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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 1-18

「お前…チェリーを構いすぎだぜ、ローズ」

 翌日、東北へ戻る路上でスミレは助手席のローズを横目でちらりと見る。今回の仕事は、結局、復讐までを請け負ってのなかなかヤバイ現場になり、彼らは終了次第、早々に引き上げた。宿を岐路の途中て取ったので、もう半分の距離は戻っていた。あと数時間で高速は下りる。その後、ローズの借家のある山の麓まで1時間ちょっとだ。

「何のことだ」

 どこか憮然とした表情になって、ローズは不機嫌な声を出す。

「好きにさせてやれよ。あの子だって、何にも考えてない訳じゃない。ガキでも‘女’だ」
「俺は、あいつの親代わりだ。心配して何が悪い」
「はあ? …だって、抱いてるんだろ?」
「あの子には指一本触れちゃいないよ」
「ええ? しかし、あの家、寝室がひとつしかないだろ?」
「ベッドはもう一台買った」
「じゃ、それまでは?」
「俺はソファで寝てた」

 スミレは呆れた顔をして相棒を見つめる。

「…お前。…チェリーが不安になるのは、だからだよ」
「どういう意味だ」

 ローズは眉間に皺を寄せる。

「親だったら、添い寝のひとつもしてやるだろうし、それ自体別におかしいことじゃない。あの子はそういうことに飢えている。そうじゃなかったら抱いてやれよ。あの子はお前に恋してるじゃないか」
「何を言ってる…」
「お前が親でもない、男でもない、中途半端にあの子を構うから、チェリーは不安になってお前との関わりを欲しがるんだろうが。この世界に関わって、何かでつながっていないと、不安で仕方ないんだよ」

 ローズは反論しようと口を開きかける。

「まぁ、聞けよ。チェリーは、お前に恋してる。それは紛れもない事実だ。本人が気付いてるかどうかは知らない。だけど、俺はお前らが知らないことを知ってるんだよ」
「何のことだ」
「言ったろ? あの夜、俺はあの場にいたんだ。お前がチェリーを抱いた夜。あの子は、最後まで決してお前から逃げようとはしなかったし、泣き喚いて俺に助けを求めたりもしなかった。怯えてはいたが、お前を見上げる目はむしろ‘女’の目だった。お前になら、何をされても良いと思ってたんだろ」

 ローズは呻いた。

「本当だぞ? あの子ももう覚えてないかも知れないが、チェリーは、自ら選んでお前に抱かれたんだ。決して無理やりじゃなかった。それだけは断言する。…まぁ、他人の情事をあんなに息を詰めて監視するなんて、俺も滅多にない経験をしたがな」

 最後にはにやりと笑って、スミレは押し黙ってしまった相棒をちらりと見た。

「良いと思うぜ、俺は。あの子は、良い子だし、一生懸命だ。頭も悪くない。お前の良いパートナーになれるよ」
「…この世界に引き込むつもりはない」
「じゃ、もう開放してやれ。お前がそばにいちゃ、あの子は他の男なんて目に入らない」

 ローズは、もう何も言わなかった。

 今回、ローズは仕事のついでにあの空き家に戻り、袋に詰め込んだまま放置していた奈緒の制服を処分してきた。そのとき、ふとこぼれ落ちた生徒手帳に、彼女の本名を知った。

『三上奈緒』
 そして、誕生日が真夏だったことも。

 ローズは、自分の正確な誕生日を知らない。親の顔も知らない。彼は孤児で、施設で育ち、この組織に拾い上げられたのだ。

 親の愛を知らないから、彼は愛を求めない。そして、他人に執着を抱くこともなかった。
 それなのに、この思いはなんだろう?

 今、スミレに、彼女をもう解放してやれ、と言われて、彼は愕然とした。
 奈緒がいつかいなくなってしまうことを、彼女を失うことを、ローズは考えたことがなかったのだ。



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