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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 2-3

 慈善施設を名乗っている私設の孤児院。まったくの身寄りのない子ども達を入所させているそこは、子ども達を親や親戚に会わせる必要もなく、誰に内情を説明する義務もないため、裏ではかなり酷いことになっているらしかった。入所している子ども達を不法に働かせたり、売春をさせたり、ポルノ映画に売ったりと、やりたい放題だったと言われる。

 しかし、それを知るのは中の人間だけ。売っている側と被害者である子ども達だけだ。そして、そこは知的障害を持つ子や、日常的な虐待に寄る心に傷を持った子たちが多く、施設を逃げ出したら生きていけない子ども達ばかりで、なかなか被害が公にならなかった。

 今回、花篭に助けを求めたのが、そこの卒業生だった。
 性的虐待を受けながらもそこを卒業し、一生懸命働いて貯めたお金で、彼女は後輩たちを救って欲しいと組織の噂を人づてに聞いて依頼してきた。

 狙うのは施設長のみ。
 彼が殺されたら、他の職員もその意味は分かるだろうと。

 依頼料の相場には到底及ばない金額だったが、龍一は貧乏人からはあまり金額にこだわらずに引き受ける癖があった。彼が欲しいのはむしろ、仕事を請け負う明らかな理由だ。彼女がそれまで貯めたすべてのお金で依頼してきたとき、彼は仲介してきた‘竹’の店主に承諾する旨を伝えた。

 そして、出来るだけショッキングな殺しを、ということでジャスミンが選ばれた。

 その日、下調べもほとんどなしで、さっさと仕事に向かったジャスミンが施設長の私室を訪ねたとき、彼は施設の少女を一人部屋に連れ込んでいた。

 泣き叫ぶ少女をベッドに組み伏せていた中年のオヤジは、鍵のかかっていた筈の扉が音もなく開いた気配に、ぎくりと驚いて振り返った。そして、立ち上がって相手の顔を確認する間もなく、次の瞬間には喉元から血が噴出していたのだ。

 まるでストップモーションのように、声もなくゆっくりと倒れていく男を、少女は茫然と眺めていた。半分引き裂かれた服と、涙の浮かんだ瞳で。

 殺人者は、倒れた男には目もくれずに、すっと彼女に視線を移した。ほんの一瞬、ぴくりと彼女は反応を示し、その瞳に恐怖の色が宿った。近づく男の気配に、僅かに後ずさる。悲鳴を上げる気には何故かならなかった。

 見据えられたまま身動きすら取れなくなり、彼女はまるで感情のない冷たい男の目を吸い寄せられるように見つめ返した。

 殺人者は、ふと足元に散らばる個人カードを手にし、数枚を拾い上げてその中の一枚をじっと見つめる。それにはぼんやりとした白黒の写真が貼ってあった。ぼやけた写真ではあったが、個人の識別は可能だ。

「…土岐田李緒。18歳?」

 少女に視線を移し、彼は微かな笑みを浮かべる。ぞくりと彼女の背筋に冷たいものが走った。すうっと男の手が首筋に伸び、一瞬彼女は目の前がぼやけ、ある映像が重なった。

「…っ!」
「見たことは忘れて、って言っても無理だよねぇ」

 片手で李緒の首を捕え、男は目を細める。瞳の奥の光が暗く宿り、決して彼は笑っていないことだけが分かった。
 李緒は、見上げたその殺人者の瞳に、その空気に、強烈な郷愁のような、奇妙な感覚を得た。
 それはまるで‘憧れ’のような…‘恋’のような。

「…誰?」

 血しぶきを浴びた手で、頬を撫でられ、李緒は一瞬意識が飛びそうになった。嫌悪でも恐怖でもない。何か恍惚とした感覚が彼女を支配し、視界が真っ白に霞んだのだ。

「誰?」

 李緒は男に繰り返す。

「俺? 聞いてどうするの?」

 黒尽くめの男は笑う。不意に瞳に光が宿る。

「とりあえず、一緒に来てもらうかぁ」

 李緒はその甘いテノールの声にぴくりと反応する。そして、まるで何かに操られるようにゆっくりと頷いた。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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