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Stories of fate


Sunset syndrome

Sunset syndrome (玉砕) 19

 俺はその夜、バイトが入っていなかったにも関わらず、他に行くところもなくて結局無理を言って店の手伝いをさせてもらった。早くあがりたい子がいて、その子の代わりに遅くまで働いて、俺は結局、店長の家に泊めてもらった。

 いつまでも帰り支度をせずに、無駄な作業をしている俺に「どうしたんだい、家に帰りたくないのかい?」と店長が笑った。「いや、今、親父が帰ってきているんで、狭くって居場所がないんです」と答えたら、それを信じたのか分からないが、店長は、じゃあ、俺ん家に泊まるか? と言ってくれた。

 店長は奥さんと二人住まいで、奥さんは今身重の身体で動くのが大変そうだった。でも、とても幸せそうで楽しそうで、「ほらほら、今、動いたよ」とはしゃぐ彼女の大きなお腹を店長と交互に触らせてもらって、なんだか、そのリアルな感触に俺は妙な感慨を得た。

 こうやって、…母はこうやって赤ん坊を自らの胎内で育み、そして、母になる女性はこんなにも満ち足りた表情で笑うものなのか。
 寝る前に、ちょっと店長と話した。

「月斗くん、夕陽さんってお姉さんじゃないだろ?」
「あ、やっぱりバレてました?」
「最初は、あんまり似てない姉弟だな、程度にしか思わなかったけどね」

 パジャマを着た店長は笑った。

「でも、最終的に、ああそうか、恋人同士なんだ、と分かったけど」
「…違いますよ」

 俺は苦笑する。

「実は、夕陽は親父の婚約者なんです」
「親父さん? …どういうこと?」

 俺は、夕陽が俺のアパートを訪ねてきた経緯を簡単に説明した。

「そうなのかなぁ」

 俺が、今、父が戻ってきている、っていうところまで話し終えると店長は首を傾げた。

「俺には、彼女は君をすごく大切に想っているように見えてたんだけど」
「そりゃ…俺は、義理とはいえ、夕陽の息子になるんですから」
「う~ん…そうなのかなぁ」

 店長は、眉間に皺を寄せる。

「君も夕陽さんも、人前でベタベタはしなかったけど、すごく息が合ってて、仲良くて、相思相愛の恋人同士に見えてたんだけどな」
「挙式をして、日本を発ちたいらしいですよ、親父は」
「夕陽さんも一緒にかい?」
「…それは、そういえば、…彼女は日本に残るような感じの話しをしていた気がする」
「それは余計に辛いね」
「…はい」

 店長に指摘されて、俺はため息をついた。
 そうだ。正式に義母となった彼女と今後、顔を合わせながら暮らすのは辛い。そういえば、なんで親父について行かないんだっけ? ああ、いや、まだそこまで突っ込んで聞いていなかった。というより、俺、親父が帰ってきてから、まだマトモに言葉を交わしてないような気がする。

 また、しばらく会えなくなってしまうんだから、…そして、いつ、最後になるか分からないんだから、話しくらいしておくべきだろうか。

 離れたら、少しは頭が冷えた。
 おやすみ、と寝室へ戻っていく店長を見送って、俺はその日ベッドとして借りたシーツを敷いたソファに寝転がった。

 暗闇の中で夕陽の面影を思う。
 そして、父への愛も。
 夕陽への想いは、諦めなければと考える傍から大きくなって、俺は結局一睡も出来ずに朝を迎えた。

「諦めるためにはさ」

 遅い朝食の席で、眠れずに真っ赤な目をしている俺に、店長は言った。

「玉砕してみるのも手だよ」
「…そうですね」

 奥さんの作った純和風の味噌汁や白いご飯、焼き魚という朝食をぼんやり眺めながら、夕陽の破天荒な食事を思い出す。

「玉砕、しますか」
「その息だよ」

 店長は背中をどんと叩いて笑った。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[コメディ・恋愛

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