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Stories of fate


花籠 外伝集

Cosmos 4

「空、今日は私が何か作ってあげる」

 その日、‘竹’に寄ってそのまま大学まで迎えに来た弟をにこにこと見つめて、杏樹は微笑む。各店の店主、特に一番関わりの多い‘竹’はコスモスにとって父親のような感覚を抱く相手だった。早くに親を亡くしているコスモスにとって、そして、姉を守らなければならない、と気負っている彼にとって、ほんの少しでも甘えられる相手として、彼は相応の年齢であり、直接一緒に仕事をする訳ではない店主という位置が手ごろだったのかも知れない。

 変装のアイテムを調達しようと店に行って、彼は一般の客の振りをして少し話しをしてきたのだ。

「腕があがりましたな」

 と彼の変装術を目を細めて褒めてくれる彼が、好きだった。それでも、コスモスの変装をいつも彼は見破る。いつか彼に見破られずに驚かしてやりたい。それが夢だった。驚かすと喜ばすが同義だと、コスモスは気付いてはいなかったが。

「いつも空がいろいろやってくれるから」

 杏樹は、ほとんど友達がいない。町に出かけたり、コンサートに行ったりと普通の友達付き合いが出来ないことに引け目を感じて、彼女はいつも遠慮しているのだろう。そして、周囲も、彼女に何かあったときの責任を負いたくないという心理が働くものと思われる。

 杏樹も空も、特に友人を欲しいと思わずに、お互いだけを拠り所に今まで来てしまった。

「じゃ、作って。そろそろレパートリー尽きた」

 コスモスは笑ってこんっ、と足元の石を蹴る。並んで歩くと、妹かと思うくらい姉は小柄で小さい。顔がよく似ているので、恋人同士には見えない。彼女は、弟の仕事を知らない。コスモスは、コンビニで店員のアルバイトをしている。それだけで生活費から姉の学費まで稼げる訳はないことは感じていても、父がお金を遺してくれたから、という彼の言葉を信じている。

「空は、好きな子とか…いないの?」
「いないよ。姉さんは?」
「…私は…人を好きになんて…」

 言いかけて、杏樹は自分より背の高い弟を見上げて、ふふふ、と笑った。人を好きになる資格なんてない。だって、私はその人と共に生きていける時間が残されているのか分からないのに。

「こんなカッコいい弟がいるから、他の男に目がいかないのかも」
「褒めたって夕飯の支度は手伝わないよ。今日は僕はバイト入ってるからね」
「なんだぁ、じゃ、褒め損だわ」

 する、と杏樹は弟の腕に腕を絡めてもたれかかる。

「具合、悪いの?」

 コスモスはちょっと驚いて彼女を見下ろした。

「タクシーでも拾うおうか?」
「やだ、違うよ。駅まで10分くらいだもの。ちょっとくらい歩かないと、太っちゃう」
「姉さんは痩せすぎ! 少し太ったって良いって」

 仕事が入って自宅を空けるとき、コスモスは出張だと言ってある。本当にそれを信じているのか分からないが、姉はあまり詮索をしなかった。普通の生活というものをあまり知らない彼女は疑うこともしないのだろう。

「空もあまり太らないね。体質なのかな」
「遺伝かもな。父さんもけっこう細かったしね」

 淡々と会話を交わしながら、二人は歩く。ここしばらくは静かで、仕事の依頼は入っていなかった。空を見上げて、コスモスは、ふと黒い雲が湧き起こってくるような錯覚を得た。

 それは、これから起こる大きな事件への予感だったのかも知れない。

 彼の恩師である椿は数年前からずっと海外にいて、今はほとんど連絡も取れない。たまに帰ってきても、顔を合わせることなく去ってしまう。

 久しぶりに会いたいな。
 彼は思った。

 椿は、彼が初めて会った頃からほとんど変わっていないように見える。
 それどころか、益々若返っていないか? …妖怪か?
 くすり、とコスモスは笑った。




 西の空が茜色に染まっていくのを見上げて、腕に感じる小さな気配を愛しく思う。守るべき者を抱く重みと幸せをコスモスは噛み締めた。











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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[短編小説

~ Comment ~


こんなカッコいい弟が欲しいよ。
けなげですね~。
守りの強さを感じます。
この姉弟の幸せが続きますように。

椿に拾われて良かった。
拾い方がまた男の心を打つね。
ところで椿はどんだけ拾っているのでしょう?

