Sunset syndrome （ありがとう） ２２

　そして。到着した親父は、またしても、息子の容態を心配していたらしい、泣きそうな情けない顔をしていて、俺は、今度こそ、本当に反省した。こんな親不孝息子はいないぞ。

「なんだって、喧嘩なんかしたんだ？」
「はい、すみません。本当に申し訳ない」

　俺はひたすら謝るしかない。寝不足も重なってぶっ倒れていた俺を、通り掛った通行人が通報してくれたそうだ。相手は分からなかったというが、俺としてはもう良い。怪我をしたのは俺だが、勘違いした俺が悪かったのだ。

　免許証が財布に入っていて、アパートに連絡が行き、夕陽が驚いて駆けつけてくれたらしい。つまり、そのときはもう夕陽は家に戻っていたのだ。

「全治2週間、か。出来れば、2週間後には発ちたかったが…包帯で結婚式に出るのか？」

　親父は苦笑する。

「いや、別に俺が包帯のミイラ男だろうが、関係ないだろ」
「関係あるよっ」

　夕陽は悲鳴のような声をあげる。

「ひどいよ、写真、一生残るんだよ？」
「…ごめん、でも、主役がちゃんとしてれば別に…」
「そういう問題じゃないっ」
「そうだよ、月斗。花嫁さんにとっては…夕陽にとっては生涯で最高の晴れ舞台だ」

　そういうことには無頓着な親父まで夕陽のカタを持つ。まぁ、そりゃ、そうだよな、親父にとっては二度目でも、夕陽にとっては初めてだ。それに、女性にとって挙式ってのは夢のある最高の舞台なんだろう。

　母にとっても、そうだったのだろうか？
　ほんの少し、今になって、胸がちくりとする。
　母は…、どう思ってその日を見ているんだろうか。自分が亡き後、他の女性と添う夫の姿を。

「親父…、俺、ごめん。今まで言えなかった」
「何をだね？」

　俺は、穏やかな父の笑顔を見上げて、ごくりと唾を飲み込んだ。
　これで、終わる。

「…おめでとう」
「そりゃ、違うだろ、お前は‘ありがとう’だろう？」
「…へ？ なんで？」
「なんで、って。…まぁ、普通は娘が親に言う言葉かも知れないが、息子が言っても良いだろう？ 傍にいて育てたとは言い難いが、経済的には協力してここまでお前は成長したんだから」

　俺は、多少混乱したが、まぁ、別れの挨拶をしろ、ってことか？ と適当に納得することにした。

「今まで、ありがとう」
「うん、これで、父さんも安心して仕事に戻れる」

　父の目に、涙が光り、何故だろう？ 俺はなんだか胸がじんとした。