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Stories of fate


Sunset syndrome

Sunset syndrome (迷子の心) 13

 連絡が取れないとか、所在が分からない、とは言っても、以前、在籍して共同研究や共同発表をしていた大学では、個人的に父と親しかった教授や研究員もいたし、立ち寄りそうな国もだいたいは把握している筈だ、と思う。

 俺は、退院と同時に、夕陽を家に置いて、電車を乗り継ぎ、かつて父が勤めた職場へ足を運んだ。迎えてくれた教授の顔には確かに見覚えがあって、相手も、「君が宮坂くんの? 立派になったなぁ!」と感嘆の声をあげてくれた。

 俺が簡単な事情を話し、息子が危篤だと電報を打って欲しいとお願いしたら、さすがにイヤな顔をされた。

「そんな嘘をつかなくたって、正直に会いたいって言えば…」
「いえ、父はそれで帰ってくるような人じゃありませんから」

 俺が断言すると、大学側も、躊躇いながらも、そうかもなぁ…と苦笑する。

「分かったよ。では、それで連絡を取ってみるよ。だけど、…恨まれそうだなぁ」
「よろしくお願いします。いや、いっそ、死んだって言ってくれても良いです。いくらなんでも葬式くらい出してくれるでしょうから」

 俺の言葉に更に困った笑みを浮かべて、父の友人だった教授は俺の手を握った。

「まぁ、私も久しぶりに彼に会いたいし。やってみるよ」

 お礼を言って、俺はその大学を後にした。そして、そのままバイト先に顔を出す。欠勤続きだったのでこっちもイヤな顔をされるかなぁ、と思っていたら、意外にも、俺の入院の原因が広まっていたらしく「大丈夫なのか?」と逆に心配されてしまった。

「はい。俺も夕陽も、もうすっかり大丈夫です。…すみません、せっかく無理を言って揃って雇っていただいたのに、ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした」

 俺が頭をさげると店長は心配そうに聞く。

「お姉さんは、もう店に出られないのかい?」
「はい。…あんなことがあって、もし、こちらの店にもご迷惑をお掛けすることになったら申し訳ないからって」
「それもそうか。…君は? 今夜からバイト復帰出来るかい?」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃ、いつもの時間に頼むよ」

 店長は少し残念そうに笑った。
 俺は、店を出て一旦アパートへと急いだ。親父と連絡が取れるかも知れない、ってことを早く夕陽に知らせてやりたかった。いや、きっと連絡は取れるだろう。

 親父と夕陽が再会して…。夕陽は喜んで親父を迎え、親父もにこにこと彼女を抱きしめてやるのだろう。そのとき、…そうだ、俺はどうするだろう?

 その光景をそばで笑って見つめられるだろうか?
 それとも…。
 俺はそれを考えた途端、不意に立ち止まってしまった。

 夕陽の屈託のない心から幸せそうに笑う笑顔。月斗くん、と呼びかけるなんだか切実な声色。俺の顔色をうかがって上目遣いになるときの睫毛の長さ。眠れない夜更け、なんとなく飲み出して、二人で酔いつぶれてそのまま眠ってしまったときの夕陽の意外にあどけない寝顔。

 そういうものが一気に俺の脳裏を駆け巡り、俺はなんだか胸が苦しくなった。

 そうだ。そうして、二人は結婚して? 夕陽は親父について海外へ行ってしまうかも知れない。彼女は母と違う。何が何でも日本にいなければならない理由などない。むしろ、夕陽は親父と一緒にどこまでも行きたいだろう。日本になどいたくはないだろう。

 夕陽は、俺の本当の母とは違うのだ。母は俺がいたから、という理由だけじゃなくて、海外で、ジャングルの中でなんて生活出来ない人だった。だけど、夕陽は。きっと似合うだろう。そういう生活が。きっと、水を得た魚のように、生き生きと現地の生活に溶け込み、父と共に生きていける人だ。

 そうしたら、俺は、もう、彼女に会うこともないかも知れない。

 そこまで考えた途端、すとん、と恐ろしい孤独を感じた。なんだろう? 初めて一人ぼっちになる気がした。今まで父がずっと海外で仕事をしていても、母を看取って一人になっても、これほど‘孤独’を感じたことなどなかった。

 俺は一人だと、たった一人ぼっちだなどと感じたことはなかった。

 それなのに、何故だろう?
 苦しいほどに胸が痛み、夕陽のいたはずの空間は、恐ろしく寒々と暗い穴が開きそうに思えた。

 元の生活に戻るだけじゃないか。
 そうだよ、夕陽が突然、俺の目の前に現れる以前の生活に戻るだけだ。それなのに…。




 アパートの部屋を、夕陽がいる筈の空間を見上げて、俺は思わずそこで立ち止まってしまった。
 俺は、いったい夕陽のことをどう思っているんだろう?


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[コメディ・恋愛

~ Comment ~


そうだ、そうだ、どう思ってんの?
こんなに寂しさを感じるんなら、答えは出てるでしょうに。
そして、夕陽ちゃんはやっぱりパパさんの方がいいのかなあ。
私なら若い方が←誰も訊いてませんね^^;

月斗くんがんばれ・・・と、つい応援してしまいました。
#2017[2012/04/14 16:35]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

これ、ここだけ読むと、普通の恋愛モノみたいで、おお! とびっくりしました。
な訳ないけどさ~(^^;
あんまり、深く考えない方が良いっすよ~、limeさん(^^;
基本、これはラブコメ。コメディなんです、はい。

でも、いろいろ深く人物を想っていただき、なんだか、fateもlove storyを描いた気分になって嬉しいっす(^^)
これ、ジタバタしてるのって、月斗だけかも~~
(さて、どういう意味でしょう?)
(ふふふふふ)

ああ、limeさん宅にお邪魔しても、なかなか最終章に進めずに、ただ戻ってきてしまって、すみません。
突如として一気に最後まで読みたくなる発作が起きたとき、最後が描かれてない~~~っ
と悶えるのが目に見えているので~(^^;
最初の辺りはいつも、一話、一話、じっくり進むのですが、突然、最後まで突き進みたくなることがあって、そういうとき、完結していない世界は辛いんです~。
ははははは。
特にlimeさん作品は最後が知りたい! と悶える展開がお得意なので。
憩(けい)さん宅の田島くんとかは、なんとなく、ゆっくり追っても良いのに、不思議だ~~
#2022[2012/04/14 19:57]  fate  URL 














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