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Stories of fate


『花籠』シリーズ・総まとめ編

『花籠』 1-1

花籠 1



「…なんだ?これ…」

 スミレは、扉に背を向けコーヒーを飲んでいる相棒を呆れたように見つめる。相棒、と言ってもいつも組んで仕事をしている訳ではない。二人以上で動く必要があるとき、たまたま組むことが多いという程度の付き合いだ。お互いに本名も素性も知らない。彼らは、‘花籠’と呼ばれる組織に名を連ねているメンバーに過ぎないのだ。

「女の子」

 背後から聞こえたスミレの声に、ローズはのんびりと答える。

「そんなのは見れば分かる」

 憮然とした調子でスミレはふんと鼻を鳴らした。そして、ローズが座っている椅子の背後のソファに腰を下ろす。そこは、ローズがたまに利用する郊外の空き家で、元の持ち主が家具をそのまま置いていったのを、なんとか使える程度にまで彼が磨き上げたのだ。一階はほとんど手付かずの状態で、一見人が住んでいるようには見えない。

 二人が今いるのは、二階にある二部屋の内の一つの部屋で、窓際に机と椅子が、壁際にはベッドとソファがそれぞれ置かれてある。書斎というほどのものでもなさそうなそこは、受験生程度の子ども部屋だったのかも知れない。

 窓際の角にワゴンが置いてあり、そこにコーヒーメーカーがある。そこからうっすらとコーヒーの香りが漂っている。そして、ワゴンの横に小さなボードが、これはローズが後に買い足したものだったが、そこにカップやソーサーなど、コーヒーを飲むためだけの品が収められているのだ。

 そして。そのベッドに、毛布にすっぽりと包まった女の子が、丸くなってすうすう眠っていたのだ。比較的短めの髪の毛、小さな目鼻、病的に青白い肌。そして、毛布でほとんど見えないが、着ているのはセーラー服の類だと思われた。

「なんで、ここに女の子がいるんだ?」
「俺も聞きたい」

 机に向かって、新聞を読んでいるローズは、振り返らずに言う。

「なんで、お前がここにいるんだ?」
「はぐらかすなよ」

 ローズは振り向いた。一見、その辺に普通にいるサラリーマンのような素朴な顔、そして、いかにもお坊ちゃんのような柔らかい笑顔で、彼は微笑む。

「何か依頼でも舞い込んで来たのか?」
「それより、あのやっかい物はなんだよ?」

 ああ…、とちらりと少女に視線を走らせて、ローズは淡々と言った。

「ちょっと呼び出されてね、あっちの専門家を訪ねたら、まさにその現場に居合わせてね。殺すんなら、売ってくれと買ってきた」
「…それじゃ、何がなんだか分からんだろうが」

 スミレは、ローズよりも幾分年上だ。ローズが、お坊ちゃま風な外見をしているのとは対照的に、彼はがっちりした大男で、いかにも用心棒という風貌だ。年がら年中皮のジャケットを羽織り、その下は素肌か、大抵シャツ一枚だ。
 ローズはふふふ、と屈託なく笑う。

「順を追って言おう」

 言いながら彼は立ち上がり、ボードから新しいカップを取り出して、それにコーヒーを注いでスミレに手渡した。

「おい、砂糖とかミルクはないのか?」
「ないよ。そういうのは持参してきてくれ」

 渋い表情でコーヒーをすするスミレをおもしろそうに見つめながら、ローズは話し出した。

「花篭に連絡が入ったんだ、つい今朝ほど。それで、俺が呼ばれて依頼先へ出向いた。緊急的に人手が欲しいと言うことでね。どうも、誘拐するべき子どもを間違ったらしい。それで、その子をその件とは関わりなく親元へ返す仕事を引き受けた、筈だった」
「…しなかったのか?」
「違うよ。間違いに気付いて、慌てて本来さらうべきだった子どもを、今度は間違いなくさらった、までは良い。最初のミスに慌てた彼らは、初めの子に、睡眠薬の投与のタイミングを間違えた。お陰で、この子は目を覚まし、彼らの顔を見られ、声を聞かれた。それで、もう生かして親元へは帰せなくなった。それで、さあ、殺そうという場面にちょうど俺が到着した」
「それで…これか?」

 ベッドの女の子に視線を投げて、スミレは本気で呆れた顔をした。

「あっちも、今回は自分の専門外の仕事だったらしい。まあ、属してる組織が違うから俺もよくは分からない。いつもの専門家メンバーとは面構えが違ってた。向こうは俺の顔を知っていたようだったが」
「お前はどこの組織でも有名な方だろうからな」

 ローズは答えなかった。

「どうするんだ?こんなやっかいな物を引き受けて」
「殺すことなんていつでも出来る」

 ローズはカップを傾けながら優雅に微笑む。

「それに、女の子はいずれ‘女’に成長する」
「一体、何年計画だよ? 子牛を買って、食えるようになるまで飼育するっていうことか?」
「そんなにかからないよ。見た目は幼いけど、その子はもう中学生だ。15歳だそうだ」
「…見えないな。しかも、15歳だあ? お前と一回りも年が違うだろ?」
「子どもの使い方はそれだけじゃないよ」

 スミレは肩をすくめる真似をしてみせる。

「まあ、良いけどよ。ちょっと、俺の方の仕事も手伝ってくれると嬉しいんだが」
「やっぱり仕事か」

 ローズが渋い顔をする。

「今、俺は仕事から戻ったばかりだ。しかも、この子を置いて俺がほいほい仕事できる訳ないだろ?」
「大丈夫だ。連れてくれば良い」
「…どういう意味だ?」
「これから説明する」


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