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Stories of fate


ラートリ~夜の女神~

ラートリ (帰宅) 13

 その日、屋敷内には大勢の人々がごった返していた。期日の迫った支払いや予約していた宝石(いし)を取りにきた業者。その対応に追われていた屋敷の人間は、その喧騒の最中、二人がタクシーから降り立った姿に気がつく者はいなかった。

「…いったい、どうしたんでしょう?」

 瑠璃は茫然と屋敷の様子を見つめる。

「遙さんが君を後継者として公表しておけば、こんなことにはならなかったんだろうけどね」

 疾風は少し寂しそうに呟く。土足で踏み荒らされた玄関。綺麗に磨かれていた廊下。遙の書斎だった部屋も、今はどうなっているのだろうか。

「彼は、自分が不慮の事故で死ぬことになるとは思ってもいなかっただろうからね」

 瑠璃は、疾風の意図することがよく分からずに、隣に立つ彼を見上げる。

「行こうか」

 疾風は、瑠璃の手を引いて中へ足を踏み入れた。そして、客間で債権者や、宝石(いし)を待っている取引業者が居並ぶ中、その喧騒の背後から、不意に声を張り上げる。

「神宮寺の正当な継承者をお連れいたしましたよ」

 瞬間、それまでの訳の分からない喧騒は一瞬にして止み、視線という視線が二人に注がれた。奥のソファに座って頭を抱えていた継母が、瑠璃の姿に気がついて顔色を変えたのが見える。

「おお、お嬢さん! 生きていらっしゃったのですか!」

 父親と親交の深かった宝石商や採掘業者が彼女の姿に一斉にどよめいた。

「お嬢さん! なんとかしてください。もう、お嬢さんしか頼れる相手はおりません!」

 瑠璃は、よく父を訪ねていた年老いた宝石商、間島の顔を覚えていた。そして、採掘の現場に遊びに行く度に彼女にわざわざ挨拶に訪れる現場監督の顔も。彼らがわれ先に瑠璃に近づき、そして、口々に助けを求めたのだ。

「…瑠璃ちゃん」

 一瞬、圧倒されてひるんだ彼女の背後で、疾風がその背をとん、と押してくれる。

「あ、あの」

 瑠璃が口を開くと、辺りはしーんとなって、彼女の言葉を待った。

「ご迷惑をお掛けいたしました。心よりお詫び申し上げます。…私は、戻ってきました。父の事業を引き継ぐために。…お世話になった皆様に報いるために」

 微かに震えた声は、しかし凛とした響きを持っていた。考えていた訳ではなく、そうしようと思ってここにたった訳でもなく、それは彼女の口をついて出た言葉だった。

 ああ、これは父が遺したかった言葉なのだ、とその場に立ち、瑠璃は理解した。
 父が、娘に託したかった想い。

「採掘を…開始いたします。場所は…」

 瑠璃はすうっと疾風を振り返って彼を見つめた。疾風は微かに笑って頷く。その途端、瑠璃の目には青い光が宿った。

「場所は…」

 瑠璃は、山の正確な方位、緯度と経度を数値で告げた。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


なるほど、疾風を(一時的な)パートナーにしたというわけですね。
そう、前のコメントの補足(蛇足?)ですが、私がエキゾチックさを感じたのは「ラートリ」っていう言葉と、名前の瑠璃です。宝石には神秘のイメージが付き纏うんです><

いいなー、まだ年端のいかない女の子が、金や権力に目のくらんだ魑魅魍魎を蹴散らしていく感じ。痛快です。というわけで、楽しみにしています。
それから、とある少女漫画を思い出しました。fateさんはサンホラベースに本作を書かれたということなので、全く無関係なのですが、篠/原千/絵さんという方で、もう大御所古株の漫画家さんです^^
私はこの方の漫画がとても好きなのですが、「天/は赤い/河のほとり」とか「夢の/雫、黄金/の鳥籠」をふと思い出しました。時代やストーリーはもちろん別物ですが「女の子が正義を貫き頑張るところ」「ファンタジーありロマンスあり」っていうところに、イメージを重ねたのかも。
fateさんが漫画を(しかも少女漫画を)読むイメージは全くないのですが、万が一暇で暇で仕方なくて読んでもいいぜ!って思えたら、手に取られてみてください^^
#1993[2012/04/06 16:38]  たつひこ  URL 

