FC2ブログ

Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 2-14

 エレベーターに飛び乗った社長はその狭い個室の中で傍に付き添ってきた男に散々悪態をつく。高い金を支払って警護を任せていたのにこのザマはなんだ、と。

 それは確かにその通りだ。こんな白昼堂々の奇襲に、彼らは言葉もない。

 甘んじて社長の罵倒を受けながら、男は逃げ道の確保を画策する。恐らく、刺客はあの女一人ではないだろう。そして、夫人もなんとかお連れしなければならない。

 エレベーターをおりて、一歩外に出た途端、目の前にはごったがえす人々の群れがあった。社員を初めとする客や警備員。

 やや気おされながら、社長の前をなんとか道を作って彼は裏口へ向かう。そのとき、不意に少年が目の前に現れた。いや、少年ではない。細身の青年だ。彼はおろおろと何かを探しているようで二人の行く手を遮っている。

「おい、君、邪魔だ。ちょっと避けてくれ」

 声を掛けると、彼は顔を伏せたまま「すみません」と呟いて脇へ避けた。そして、社長が彼の横を通り過ぎようとしたとき、彼が腕を出して社長の服の裾を掴んだ。

「あの…」

 周囲の喧騒で声がよく聞き取れない。しかし、次の瞬間、社長が「ぎゃあああああっ」という断末魔のような悲鳴を上げた。

 驚いて彼が社長に視線を移し、彼の大きすぎる身体を支えようとしたときには、その青年の姿は消えていた。



 夫人の傍に一人残された男が、息絶えた社長の一人息子を担ぎ、夫人を共に階下へ連れて出ようとしたとき、不意に部屋に風が入ってきたような気配を感じた。白いモノが視界の端をかすめ、担いだ男の重さに素早い身動きが取れずにいる間に、すすり泣いていた夫人の声が不意に止んだ。

 そして、彼が夫人を振り返ったとき、彼女は辺りを真っ赤に染めながらすさまじい形相で空(くう)を睨み、ゆっくりと仰向けに倒れていくところだった。

 はっとして彼が周囲を見回したときには、扉を出ていく白い影が見えたような気がしただけだった。



 その後、大分経ってから警察が入ったが、すでに内部は混乱を極め、収拾がつかなかった。しかも、会社側は隠したいことがあり過ぎて、誰がどうやって亡くなったのかを誰も説明しようとしない。そうこうしている内に、6階に潜んでいたヤマカガシが見つかり、すべてはその蛇の仕業に仕立て上げられてしまった。

 そして、後日、捕えていた筈のその蛇まで忽然と消え去っていたのだ。



関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←『花籠』 2-13    →『花籠』 2-15
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←『花籠』 2-13    →『花籠』 2-15