雪が溶け、大地が顔を出す頃、疾風は約束通り瑠璃を神宮寺家へ送った。無意識に辿ってきた逃避行への道のり。その行程を引き返している筈なのに、瑠璃にはまったく覚えがなかった。
淡々と家路を辿りながら、継母に再会する憂鬱と継兄にたいする恐怖。そんなものを幾度もその身にリアルに感じ、身体が竦む。そして、凍り付いている彼女をそっと労わるように、疾風が静かな眼差しを向けていることに気付き、瑠璃はほっと息を漏らす。その繰り返しだった。
「疾風は、この後、どちらへ向かうんですか?」
「この後?」
「…あの、私を家に送った後は…」
「そうだね、どこかな」
「あのっ」
相変わらずの含み笑いのような横顔に、瑠璃は思わず声をあげる。賑やかな電車の座席。特に彼女に注意を払う者はいなかったが、瑠璃は幾分はっとして頬を染める。
「あの…しばらく、屋敷に滞在していただけませんか?」
疾風はその言葉にふと視線を落とし、答えずにただ微笑んだ。瑠璃はそれを肯定と受け取り、ほっとする。家に戻る憂鬱より、家族への嫌悪より、何故か彼と暮らした土地を離れることが瑠璃には不安だった。そして、その心許ない揺らぎは、もしかして疾風の心の模様ではないかと彼女は感じる。
それが、怖かった。
何故か分からない。彼を失うことが何より怖かった。
疾風が予想していた通り、今、神宮寺家は散々な状態だった。
正当な主を失った神宮司家。
宝石(いし)の魔力にとり憑かれ、利権に目がくらみ、それらを奪取せんがために正当継承者の瑠璃を貶め、その意志を自由に出来ないと分かると地位を剥奪した母子。
彼らは手にした利権を行使しようとして、神の言葉を聞くことなく採掘を開始した。
しかし、気まぐれで傲慢な女神。
それを知っている遙の代からの採掘業者は手を引き、新たな当主たちは独自に自らの息のかかった会社にその作業を任せた。
しかし、彼女の声を聞くことの出来ない余所者をラートリは嘲笑い、採掘現場へ足を踏み入れた作業員の命を悉く奪っていった。彼女の怒りは激しく、もう、山へ近づくことも儘ならない。
ラートリの宝石(いし)は、ここに採掘不可能となった。
宝石(いし)の出荷がまったく滞り、主な収入源であるラートリの宝石(いし)の出荷停止は文字通り死活問題だった。それまで、取り引きをしていた業者も、請け負ってきた業者からも非難を浴び、神宮寺家は今や破滅寸前だった。
淡々と家路を辿りながら、継母に再会する憂鬱と継兄にたいする恐怖。そんなものを幾度もその身にリアルに感じ、身体が竦む。そして、凍り付いている彼女をそっと労わるように、疾風が静かな眼差しを向けていることに気付き、瑠璃はほっと息を漏らす。その繰り返しだった。
「疾風は、この後、どちらへ向かうんですか?」
「この後?」
「…あの、私を家に送った後は…」
「そうだね、どこかな」
「あのっ」
相変わらずの含み笑いのような横顔に、瑠璃は思わず声をあげる。賑やかな電車の座席。特に彼女に注意を払う者はいなかったが、瑠璃は幾分はっとして頬を染める。
「あの…しばらく、屋敷に滞在していただけませんか?」
疾風はその言葉にふと視線を落とし、答えずにただ微笑んだ。瑠璃はそれを肯定と受け取り、ほっとする。家に戻る憂鬱より、家族への嫌悪より、何故か彼と暮らした土地を離れることが瑠璃には不安だった。そして、その心許ない揺らぎは、もしかして疾風の心の模様ではないかと彼女は感じる。
それが、怖かった。
何故か分からない。彼を失うことが何より怖かった。
疾風が予想していた通り、今、神宮寺家は散々な状態だった。
正当な主を失った神宮司家。
宝石(いし)の魔力にとり憑かれ、利権に目がくらみ、それらを奪取せんがために正当継承者の瑠璃を貶め、その意志を自由に出来ないと分かると地位を剥奪した母子。
彼らは手にした利権を行使しようとして、神の言葉を聞くことなく採掘を開始した。
しかし、気まぐれで傲慢な女神。
それを知っている遙の代からの採掘業者は手を引き、新たな当主たちは独自に自らの息のかかった会社にその作業を任せた。
しかし、彼女の声を聞くことの出来ない余所者をラートリは嘲笑い、採掘現場へ足を踏み入れた作業員の命を悉く奪っていった。彼女の怒りは激しく、もう、山へ近づくことも儘ならない。
ラートリの宝石(いし)は、ここに採掘不可能となった。
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