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Stories of fate


下化衆生 (R-18)

下化衆生 (千年の罪) 88

 翌朝遅く、美久が目覚めると、ずっと覗き込んでいたらしい菜月と目が合った。

「目が覚めた? …起きられる?」

 菜月の声も掠れていた。
 美久は、ぼんやりと頷き、横たわっていたベッドから、身体を引き剥がすようにゆっくりと身体を起こした。ひどい疲労感と頭痛。目の周りがまだ熱かった。

 目の端にうつる部屋の様子に、ここは菜月の部屋だ、と美久はまるで他人の思考のように思う。
 ずっしりと重い何かを抱えているようだった。

「遼一のお姉さんが迎えに来てるの」
「…え?」
「美久が目を覚ますのをずっと待ってたの。…遼一の病院へ、一緒に行こう?」
「遼一?」

 菜月は頷く。
 リョウイチ。それは、胸を掻き毟られるようなカナシイ響きだ。

「遼一は、生きてるよ。まだ、意識は戻らないみたいだけど、大丈夫。生きてるって」

 リョウイチハ、生キテイル…
 生きている。
 生きている…?

「りょ…いち?」

 菜月はもう一度頷いた。

「行こう、美久。着替えは私の服を貸すから」

 どこかまだ現実にいない美久をゆっくりと立たせて、菜月は着替えを手伝う。

「髪、とかしてあげるから。」

 そう言って、美久の背後にまわり、髪にブラシを通す菜月の手が震えていたことに、美久は気付かなかった。そして、彼女が美久に気付かれないように泣いていたことも。

 生きている、とは言っても、文字通りそれだけ。今現在、人工呼吸器で生かされているだけ、という状態に過ぎない、ということを菜月はどうしても美久には告げられなかった。

 梶原の話を聞く限り、遼一の容態は絶望的だった。
 家族すら面会を許されないという状態。

 それでも、美久の声になら、遼一が唯一求める美久の気配になら反応を示すかもしれない、と真理子が一縷の望みを抱いて美久のもとを訪れたらしい。

 青い顔をしてはいたが、真理子は気丈だった。幼い頃の彼女を知る菜月にも、掛ける言葉が見つからない。或いは、遼一の最後を看取って欲しいがために美久を呼びに訪れたのかもしれない。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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