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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 2-2

「殺人現場を見られただぁ?」

 アカシアが素っ頓狂な声を上げ、牡丹とアイリスがシーッと慌てて彼を制す。
 当のジャスミンは浴びた返り血をシャワーで洗い流しながら、鼻歌を歌っている。

「誰に見られたって?」

 アカシアは、このグループのリーダーで40代半ばの剣術士。体術で、相手に致命傷を与えることも、動けなくするだけのことも出来る。見た目は多少目がきつい程度のその辺のサラリーマンと変わりがない。スーツを着て通勤電車に乗っていればそれほど違和感なく受け入れられるだろう。

 牡丹は19歳の男の子。人の好さそうなごく普通の少年だ。どちらかと言えば好男子の部類であろう。細面で鼻筋がすうっと通っている。そして、普段は目元がとても優しい。蛇使いという特技を除いては、彼は普段は大学生で、仕事が入れば召集される。

 アイリスはチームの中で唯一の女性。年齢不詳だが、30代半ばと思われる。彼女は毒薬の調合士だ。相手の体格や体重などを判断し、どのくらいの時間でどの程度効かすのかを調整できる。

 そして、ジャスミンはナイフ使い。25歳の格闘家で、彼のナイフ裁きは舞いのように華麗だ。

 仕事を終えて帰ってきたジャスミンと、次回の大きな仕事のために直接指示をもらいに出かけたアカシアがたった今戻って来たところで、今日は4人全員が勢ぞろいしている。

 ここは、アカシアが所有の古びた一軒屋で、現在ヒトは住んではいない。たまに彼が塒に使う程度で、ほとんど一箇所に留まらない彼の隠れ家のひとつだ。

 玄関を入ったすぐの、一見リビングのような生活空間。その中央にあるテーブルの周りに適当に並べられたソファにそれぞれが座っていたのだが、いつになくご機嫌で帰ってきたジャスミンが、バスルームに消える間際に爆弾発言をして行ったのだ。

 彼らはローズやスミレと同じ。依頼を受けて仕事をこなす。中でも特出した殺人のプロだ。
 その、仕事を誰かに見られたなんて洒落にならない。

「珍しいですね、ジャスミンが失敗なんて」

 牡丹は傍らに座るアイリスに視線を走らす。彼は扉に背を向けた位置に座っていたので、扉は見えていない。バスルームは部屋の入り口に位置し、二人ともジャスミンが帰ってきた気配を背後に感じ、仕事を見られた子を連れてきちゃったよ、と一言残してバスルームの扉の中に消えた彼の言葉を「えええっ?」と聞いただけだった。

「失敗っていうのか…、今、どうもその目撃者と今仲良くシャワー浴びてるらしいんだけど」
「はああ? いったいどういうことだよ、それ! だいたい、どういう状況でそんなことになったんだ?」

 アカシアがイライラと口を開いたとき、バスルームの扉が開いて噂の本人が出て来た。

「あ、アカシア、おかえり~」

 バスタオルを腰に巻いたまま、ご機嫌に頭を拭きながら出てきたジャスミンと、彼にまとわりつくように一緒に出てきた女の子を見て、一同は唖然とする。ジャスミンがバスルームに消える瞬間を誰も見ていなかったのだ。まだ10代後半…程度の、若い女の子がやはり同じようにバスタオルを胸に巻いて、怯えているというより、むしろきょとんとあどけない表情でジャスミンの背後に隠れるように立っていた。

「ジャ…ジャスっ、なんだ、それ…」

 さすがにアカシアも一瞬言葉を失う。

「ええと、だから目撃者だよ」

 ごしごしと頭を拭きながら、彼の顔はタオルに覆われて見えなくなる。女の子はどこか興味深げに茫然と二人を見つめる3人を観察する。そして、不意ににこっと微笑み、ジャスミンの腕にしがみついた。

「何やってるんだ? お前。ど、…どうするんだよ」
「とりあえず、逃げられないように鎖でつないどこうか」
「アホか。トイレや食事はどうするんだ?」
「…じゃあ…」
「っていうか、どうして連れて来ちゃったの?」

 ようやく息をついて、呆れたように彼を見つめたアイリスの声色に、ジャスミンは屈託なく答える。

「この子は依頼に入ってなかった」
「それは…そうだろうけど、見られたら…」
「この子はさ、俺のターゲットにレイプされかけてたんだよ。やつは、この子の目の前で血まみれになって息絶えたんだ~」
「げっ! …何、それ? 最悪~!」

 ジャスミンは、にこりと彼女を見下ろし、どこかぼんやりしたままの彼女の顔をくい、と自分に向けさせる。小柄な彼女は、それでも18歳だという。肩までの髪の毛がさらりと揺れ、瞳には何の色も浮かばない。

「名前は李緒ちゃん。あの施設をようやく出て、これからってときに捕まったらしいよ。あの屑の施設長に」
「施設の子をレイプして売春させてたって、マジに本当だったわけね」

 アイリスが、軽蔑したような冷たい口調で言った。

「そう。ゴミ掃除してきたってことさ」
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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