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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 (スムリティ) 14

「あら?」

 と、その日、翔慧先生は私の身体を診察しながら、声をあげた。

「劉瀞が来たの?」
「えっ?」

 なんだか、劉瀞の表情がきまり悪そうだったので、会ったことは言わない方が良いんだろうか? と躊躇っていると、彼女は、私の胸元をとんとんと軽く指でつついて、言った。

「キス・マーク、でしょ? これ」
「えええっ?」

 と言っても、私には見えない場所で確認しようはなかったが、たぶん、本当なんだろうと思う。

「まったく、何、考えてんの? あの男は! 美咲さんがどういう状態か分かってんのか?」

 たぶん、あまり分かってないと、思います。

「まったく! 少しは自重出来んのかっ」

 憤慨する翔慧先生に、私は身をすくめる。

「すみません…」
「美咲さんに謝られてもねえ」

 翔慧先生は苦笑して、諦めたようにとりあえず私の手首にそっと触れて脈を診る。

「まあ、この分だったら、あと2~3日もすれば退院出来るんじゃないかな?」
「えっ? ほんとですか?」

 翔慧先生は何かを数えてちょっと沈黙し、うん、きっともうすぐよ、と微笑んだ。

「誰より、劉瀞が喜ぶよ。美咲さんに会いたくても、ここにはそう頻繁には来られないからね、あいつは」
「どうしてですか?」
「私がいるから」
「へっ?」



 翔慧先生の予言? 通り、私は3日後には退院して、この間より少し郊外のホテルに閉じ込められた。というのは語弊があるかも知れないが、いずれ、当分は一人では外出禁止と言い渡されているのだから、軟禁状態に近い。
一階のレストランやフロントはダメ、自由に動き回れるのは最上階の展望室とレストラン街。それから、一つ下の階にワンフロアをフルに使ったバカデカイ図書館がある。その図書館にほぼ一日中私はいる。

「もう少し体力が回復したら、ちょっと働いてもらうから」

 と、前の晩、ベッドの中で劉瀞は言った。

「え…? ど、どこで?」

 言い渡しただけで、彼はもう次のことを考えているようで、返事はない。まあ、聞いたってどうせぴんと来ないし、そもそもその場所を知らないのだからどうしようもないのだが。

「まだ、痛むのか?」

 最中に、ちょっと顔をしかめただろうか? まだ身体の傷は残っているし、痛みも完全には消えていなかった。私の隣に横たわり、背中にまわした手をぐいと抱き寄せて、絡みつくように私の手足の自由を奪いながら、脇腹に残る痣をそっと触って劉瀞は言う。

「見た目ほど痛くないですよ」
「そうか」

 なんだか、声がイヤに優しい。
 ええと…なんか、そんなに神妙にされると調子狂うんですけど。

「基本は出来てるだろうけど、理論的なことを少し勉強しておけ」

 不意に声色を変えて、劉瀞は言った。

「は?」
「保育に関する本が図書館にあるだろ?」
「保育?」
「そう。お前が働くのは保育園だ。理論的な知識もあった方が良い」
「はあ…。どこで、勉強すれば…」
「この建物のワンフロアにでかい図書館がある。そこにこもってろ」

 というわけだ。
 まあ、本を読むのはそれほど苦にならないから良いけどね。保育関係の本ばかりじゃなくて、興味本位で心理学だとか、医学関係書籍だとか、ちょっと息抜きにマンガを手に取ったりしながら、私はけっこう楽しんでいた。

 食事はその階の脇の喫茶店で適当に取れ、と食券を渡されている。
 それで、私はお腹が空いたらそこへ足を運んで定食系のものを食べているのだ。


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