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Stories of fate


花籠 外伝集

Cosmos 3

「こんにちは」

 不意に背後から話し掛けられ、空はぎょっと振り返った。

「身が軽いねぇ、君」

 まったく人の気配を感じなかった。大抵の大人は何かしらの空気を抱いていて、その思考が分かるくらい表情が単純なのに、その男は、まったく何を考えているのか掴めない。どこかぞっと背筋に震えが走る。
 空はだけど、吸い寄せられるようにその不思議な男をじっと見つめた。

「取り返したものは、何かな? お金?」

 にこりと男は彼の前に屈みこんだ。コートの中の黒いシャツが見えた。物腰が柔らかくて、心地良い声をしている。空は何故かドキドキした。黙って頷くと、男は、ふうん、と彼の目を真っ直ぐに見つめた。観察するような、それでいて温かい光に感じた。

「何に使うの?」
「…お姉ちゃんが入院していて、難しい手術をするから」
「へえ」

 男はそれほど驚かなかった。

「良い男だな、お前」

 不意に男は空の頭にそっと手を置いた。大きくてあったかくて、空はカッと胸が熱くなった。偉いね、と近所のオバサン方にも言われ続けてきた。しかし、「偉いね、坊や」「良い子だね」そういう目下に対する評価ではなくて、この男は、「良い男だな」と言った。

 それは、男として家族を守りたかった彼の意識にすとんと触れて、それまで誰も届かなかった彼の深遠を揺らした。守られてきた彼が、守る立場として認められた。その、感動。

「お金を稼ぐための仕事が欲しいか?」

 男は目を細める。
 どこか、明確に危険な香りがした。しかし、空は迷わず大きく頷いた。

「欲しい」

 男はぽんぽんと頭をたたいて笑った。

「よし、じゃ、ついておいで」



 
 これが、椿とコスモスの出会いだった。

 コスモスは宇宙のcosmosと掛けている。だから、カナ表記なのだ。両親が、取り分け母が焦がれた‘空を駆ける者’空とエンジェル。その想いは宇宙へと還っていく。

 椿に基本的な手解きを受け、コスモスはジャスミンと同じく中学生ですでに仕事を請け負うまでに成長した。

 父は、過労で早くに逝ってしまった。まるで母を追うように。しかし、姉は、椿が一旦立て替えてくれたお金で無事に手術を受け、なんとか日常生活をこなせる程度に回復し、少し遅れはしたがゆっくりと大学生活を送っている。それでも、常人と同じという訳にはいかない。激しい運動は今も出来ないし、過労は命取りである。

 双子の人生を救ってくれた椿に心酔したコスモスは、彼に借りた手術代の返済と共に、姉を守って生きるために『花籠』のコスモスでいることを止めない。

 体術と共に、コスモスは仕事中の自分の姿を知り合いに気付かれないための変装を本格的に学んだ。特に、姉に知られる訳にはいかない。彼女に精神的負担、特に「心配」はこの上ない毒になる。姉に似た甘いマスクを生かして、彼は女装をする。女装は、敵の目を誤魔化すことと同時に、姉の人生を共に生きている証でもあった。そして、場合に寄って性別を使い分けたり、他のメンバーの変装の助けをしたりする為にいろいろなアイテムも揃えるようになった。

 そして。
 現在では「変装」という項目も特技として重宝され出している。単純に別人になってみたいという現実逃避的な人間や、産業スパイなど、本気で変装を必要とする人々から、彼の技は好評だった。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[短編小説

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