FC2ブログ

Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 3-3

 東北のローズの隠れ家を訪ねるスミレの足取りは重かった。
 遅い春の息吹がようやく冬に閉ざされていた大地に芽吹いてくる頃。今度の仕事は今までと違って、かなり妙な依頼だった。

 まず、依頼内容がよく分からなかった。ともかくローズと奈緒を東京へ呼び出すことが手始めで、仕事の内容は追って指示するというものだ。

「ぜって~、ローズが渋って、俺はまたタダ働きの憂き目に遭うんだぜ…」

 スミレはぶつぶつと呟く。それでなくても、ローズは奈緒が『花籠』の仕事に関わること、いや、この世界に関わることをまだ認めていないのだ。そんなところに仕事の依頼だと二人まとめて東京へ連れ出すことの困難さを考えると、スミレは知らずにため息が漏れてくる。

「チクショー、花篭龍一! 覚えてろよ~、面倒なことは全部俺に押し付けやがってぇ!!」

 東北までの長い車での移動も、何度か訪れて慣れてくると無意識にでも目的地に辿り着いている。彼は首都圏を本拠地として動いているので、ローズと組みの仕事のときには彼を迎えに行かなければならないのだ。

「だいたい、なんで俺がローズの説得まで引き受けなきゃならんっ」

 散々悪態をついている間に、ローズの隠れ家が見えてきた。
 いつの間にか周囲の風景は田舎らしいのどかなものに変わっていた。並木道のように道路の周辺は木々で覆われ、道路の上に春のよどんだ空が霞んでいる。

 ローズと奈緒が‘梅’の店主から借り受けている家が、周りの深い森の中に綺麗に溶け込んで良い感じの風情をかもし出している。一斉に木々の緑が芽吹く歓喜の季節だったが、スミレの心は暗澹としていた。
 ふと目を凝らすと、家の前に人影らしきものが見えた。その人物はどうも玄関先に立っている。

「んんっ? 俺の他に訪問客でもいるのか?」

 しかし、近づいて家の前に車を停める頃になって、それが誰であるのかようやく分かった。

「おう、チェリー…おっとと、もうボーイとは呼べないなぁ!」

 車を降りて、バン! と扉を閉めてスミレは思わず屈託ない笑顔を向ける。呼びかけられた相手は、やはり満面の笑みを彼に返して「スミレさんっ」と叫んだ。

「だから、‘さん’付けは勘弁してくれって、チェリー」

 苦笑しながら、スミレははしゃいで出迎えた小柄な少女の頭を撫でる。出会った当初より、彼女は大分女の子らしく、そして、綺麗になっていた。髪が肩の線を超え、さらさらと風になびく。そして、何より瞳の輝きが生気に満ちている。今の生活が合っている、そして幸せなのだろう。

「ローズは…?」
「中にいるよ。入って! 今日は泊まっていくんでしょう?」
「ああ、…いや、う~ん…どうなるかな」

 え? と玄関の扉を開けながら奈緒は彼を不思議そうに見上げる。

「だって、お仕事は明日だって言ってたよ?」
「え? 仕事? …何か他にも仕事を請け負っているのか?」
「違うと思う。だって、スミレさ…、ええと、スミレが迎えに来るって言ってたもの」
「何? ってことは、あれかい? 花篭から連絡入ってるのか?」

 奈緒と一緒に中へ入ると、そこには案の定、憮然とした様子のローズがいた。いつものテーブルに腕を組んで不機嫌そうに眉根に皺を寄せて座っている。

「入ってるよ。‘梅’の店主からついさっき連絡がね」
「なんだぁ、良かった~! またお前の説得から始めなきゃならんかと思ってたよ」

 どっかりと向かいの椅子に腰を下ろして、スミレは大きな息をつく。コーヒーの支度を始めた奈緒に、スミレは「俺はいつものスペシャルで頼むよ」とにこやかな笑みを向け、真正面からの不穏な空気を感じて、その笑顔が凍りつく。

「…ええと、ローズくん? また駄々をこねるとかってのは無しだぞ?」
「俺は、引き受けるかどうかまだ決めてないよ」
「か~っ!」

 やっぱりか…とスミレはがっくりとうなだれる。

「頼むよ~、ローズ。俺はお前のお守りじゃね~んだぞぉぉ!」


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←『花籠』 3-2    →『花籠』 3-4
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←『花籠』 3-2    →『花籠』 3-4