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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 (スムリティ) 9

 男たちの要求が何なのか、劉瀞の苛立ちを知っている私はなんとなく分かっていた。

 施設にいる子ども達を、彼らは欲しがっているのだ。海外へ売るために。変態オヤジのペットとして。或いは臓器移植の提供者として。

 劉瀞は、彼らに捕まって売り飛ばされそうになっていた子ども達を奪って、施設に匿ったりもしていた、らしい。それで恨みをかっているのだ。やつらも、取引先への言い訳が立たないのだろう。商品が消えましたでは済まないだろうから。

 そういう闇の犯罪に対して、警察が役に立たないとは言わない。各国の警察機構は頑張っているだろう。しかし、闇には闇で対抗するしかないこともある。

 劉瀞が、けっこう名の知れたマフィアとつながりがあることも私は知っていた。
 警察と取り引きをしていることも。

 それが‘悪’だとか、モラルがどうとか、私は思わない。劉瀞は、彼が使える手段を使って、自分が出来ることをしているに過ぎない。

 理想を語ることも夢を語ることも必要だが、それはそれとして、今、目の前にあって出来ることを積み重ねるしか、私たちに形に出来る現実はない。そういうことだと思う。

 劉瀞を止めたくは、ない。



 それでも、私は僅かの間、意識を失っていたらしい。

 次にはっと気づいたのは、複数の男の話し声が聞こえたからだ。ゆっくりと視線だけを動かすと、そこには似たような服装の男たちが3人ほどいた。

 初めからいた男と、少し白髪の混じった背の低い男と、更にどう見ても私くらいの年齢のごく若い茶髪でピアスをした少年がいた。

 初めの男が何か指示を出したらしく、少年はちらりと私の方を見て扉から去っていく。そして、白髪の男が促されて携帯電話を出して通話を始めた。ぼそぼそと低い声で何を話しているのかはよく聞き取れない。
私はというと、縛られてはいなかったが、まだ動けるような状態ではなかった。扉の脇に転がされたまま、先程よりもむしろ状態は悪かった。痛みに伴う吐き気のようなものと眩暈で気分が悪かった。どこか内臓をやられているのかもしれない。

 ちょっと…マズイ。

「さて、お嬢さん。名前を聞いておこうか?」

 不意に電話をしている男から視線を外して若い男は私に近づく。男は私の前にしゃがみ込んで顔を覗き込み、そしてまったく動けない私の髪の毛を掴んで顔をあげさせた。

 そんなの、素直に答えると思っているのだろうか?

「やつの女だ。マトモな素性の人間じゃないんだろ? 買われたのか?」

 マトモじゃなくて悪かったわね。
 睨み付ける気力もなくて、私は虚ろに視線を彷徨わせる。

「まあ、良い。劉瀞には誰のことか分かってるだろう」

 くっと笑って、男は手を離した。

 マズイ…、と私は思った。眩暈がひどくなってきた。私はそんなやわなはずはなかったのに。よほどマズイ場所を蹴られたらしい。吐きそうだ。

 劉瀞…。
 結局、私は他に誰の顔も浮かばない。こんな風に迷惑掛けたくなかったのに、ごめんなさい。
 劉瀞…、助けて…。



 その後、男二人はどこかに電話をかけ続け、いつの間に設置していたのか小型のカメラが私を撮影していた。

 恐らく、その映像を劉瀞に送っているのだろう。私のバックは何の変哲もない土色の壁と畳のみで、この場所を示すような何も映らないようになっている。

 突然、猛烈な吐き気が襲い、私はほとんど残ってはいなかったが、僅かに未消化の胃の中の内容物をその場に吐き戻した。頭がずきずきと痛み、目の前の男の顔が歪んでぐるぐるまわる。

「おい、大丈夫か?」

 白髪の小柄な男が心配そうに若い男に問いかける。

「死んだって構いはしないよ」
「…そんな指示は受けていない。映像を流している以上、生かしておかないと切り札にはならないだろう」

 ふん、と若い男はせせら笑った。

「おい、どうした? 大丈夫か?」

 白髪の男の手が私に触れた。倒れたまま吐いたので、私の顔は吐物まみれだ。私の身体を引きこして、その手は何か布で私の顔を拭いてくれた。

 そういう知識はあるのだろう。その男は私の身体を横向きに寝かせ、再び吐いても吐物が喉に詰まって窒息しないような体制にしてくれた。

「時間は?」

 小柄な男は立ち上がって腕時計を見た。

「リミットはあと30分。返答がなければ、今度はこいつの腕を切り落とす」
「それまでに死んでしまったらどうする」
「死にやしないよ」
「こんなに痛めつける必要なんかあったのか?」

 次第に二人の会話もよく分からなくなってくる。
 ああ、もしかして私はこのまま死ぬかも知れないな。
 初めて、そんなことを思った。

 そんなことを考えたことは今までなかったのに、不意に‘死’を身近に考えた。そして、その途端、思いもしなかった感情が湧き起こった。

 そして…!
 次の瞬間、何が起こったのだろう? その部屋の中は不意に真っ白な閃光に包まれ、私は一瞬、目がくらみ何も見えなくなった。

 大きな音が響き、叫び声が聞こえた。喧騒の中、私も何か叫んだかもしれない。もう、何もかもがよく分からなかった。

 視界がまったく利かない状態で、私は不意に誰かの腕に抱えあげられた。
 それが誰の腕なのか分からない。どちらの男だったのか。
 しかし、そいつは私の耳元でささやいたのだ。

「生きてるか? 大丈夫だな?」

 知っている声だった。
 私は思わず声をあげそうになった。

 庄司っ?
 
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