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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 1-9

 喪服を身に付け、髪型を変え、顔の表面にちょっとした細工をして変装をしたローズと、葬儀社の人間にしては体格が良すぎてどこか不穏な空気を抱くスミレ、そして、顔が少し隠れるくらいの長い髪の鬘をかぶってブレザー姿の奈緒。近くの空き地で二人を下ろし、スミレはそのまま関係者用の駐車場へ向かい、葬儀社の腕章を見せて入れてもらう。

 まばらにその家に向かう黒い列に紛れ込み、二人は受付を済ませて会葬を終える。一般家庭の葬儀なので、自宅で執り行われ、親族以外は焼香を済ませて帰っていく。祭壇の飾られている部屋は12畳ほどだろうか。遺族の席には母親らしき女性が鎮痛な面持ちで一人座っていた。ひとつ座布団が空いているところを見ると、今、父親は席を外しているらしい。

 これからが本番だ。奈緒はドキドキしながら、母親の元へと向かう。ローズは、近くで焼香を終えて集まって何かを話している親戚らしい群れのそばで、その様子をさり気なく見守る。

「この度は…その、ご愁傷さまです」

 震える声で奈緒は母親らしき女性に声を掛ける。この場では、緊張して震えているのか、悲しみのためなのかの判別は難しい。

 母親は、青い顔で静かに会釈を返す。相手が見知らぬ女の子であることも、彼女にとってはもう、どうということはないのだろう。

 奈緒に与えられた事前情報。

 亡くなったのは、柏木篤志(あつし)。高校2年生。ここ数ヶ月ほど、彼は何か悩みがあるようだった。しかし、それが‘死’をも覚悟するほどのものだったとは、家族の誰も分からなかった。亡くなった当日も、彼は普通に登校していき、家族は特に不審に思わなかった。

 しかし、次に発見されたのは、翌日、近くの大きな用水路の中で、水死体となった姿だった。
 彼は、その水路の脇によく遊びに出かけていたらしい。

 それで、何かの拍子に誤って転落したのではないかという、警察の見方だった。周辺に争った跡もなく、他に誰かがいたという目撃情報もない。ただ、何故、彼が学校とは経路が違うそんな場所に向かったのか分からなかった。

 事故などではない、と家族は言い張ったが、警察はもう取り合ってくれなかった。

 他殺ではないにしろ、自ら‘死’を選んだなら、原因がある筈で、それに関わった人間がいる筈だと母親は考えた。せめて、本当のことが知りたいと。そして、もし、彼が何かの事件に巻き込まれて、そして、犯人がいるのなら、どうしても‘復讐’したい。それが依頼内容だった。

「あの…私、羽澤といいます。篤志くんと、たまにあの水路の近くで会ってました」

 それで…、と言い掛けようとした瞬間、母親ははっと顔を上げ、奈緒の手を取った。

「あの水路の近く? あそこであの子に会ったんですね? あの子はどうしてました? 何か言ってませんでしたか?」
「あ…あの、違うんです。…その、当日にはお会いしていないんです。」

 必死な表情の母親の様子に圧倒されながらも、奈緒は慌ててそう答える。

「その…以前に何度かお会いして、一度、落し物を拾ってもらったことがあって…」

 奈緒は、ふとその情景を思い浮かべ、映画を観るようなその光景に表情が和む。

「とても、嬉しかったんです」
「…そう…そんなことが…」

 母親は涙を浮かべる。

「それなのに、こんなことになってしまって…。その、私、篤志くんが見せてくれる、って言ってた宝物を、せめて最後に見せていただきたくて…それで、お願いに来ました」
「宝物?」
「ええ。それが何、とは言わなかったんですけど、一番、大切にしている物だ、って」
「…あの子は、音楽をやりたがっていたから、楽器の類かしらね…」

 音楽、と聞いて奈緒は適当に答える。

「楽譜か何かだったのかも知れません。いつか、そんなことを…」
「楽譜? …ああ、そうかも知れないわ。あの子は、先輩から譲り受けた曲を、それはそれは大事にしてました」

 楽譜くらいなら、持ち出せる、と思った奈緒は、そっと言ってみる。

「あの、見せていただけますか?」

 母親は、奈緒の顔をゆっくりと見つめた。もしかして、いつか息子に紹介されたかも知れない女の子。彼女の目にはそんな風に映ったのかも知れない。

「良いわ。こちらへいらして」

 母親は、奈緒を連れて奥へ入って行った。


 
 一見、無表情に二人の会話を聞いていたローズは、ほっとして安堵の息を漏らす。奈緒は、なかなかうまくやっていた。しかし、ふと彼は母親に従って奥へ行きかけた奈緒を、訝しげに見つめている女の子の姿を見つけてぎくりとする。その子は、奈緒が借りたのと同じブレザー姿だった。

 本当に、篤志には城南高校に知り合いがいたのか?

 戻ってきた奈緒が、その子に話しかけられたりしてはマズイ。出来れば早々に帰って欲しかった。しかし、その子は一向に立ち去る様子がなく、どうも、母親を待っている風だった。

 彼女が戻ってくる前に、その子をどこかへ引き離さなければならない、とローズは思った。


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