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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 1-5

 安いホテルのツインルームを一つ取り、追加で簡易ベッドを一つ入れてもらった。

「チェリー、お前は先にバスルームを使って着替えな」

 ローズは、部屋の備え付けのポットでお湯を沸かし始める。スミレは、物資の調達及び事前の現場の下調べに出かけていた。奈緒は、おどおどとローズを見上げて、呼ばれ慣れない名前を反芻する。そして、もう視線を合わせてくれない彼の背中を見て、彼女は質問を諦めてそろそろとバスルームへ入って行った。そもそも、奈緒は何を聞いて良いのかよく分からなかった。

 コーヒーを淹れながら、抽出されていく黒い液体を見つめてローズは考えていた。

 今回、スミレが引き受けてきた依頼は、ある一般家庭の葬儀に参列することだった。そして、亡くなった人間を殺した犯人を探す。

「殺人事件? …だったら警察が動いているだろうが」
「いや、事件じゃないらしい。…というか、事件にはならなかったそうだ。自殺か事故か…ってところで、事故死で処理されたという話だ」
「じゃあ、そうなんじゃないのか?」
「さあ…」

 スミレは両手を広げて肩を竦めてみせる。

「それなら、そういう報告を上げれば良いんだよ。ただ、恐らく遺族からの依頼だろう。どうしても、仇を取りたいと。まぁ、気持ちは分かるね。日本の法律じゃ、仇討ちは非合法だから」
「日本じゃなくても、そんなの認められないよ」

 先ほど交わされた会話だった。
 ローズは深いため息をひとつく。

「あれは疲れるんだよ…」
「分かってる。女は用意しとくよ」
「ちなみに、仕事はどこまでなんだ? お前がいるってことは、仇討ちも仕事に入っているのか?」
「そういう指令だが…、一旦、相手が分かったら依頼主に処置方法を確認した方が良いかも知れないな。思わぬ人間が犯人だったら困るし」
「そうだろ? だから、花篭に連絡を取れるように‘竹’の店主に伝えておいてくれ」
「分かった」


 
 大抵のメンバーは特出した特技があり、専門家がいる。殺人専門、誘拐専門、人探しの専門、五感のそれぞれが異様に鋭い人間や、或いは薬物の調合から、法律の専門家、果ては霊媒師や治療家、新興宗教の教祖までいる。
スミレは体格と格闘技術で主に力仕事、そして素人相手の殺人までを請け負う。そして、ローズはオカルト的な特殊能力を持っている。そういう特殊能力者は数が少ないので、彼はある種有名人だ。

 今回の仕事は、一般人の葬儀で、殺人犯を探すことだった。

 それは恐らく参列者に殺人者張本人が来るということなのだろう。葬儀なんて、素知らぬふりで他人が紛れ込むことは確かに可能だが、遺族が葬儀にて犯人を…と言っているのなら、犯人はもともと参列してもおかしくない間柄の人間と言うことになる。どうも今回の被害者は子ども、男子校の生徒らしかった。つまり、犯人は学校の教師とか、両親の仕事の関係者、親戚、果ては同級生だってありだ。心情的にはイヤな仕事だった。

 スミレは喪服と男子学生服の調達に、花籠ご用達の‘竹’というレンタルショップ兼万屋へ出かけていた。
 初めから、スミレは奈緒も連れていくつもりだったらしい。男子高校生の格好をさせて潜り込ませようと言われ、「ああ、そうだね。確かにそれが別の使い方だよ」と、ローズも微笑んだ。

「子ども連れってのは、それだけで、警戒されない利点があるからね」

 しかし、死んだのは高校生で、奈緒はまだ中学生だ。それでも、まぁ、奈緒も一応男の子に見えるように細工されたのだ。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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