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Stories of fate


Sunset syndrome

Sunset syndrome (夜のバイト) 9

 俺は、バイトに入ったその夜、店でもう一人女の子は使わないか聞いてみた。しかし、もう人数は足りているからと断られる。じゃあ、俺の代わりに雇ってくれないかと言ったら、店長は怪訝そうな顔をした。

「なんで?」
「いや、仕事を紹介するからって言ってしまったんで…」
「そうじゃないだろ? なんで自分の仕事まで譲るのかって聞いてるんだよ」
「はい。…実は、身内なんで」
「え? ご家族? 妹さんとか?」
「う…、まぁ、どっちかっていうと姉ですかね」

 さすがに母親だとは言い出せない。

「お姉さん? いくつ?」
「26です」

 う~ん…、と店長は考え込んだ。

「経験はあるのかい?」
「…さあ」
「美人かい?」
「好みに寄りますが」
「君に似てる?」
「いえ、全然!」

 店長は少し呆れたようだ。

「とりあえず、本人を一度連れておいで」
「ありがとうございます!」
「まだ、雇うとは言ってないからね!」
「…はい」

 夜中過ぎに部屋へ帰ると、夕陽はまだ起きて待っていてくれた。小さな明かりをひとつ点けただけの薄闇の中で、彼女は膝を抱えてテレビ画面を見つめていた。手にはコーヒーカップが握られている。

「なんだ、寝てなかったの?」

 おかえり、と立ち上がった彼女に、俺は言った。

「店長が会ってくれるっていうから、明日、一緒に行ってみよう」
「え? …あ、バイトの話? 本当に聞いてくれたんだ」
「うん」
「…そっか。じゃ、少し落ち着いてお金貯めよっかな」
「え? そのつもりなんだと思ってたけど?」
「うん…」

 夕陽は少し考え込むような仕草をした。

「もう、日本を出ちゃおうかな、ってちょっと思ったんだ。」
「なんで?」
「…だって」

 夕陽は流しにカップをことんと置いて、俺を振り返った。

「このまま月斗くんのそばにいたら、好きになりそうなんだもの」
「え…」
「困るでしょ? そんなことになったら、お互い」
「…あ? …あ、ああ…。そうだ、よな」
「でしょ?」

 夕陽は本当に困ったように目を伏せる。

「まぁ、でも、月斗くんには彼女がいるから大丈夫か」

 …別れたんだ、とはそのとき俺は、言い出せなかった。それに、夕陽が親父のことを語る瞳には明確な熱いものが宿ってもいた。そこに嫉妬心とかは、ない、筈だった。

「夕陽だって、親父がいるんだ、大丈夫だろ?」
「そうよね」

 夕陽は不意に顔を上げて微笑んだ。その、誇らしそうな、嬉しそうな瞳。なんだろう? 夕陽にそんな顔をさせることが出来る父に、俺は羨望の想いを抱く。いや、嫉妬に近かったかも知れない。器の大きさの違いを思い知らされた気がした。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[コメディ・恋愛

~ Comment ~


どもです。

ふむ。別れて、主人公も寂しいのだろうか。彼女のせいと一概に言えない部分からの逃避ともみえました。
内弁慶な月斗君はかなり共感するぶぶんが、おおいです。
現実感が強くて、突如として変わった世界に知らないところで新鮮な気持ちにもなっているのかもしれないですね
#2103[2012/05/12 13:38]  小織 悠  URL 

Re: どもです。

小織 悠 さん、

深いご洞察ありがとうございます。
読者さまにご指摘いただいてはっとすることがよくありますが、やはり、それはfateより人物の方が賢いというのか、立場が上というのか、なんとかかんとか・・・
(何を言いたいんだ(ーー;)

いえ。
つまり、fateは人物の動きを追っているだけなので、本当に彼らが考えていることとか、その言動の意味とかを理解していないことが多いらしいです。
最後に、え? そういうことだったんだ! とかfateがびっくりすることがよくありますので。
はははは。
(笑い事か(-"-) )

> 内弁慶な月斗君はかなり共感するぶぶんが、おおいです。

↑↑↑ほええええっ、そうですか??
あっ!!! そういえば、小説サイトの方で、ちょっと前に、『別れの値段』がピックアップ小説として紹介されてましたね!
おおお! と感動してfateの作品でもないのに、自慢げに微笑んでしまいました。
あれは、傑作ですよね~~~
#2105[2012/05/12 15:53]  fate  URL 














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