちゃんって、…コードネームはどうするのかなぁ? それに、報酬の支払い方法も何も決まってないんだな~」
「それは、俺に聞くな」
「うん、独り言。アカシアって今どこ? ちょっと連絡取るかぁ」

 携帯電話をざっと眺めて、一番奥に並べたメタリックブルーのスマホに手を伸ばし、羽鳥は‘竹’に連絡を入れる。これらの携帯電話は、仕事として命を奪った相手の物だったり、闇で売っている盗品などである。つまり、現在、誰かの名義になっているモノを勝手に拝借しているのだ。契約を切られてしまうまではこうやって店との連絡などに使っている。

「羽鳥、優先順位を間違えるなよ」
「分かってるけどね、まぁ、気にしないで」

 リストや名簿が整然としていないと、羽鳥はどうも落ち着かないらしい。それでなくても負担を掛けていることは分かっているので、龍一もそれ以上は突っ込めなかった。羽鳥は、もう一週間以上、ほぼ休みなしで世界各国からの情報を取りまとめ、各店と連絡を取り、龍一が一旦気配を消して引きこもった今も、こうして情報を集約しているのだ。

「ああ、でも本当に不覚。絶対オカシイやつらがウロついているのは、分かってたのに、予測出来ていたのに、警告が遅かった。もう、ヤバそう、って時点で流した方が良かったのかな。チクショー悔しい! 把握してない何人が襲われたのかな。そういえば、見舞金とかって設定ないんだけど、要るの?」
「はあ?」

 ふと考え事をしていた龍一は、思わぬ方向で終わった羽鳥の独り言に呆れた。しかし、警告の遅れは羽鳥ではない、彼の責任だ。羽鳥は、情報を収集し、解析し、更に操るだけ。決定は龍一の仕事なのだ。

「…任せるよ」
「あっそ」

 羽鳥は特に気にする風もなく、淡々と作業をこなしている。そして、時々、きらりとその目が光る。何度かメールの送受信を繰り返し、最後に満足そうににやりと微笑んだ。うっかり『花篭龍一』と検索をしたこの送信者は、さっさとIDとメールアドレスを押えられていたのだ。

「捕まえた」



 龍一の周囲には各店の店主(50~60代、松は100歳くらい)の他に、コンピューター管理の羽鳥(性別・年齢不詳)と今は『スムリティ』に籍を置いている悠馬(男性・40歳前後)、そして情報収集のプロ(人数・構成不明)が控えている。

 他に、椿と恐らく他に数名、暗殺のプロが待機している状態だ。そして、それを把握しているのが龍一本人だけで、彼は情報をパソコン管理をしない偏屈なので、むしろ、情報漏えいし難い。

 もしかして、龍一は日本国籍すら持っていないのかも知れない。
 そうなると、政府も把握出来ないし、個人としての認識・識別も不可能、税金の支払いなどから追うことも無理だろう。

 彼は古から続く奇妙な日本独特の一族。その末裔。しかし、それを知っているのも恐らく数人の店主、それから創設に関わったごく一部のメンバーのみであろう。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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