たつひこさまへ

たつひこさん、

じ、実は…
いただいたコメントと、あちらのコメント返信とに触発され(?)なんか、ヤバい! と焦って(?)急遽、加筆するに至りました。
いや、実はですね、ずっとこれはあまりに展開が薄くて、もっとドロドロした人間ドラマが欲しい、と思っていたんです。が、何をどうして良いのか分からずに、加筆しようと思って読み返しては閉じて…のようなことを何度か繰り返しておりました。
冒頭でお伝えしたように、これ、途中で行き詰って削除しちゃおうかな~、とか思っていたのに、かつまさんという小説サイト時代からの友人に「続きどうなってますか? 楽しみにしてます」ということをおっしゃっていただき、ありゃ、ヤバいぞ、と完成させたいきさつがあるので、実はちょっと離れていて(精神的に)人物の動きを掴み切れていなかったんですな。「これは『官能』で書かれていて、削除された時はまだ連載中で、ものすごーく気になっていたのです。」と最終的にはおっしゃっていただきましたが、ううむ、もう一エピソード欲しいぜ! と、ずっと悩んでおりました。
で、たつひこさんのご感想からいきなり思い立って、昨夜、慌てて描き足しました。
はははは。即席漬け~~

fateは読者さまのご意見をやたら取り入れて増殖する(ぎゃっ、キモチ悪いっ!)ので、なんだかんだで、いろんな世界にいろんな読者さまの一部が入りこんでおります。つまり、fate worldはfateだけで作られていない、という、すでに盗作的な匂いがするんですな。

> そう、前のコメントの補足(蛇足?)ですが、私がエキゾチックさを感じたのは「ラートリ」っていう言葉と、名前の瑠璃です。宝石には神秘のイメージが付き纏うんです><

↑↑↑今更ですが、「ラートリ」とか「スムリティ」とか、サンスクリット語なんです。勝手に違う意味で使わせていただいているかも。一応、ラートリは、夜とか夜の女神とかって意味らしいっす。
ああ、宝石の名前、fateも好きです(^^)
瑠璃とか翡翠とか。
おお、分かります、分かります。宝石って、呪われた宝石伝説とかあって、ええ? それ自体に意思がっ???
って、感じがゾクゾクして良いですな~~~

> いいなー、まだ年端のいかない女の子が、金や権力に目のくらんだ魑魅魍魎を蹴散らしていく感じ。痛快です。というわけで、楽しみにしています。

↑↑↑これ、ちょっと「なるほど!」と奮起させられました。
実はそういう点にあまり重点を置いていなかったので(^^;

> 篠/原千/絵さんの「天/は赤い/河のほとり」とか「夢の/雫、黄金/の鳥籠」。「女の子が正義を貫き頑張るところ」「ファンタジーありロマンスあり」

↑↑↑おおお、良いですなぁ! 好きかもっ!!!
あれですな、「小公女」とかにちょっと通じる世界ですかね。
でも、基本、元気な女の子は好きなのに、何故かあまり出てこない。ヒロインのご友人的存在にそういう勝気で正義感強くて、どんと構えた子が出てくることはあるけど、主人公ってどっかこう、守ってあげたくなるタイプしかいない。きっとfateの理想と妄想の産物なんであろう(^^;

> fateさんが漫画を(しかも少女漫画を)読むイメージは全くないのですが、万が一暇で暇で仕方なくて読んでもいいぜ!って思えたら、手に取られてみてください^^

↑↑↑ちょっと笑いました。
はははは。そうですかね~~~???
確かに最近は「本」自体読まなくなったので。でも、古本屋での立ち読みはよくやります。漫画でも人生哲学書のようなものでも、或いはエッセイ集等など。
はい~。いつか延々と立ち読みをやらかしてみます!
ああ、しかし、これは、そんな痛快な展開にはならないので、ちょっと心苦しい…
(ドキドキ…)
#1995[2012/04/07 12:33]  fate  URL 














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