「ごめん、月斗くんをこんな風に巻き込んじゃって。私…日本に戻るべきじゃなかった。やっぱり、このまま宮坂さんを探しに行くよ」
夕陽は、特に大きな怪我もなく、目を覚ますと起き上がれるようになり、すぐに退院となった。俺も数日後には無罪放免になったのだが、その僅か数日の入院中、夕陽は俺の病室で俺の手を握って言ったのだ。
「待てよ。君が謝ることなんてないよ。君は何にも悪くないだろう?」
ベッドに横たわったままの俺の言葉に、夕陽は悲しそうに微笑んだ。
「ううん。私の過去は、まだ清算されちゃいない。日本に戻ってきたりしちゃいけなかった。…バカだね、私。会ってみたかったんだ、月斗くんに。…本当にごめんね。私がいなくなれば、もう手出ししてこなくなると思う。今まで、ありがとう」
「夕陽っ」
夕陽はにこりと微笑み、俺の額にチュッと口付ける。
「待てよっ…イテテ!」
慌てて起き上がろうとして、俺は腹部に感じる鈍い痛みに思わず呻いた。
「動いちゃダメだよ、月斗くん」
夕陽は甘い笑顔を作った。それまで見たことのない、それは‘慈愛’と表現される瞳だった。母親が生まれたばかりの赤ん坊をあやすときのような、父親が子ども達の遊ぶ姿を目を細めて見つめるような、そんな深い愛情を湛えた瞳だった。
その瞬間に知った。
彼女にとって、俺は、父の息子。『家族』でしかなく、そして、同時に何よりも誰よりも守りたい相手なのだということを。
「待って、夕陽」
俺は、言った。
「ひとつだけ、親父と連絡が取れる方法がある」
「…え?」
「俺が死ぬことだよ」
夕陽は、特に大きな怪我もなく、目を覚ますと起き上がれるようになり、すぐに退院となった。俺も数日後には無罪放免になったのだが、その僅か数日の入院中、夕陽は俺の病室で俺の手を握って言ったのだ。
「待てよ。君が謝ることなんてないよ。君は何にも悪くないだろう?」
ベッドに横たわったままの俺の言葉に、夕陽は悲しそうに微笑んだ。
「ううん。私の過去は、まだ清算されちゃいない。日本に戻ってきたりしちゃいけなかった。…バカだね、私。会ってみたかったんだ、月斗くんに。…本当にごめんね。私がいなくなれば、もう手出ししてこなくなると思う。今まで、ありがとう」
「夕陽っ」
夕陽はにこりと微笑み、俺の額にチュッと口付ける。
「待てよっ…イテテ!」
慌てて起き上がろうとして、俺は腹部に感じる鈍い痛みに思わず呻いた。
「動いちゃダメだよ、月斗くん」
夕陽は甘い笑顔を作った。それまで見たことのない、それは‘慈愛’と表現される瞳だった。母親が生まれたばかりの赤ん坊をあやすときのような、父親が子ども達の遊ぶ姿を目を細めて見つめるような、そんな深い愛情を湛えた瞳だった。
その瞬間に知った。
彼女にとって、俺は、父の息子。『家族』でしかなく、そして、同時に何よりも誰よりも守りたい相手なのだということを。
「待って、夕陽」
俺は、言った。
「ひとつだけ、親父と連絡が取れる方法がある」
「…え?」
「俺が死ぬことだよ」
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