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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 1-14

 翌朝、ローズは鈍い頭痛と共に目覚め、腕に何か柔らかいものを感じた。特に深い考えもなくそれに視線を落とし、そこに青い顔をして眠っている少女を見つけて愕然とする。

「…え? …チェリー…?」

 彼女の身体は、首筋から胸元にかけて紅い花が散らされ、腕や手首には押さえつけられたような痣がうっすらと残っている。頬に幾筋もの涙の跡があり、はっとして身体を起こすと、シーツには血の染みが残っていた。

「…おい」

 ローズは、もう一つのベッドで、こちらも死んだように眠っているスミレに声を掛ける。

「おい!」
「…なんだよ。…今、何時だ?」

 まだ目を閉じたまま、スミレは呻いた。手が、だるそうに枕元を探り、時計を掴むとそれを顔の前に持ってきて、半分だけ目を開ける。

「なんだ、まだ6時前じゃないか」

 スミレはそのまま再度眠り込もうとする。奈緒の身体に毛布を掛け直しながら、ローズはそろそろとベッドを出る。そして、スミレのベッドにふらふらと座り込みながら、彼の身体を乱暴に揺する。

「おい、これはどういうことだ!」
「…なんだよ、頼むよ、結局、俺らが眠ったのは3時くらいだぞ?」
「どういことなんだっ」

 ローズは混乱していた。ホテルに着いてからの記憶はほとんどない。大抵、その夜を共にした相手のことも覚えてない。彼女らはコトが済めば帰ってしまうので、相手が誰か知ることもない。

「…この子と、他に部屋を取るんじゃなかったのか…?」

 昨日の僅かに残っている記憶を手繰り寄せながら、ローズはスミレの身体を揺すぶり続ける。

「ちょっと手違いがあって…」

 スミレは、目を開けずにもごもごと言う。

「何だって? おい、俺は…俺は、この子を抱いたのか?」
「大丈夫だよ。俺がずっとそばにいた。最悪の結果だけは回避したよ。大丈夫、生きてるだろ?」
「生きてる?」

 慌ててローズは、奈緒のそばに寄り、微かな呼吸を確かめる。頭の中は混迷を極め、身体が震えていた。
 役に立ちたい。必要とされたい。ここに居て良いと言って欲しい。

 ずっとずっと奈緒の目が、そう言ってローズを見つめていた。視線を感じて振り向くと、気付いてくれたことにぱっと嬉しそうな顔をする少女を、複雑な思いで見つめてきた。

 罪もない子どもが、目の前で殺されるのを黙ってみていられずに思わず買い取ってきた。早く言えばそれだけだった。

 もともと、花篭は、趣味で仕事を選ぶ酔狂な男だ。えげつない殺人や金目当ての犯罪は断る傾向があった。だから、ローズ自身、反吐が出るような犯罪に手を貸すこと自体が少なく、仕事として与えられる役目にそれほど嫌悪を感じることがなかった。

 他人の闇を垣間見る能力自体、温かさを求める人間だからこそ、神が与えたモノであろう。

「…おい、どうしたんだよ? お前、また発作か?」

 蒼白な表情で少女を見下ろしているローズの様子に気付いて、スミレはやっと身体を起こす。

「なんで、止めなかった…」

 ローズの声は震えた。

「止めなかったと思うのか?」

 スミレは、ため息をついた。

「俺を殺してでも止めろ!」
「バカを言うな…」

 スミレは少し驚いて、少女を見下ろして茫然と立ち尽くすローズを見つめた。

「いったいどうしたんだ、ローズ。大丈夫だ、その子は眠っているだけだ。しばらく動けないかも知れないが、それは疲労に寄るものだ。すぐに回復する」
「なんで、止めなかった…!」
「ローズ、あの状態のお前を止められると思うのか?」

 スミレは昨夜の彼を思い出し、眉間に皺を寄せる。いや、実際、不意をついて背後から力ずくで押さえ込むことが出来なかった訳ではなかったかも知れない。しかし、そんなことをしたら、ローズの精神は間違いなく崩壊してしまっていたのだ。

 ローズは、ふらふらとその場に膝をついた。

「…こんな…こんな目に遭わせる為に連れてきた訳じゃなかったんだ…っ」

 奈緒の小さな手をそっと握って、ローズは呻いた。その打ちのめされた彼の様子に、スミレは黙った。そして、頭を抱えてうなだれ、呟いた。

「そんなこたぁ、分かってる。…悪かった、俺のミスだ」


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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