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Stories of fate


下化衆生 (R-18)

下化衆生 (‘ひかり’の名を) 94

 坂本は、その後、外の公衆電話から菜月の家に電話を入れ、梶原に平謝りに謝った。

 菜月と亨にも、遼一を見舞ってもらう訳にはいかず、梶原にはそのまま東京へ帰ってもらうしかない。電話口で、菜月の泣き声が聞こえ、梶原は呻った。

「坂本先生、…やられましたよ。演技派ですね。…でも、…でも、本当に良かったです」

 最後に声を詰まらせた梶原に、坂本は、もう一つの荷が下りた気がした。真夜中にヤクザの闘争に巻き込まれて運び込まれた少年の行く末を、彼は医師としてずっと心に掛けていた。その彼が、今、弁護士を目指して勉強しているという。そして、雇い主の依頼を遂行するために一生懸命になっている。その姿を見て、彼は安堵の息を漏らした。




「思い出して…しまったんだね」

 美久の瞳に、別の光が宿ったことを知って、遼一は言った。
 美久が目覚めたとき、真理子も坂本ももうそこにはいなかった。はっと目を開けて慌てて身体を起こすと、美久をじっと見つめていたベッドの上の遼一と目が合った。

 その瞳が遠くて。
 澄んだ空を臨んでいるようで、美久は言葉をなくす。

「…りょ…いち?」

 怒っているようでも、責めているような目でもなかった。だけど、美久は、その夢の光景に怯えた。愛してくれた男を裏切って、彼女は自ら逝ったのだ。

「りょう…」

 怯えて名を呼ぶと、遼一は、悲しい…本当に悲しい目をした。美久がそれまで見たことのない切ない瞳を。それは、なんだか別れのようで美久は怖くなった。
 そろそろと立ち上がって、遼一のそばへ行くと、彼は静かな瞳で美久をじっと見つめた。

「遼一…、ごめんなさい、ごめんなさい」
「何を…どうして、君が謝るの?」

 遼一の声は静かで。威圧するような空気も、切れそうに鋭いいつもの覇気もなかった。

「イヤだ、遼一、ごめんなさい」
「だから、どうして…」

 美久は遼一の胸に縋りついた。

「イヤだ、遼一」

 訳も分からず彼女は叫ぶ。
 許して。
 許して。
 過去の過ちを。

 ああ、彼女は云ったではないか。二度と彼を悲しませないで、と。彼の魂を救って欲しいと…

「美久ちゃん」

 遼一は、一瞬躊躇った後、美久の身体をぎゅっと抱きしめた。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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