それにしても、コスモスやジャスミンのような若手をちゃんと育てている花籠は堅いですね。

若手に色々任せて、龍ちゃんと椿がゆっくりと杯を交わせる日が近いだろう事をお祈りしていますよ。

それまで、おっちゃんたち、もうちょい頑張って^^
#1938[2012/03/22 07:13]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> こんなカッコいい弟が欲しいよ。

↑↑↑描いてみて、描いて良かったと思いました。
まさか、こんな過去を抱いているとはfateもびっくりだ!
出てきたときって、単なる女装壁の変なにーちゃんだったのに…

> 椿に拾われて良かった。
> 拾い方がまた男の心を打つね。

↑↑↑気取らないところが良いよな、椿は。
ある意味こいつも天然だな~、とか(^^;

> ところで椿はどんだけ拾っているのでしょう?

↑↑↑そうなんですよ、女神さま!
恐らく、こいつってそういう役目なんじゃね?
悠馬と二人で組織作りに着手したとき、人材集めをするのが椿の役目~、みたいなハナシがあったんでは?
何気に、ヒトを見る目…ってうか、使えそうな人材を、つまり原石を見つけるのがウマイのかも。

> 若手に色々任せて、龍ちゃんと椿がゆっくりと杯を交わせる日が近いだろう事をお祈りしていますよ。
> それまで、おっちゃんたち、もうちょい頑張って^^

↑↑↑爆笑っ
そうだそうだ、頑張れ、おっちゃん達っ♪
#1942[2012/03/22 08:22]  fate  URL 

これ、椿に会っていなかったらどうなったろうね。
二人して施設に預けられて・・・成人したらそこをでなきゃいけないのかな? でも、手術代まで稼ぐのは空にはムリだろうし。必要な人に必要な手をさしのべる、ある意味、空にとって椿は神さまみたいなもんでしょうね。

守るべき者がいる重みと幸せかぁ。
それが少年を男にするのかもね^^
いいお話でした^^

ところで、体調だいじょうぶですか?
私はちょっと他のことで今、忙しくなってしまって。
不定期訪問になりそうですが、時間のあるときまったり寄らせていただきますねぇ^^
#1972[2012/03/31 11:49]  あび  URL 

あびさまへ

あびさん、

ありがとうございます~(^^)
本当に、この二人の運命は悲惨です。結局、捨てられたり虐待されたりって目に遭った訳じゃないのに、このままだったら生きていけない事態に、簡単になってしまう、日本という社会。
国の根本を変えて、立て直して、っていうのは一朝一夕では無理だし、『花籠』の仕事はそれじゃないから。
椿は、悠馬と共に『花籠』を組織として形作るために動いて、そのためにこうやって人材を発掘していたに過ぎないけど、彼もまた似たような過去を抱く故に、そういう子に反応するんだろう。

すべての子ども達を救うことは出来ない。
だけど、彼に辿り着いた子だけでも救いたかった。それが椿の、ひいては龍一の信念だろうと思います。
「スムリティ」と根本は似てるんだ。

> 守るべき者がいる重みと幸せかぁ。
> それが少年を男にするのかもね^^
> いいお話でした^^

↑↑↑おおお、良い表現ですな。
そう思います!

> ところで、体調だいじょうぶですか?

↑↑↑はいっ、ありがとうございますっ!!! 大分、生き返りました。
もうすぐ復活です。
fufufufufu…

> 私はちょっと他のことで今、忙しくなってしまって。
> 不定期訪問になりそうですが、時間のあるときまったり寄らせていただきますねぇ^^

↑↑↑おお、忙しいのはイイコトですが、どうかご自愛されて、体調崩されませんように!
#1973[2012/04/01 08:13]  fate  URL 














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