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Stories of fate


ラートリ~夜の女神~

ラートリ (キオク) 9

 翌日、〈取り引き〉が行われ、家の前には大型トラックが何度も行き交い、倉庫での荷物の積み下ろしが行われ、荒くれた男達の声が廊下を通して部屋の中にも響いていた。

 瑠璃はその気配に怯え、人の声に身をすくめ、部屋の片隅で息をひそめて一日を過ごした。
 やってくるトラック便は、荷物の積み下ろしの後、港へ向かい、そこで荷を船に積み込む、らしい。

 詳細は分からなかったし興味もなかったが、疾風が昼食時に戻ってきて、そんなことを言っていた。久しぶりにレトルトではない食事、鍋に煮込んだ肉や野菜と数種類の揚げ物、サラダなどを、運転手の誰かが運んできてくれたようで、彼はそれを瑠璃に分けてくれるために部屋に戻って来たのだ。

「あったかい内に食べておいで。大丈夫、ここは俺の生活空間だと分かっているから、誰も勝手に入って来たりはしないから」

 そう疾風は笑っていたが、瑠璃は、ただ大勢の男たちが恐ろしかった。

 恐ろしい。‘男’というケモノが。
 脳裏に浮かぶ悪魔のような男たち。

 継母の連れ子であった兄と、売られた先の老人。

 神宮寺家の財産も権利も、すべて瑠璃一人のものだと知った途端、継兄は瑠璃を辱め、自分に従うよう強要した。暴力に耐え、陵辱にも屈しなかった瑠璃を、決して彼らの言いなりにはならない娘を持て余し、継母と継兄は屋敷から追い出すことにした。そして、異常性癖のお金持ちの老人に売り飛ばしたのだ。

 瑠璃を憐れに思った、父親の代から勤めていた使用人が、彼女が嫁ぎ先と称して売られた先に連れて行かれるという朝、彼女をこっそりと逃がしてくれた。

 瑠璃は、使用人が用意してくれた僅かのお金で、とにかく遠くへ逃げた。ひたすら電車を乗り継ぎ、どこまでもどこまでも真っ直ぐに。

 そして、最後の駅で下りた彼女はそのまま吹雪の中を行く当てもなく彷徨った。
 ただ、白く霞む雪原を。ひたすら‘死’へ向かって。

 瑠璃を紹介されたとき、その老人の瞳に浮かんだ赤い光。怪しい笑みを浮かべた皺だらけの顔を思い出すとぞっと背筋に寒気が走った。彼女の、服の下の白い若い肌を思い浮かべ、それに赤いバラを散らし、赤い血を滴らせる瞬間をその感触を舌なめずりして待っている様子が、ありありと浮かぶ。

 死んだ方がマシだと、その瞬間、瑠璃は知る。

 兄に許しを請うても、継母に泣き叫んでみせても、二人ともまったく彼女の声には耳を貸そうとしなかった。
この世界のどこにも、もう居場所がないことを瑠璃は知った。

 もう誰も助けてはくれない。誰も守ってはくれない。

 打ちつける雪の塊、喉をふざぐ強い風。瑠璃は身体が動く限り、どこまでもただ彷徨った。人里から離れようと。二度と彼らに見つからない場所へと。
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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