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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 (スムリティ) 16

 そんな幕引きで私の一ヶ月の研修も終わり、保育園の皆に見送られて帰る車の中で、劉瀞に「そろそろ帰るか?」と聞かれた。

 私は、彼を見上げて、頷いた。
 施設の子ども達の顔が浮かんだ。
 私が何か出来る場所は、あそこだ。

「また、外の世界が見たくなったらたまには連れ出してやるよ」

 劉瀞はふふん、と笑う。

「帰る前に弥生に会いたいんですけど」

 私が言うと、劉瀞は、ちらりと私に視線を落とした。

「だって…病院でずっと付き添ってもらってからお礼も言ってないし、またしばらく会えないだろうし」

 ダメだと言われそうな空気を感じて、私はちょっと焦ってまくしたてる。

「弥生も、しばらく施設に帰るよ」
「…えっ?」
「あの子は、もう少し精神的なリハビリが必要だ。一年に一度は施設に帰す。学校時代は長期休みに帰ってたから問題なかったが、働き始めてからは…ね。あの子は『外』にばかりは長くいられない。根を詰めすぎる」
「定期的に帰ってくる?」
「そうだよ」

 基本は外で生活しながら、定期的に帰郷する。なんか、田舎から都会に出た娘が盆・正月に帰ってくるみたいな感じじゃん、と思って私はちょっと嬉しくなった。

「じゃあ、あっちで話そう」
「何を?」
「レンアイ問題を」
「何?」

 劉瀞が眉を寄せるので、私は笑った。

「弥生と庄司のことですって」
「あいつら、付き合ってるのか?」
「いいえ、たぶん今はまだ」
「俺が、止めた」
「…はああ?」
「いや、まだ早いと思ったんだ。お互い、今は仕事に集中しなければならないときだから。…でも、お前はどう思う?」
「なんで、そんな恋愛沙汰にまで口を出すんですか?」
「庄司に相談されたからだよ」
「いつ?」
「かなり最近だな。お前がこっちに来てからかな。そうだ、弥生とお前とで庄司と一緒にランチを食べたって言ったことがあっただろ?その後だ。…あの日、再会したお前を見て、知ったんだろ」
「…何をですか?」
「お前は俺の手の中で幸せなんだってことをだよ」

 何を言い出すやら。私はにやつく劉瀞の言葉は無視して、さきほどの問題に戻る。

「私は、別に良いと思います。弥生は、そばで守ってくれる人が必要だし、庄司だって、支えてくれる相手がいた方が良い。何のために、誰のために戦っているのか、とても明確になりますから」

 私が真面目に答えているのに、ふと気付くと、劉瀞はにやにや笑って私を見ていた。

「何ですか」
「いや、その通りだと思ったのさ」

 そして、劉瀞は不意に私の肩を抱きよせた。

「みんな、良い子たちに育ってくれて俺は嬉しいよ」
「何ですか、それ?」

 呆れて私は彼を見上げる。35歳ったって、それほど変わらないじゃん。子ども育てたこともないくせに。何で、こいつはそういう‘親’の目線になるんだろう?

 そして、気がついた。
 そうか。こいつの目はいつでも、‘親’なんだ。支配者でも経営者でもない。だから、細かいことに配慮が行き届いて、施設の中はうまくまわっているんだろう。

「年寄りくさいですね」
「何?」

 珍しく、私の言葉に、劉瀞がムッとした。私はくすくす笑いながら、なんだか、とても幸せな気分になった。



「そういえば、劉瀞って、いつ私のことを知ったんですか?」
「初めから知ってたよ」
「それはそうかも知れないですけど。そうじゃなくて」

 そう、14歳で私は言い渡されたのだ。お前は、総帥のものだと。
 それって、誰の意思? いや、別に今さら良いんだけどさ。

「本気でお前が欲しいと思ったのは5~6年前だったかな。暴れている牛をなだめている姿に惚れた」
「はあ?」
「お前は相手を目で射る。その瞳の光に、何か大きなものを感じたんだ。絶対にこれをやり遂げる、という意思の力。それを抱いている女神。女性はとかく月に例えられるけど、お前は太陽そのものだったよ。荒々しくて朴訥として、これ以上ない澄んだ光を放っていた。そして、その魂は永遠に曇らないだろうと思えたんだ。その清い光はすべてを癒して導いてくれる。…俺の横に立つからには、そういう光がどうしても必要だからね」

 最近、劉瀞はやたらと長く話してくれるようになった。
 私が話し相手として認められたってことだろうか。

 しかし、今、目の前に繰り広げられる話は、なんだか、自分のことを言われている気がしなくて、私は茫然としてしまった。

「…それ、勘違いじゃないですか?」
「勘違いとはなんだ!」

 何故か劉瀞はムッとする。

「ええと…それって、誰の話ですか?」
「お前が聞いたんだろ?」

 放牧されていた家畜を集めるときなど、確かに私もたまに手伝うことはあった。追い立てられて気が荒くなった牛を、確かに大人しくさせて連れてきたことはあった…気がする。だって、そうしないと夕飯が食べられなかったし。でも、そんなの、誰でも普通にやってたんじゃないだろうか? だって、そっちのプロだっているんだから。

「まぁ…一番、なだめて欲しいのは俺自身かもな」

 不意に苦笑、ともつかない笑顔を作って劉瀞は私の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「あ、それなら分かります」

 私が笑うと、劉瀞は、本当にふわりと柔らかい笑顔になった。
 それは、父親が娘を見ているような慈愛の表情だ。

「よろしく頼むよ」



 劉瀞も、翔慧先生も、庄司もそして弥生も日々戦っている。そして、私も、だ。
 そこがどこであっても、大切なものを守るために。
 劉瀞が戦い続けるなら、私はどこまでも彼について支えていきたい。
 彼がくつろげるなら、束の間、その空間を守りたい。
 女は、守られているだけじゃない。守ってくれる相手を、その休息の場を守っているのだ。


 
 そして、世界を守るために、私は子ども達を育てる。
 世界が君を愛して受け入れてくれるんだよ、ってことをしっかりと感じさせてあげられれば勝ちだ。‘愛’されることを知った子ども達が作る世界を、私は夢見る。
 誰も、もう私や弥生のように、悲しい人生のスタートを切らずに済む世界が来るように。
 
 
 
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