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Stories of fate


花籠 外伝集

蒼天の彼方 4

「何か欲しいものはないか?」

 遠慮がちに劉瀞は声を掛ける。
 庸は少し眉をひそめて、迷惑そうな表情を浮かべる。

「あまり余計なことをなさると後始末が大変ですから、やめてください」

 その言い草に、さすがに劉瀞もムッとする。

「入院して、少しは性格も治るかと思ったのに、変わらないな」
「入院くらいで変わる訳ありません」
「死に掛けたくせに」
「残念ながら戻って参りましたから」
「…残念なのか?」

 一瞬見せたその心細そうな目に、心臓がどくんと音を立てた。しかし、庸は素知らぬふりで微笑んだ。

「執着から解き放たれるのは、まだ先のようです」

 不意にノックもなく扉が開き、翔慧が顔を覗かせた。

「あら、また来てたの? 劉瀞」

 そして、ツカツカとベッドに近寄った彼女は、庸が慌てて隠そうとしたそれを見つけてさっさと没収する。

「まだ、筋力トレーニングは早いって言った筈よね、庸」
「…すみません」

 素直に謝る庸を、劉瀞は茫然と見つめる。すると、くるりと弟に向き直って、翔慧は彼をジロリと睨んだ。

「まったく、劉瀞? こんな物を持ち込まないでよ」
「ちょっと待て。俺じゃない」
「じゃあ、誰?」
「…知らん」

 翔慧は、ふう、と息をついて二人を交互に見つめ、「まったくあんた達ときたら。ここは病院よ? 分かってる?」
と呆れた口調だ。

「誰に聞いたんだ?」
「さっき通りすがった看護師が見かけたって言ってたのよ」
「あ、ああ、そうか」
「分かってたら貴方が取り上げなさいよ?」
「…悪い」

 どうも、翔慧には二人とも押され気味だ。

「もうちょっとしたら治療に来るから覚悟してな」と翔慧は言い捨てて出て行った。
 それを見送って、劉瀞は呻くように低く言った。

「早く退院しろ、庸。命令だ」







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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[短編小説

~ Comment ~


あぁ。庸のその後がわかって良かったです。
人は必要とされるとわかると人生変わるんですよね。

庸は生きていなくてはいけない。
劉瀞のためでもあり、庸自身のためでもある。

庸が今を生きていることには意味がある。
それがとても良いです。

ダンベルにも意味があるのさ。ね。
早く退院しろ、庸。女神の命令だ。
#1934[2012/03/21 16:57]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

うひゃああっ
こちらにお返事する前に、Cosmosもお読みいただいてますね~~っ
すみません、いや、ありがとうございますっ!!!

と、焦りつつコメ返です(・・;

はい、人を生かすのは、無理やりにでも‘役目’を与えることだと思います。
これ、鬱病患者にも効果あるそうです。
その人の得意としていることを、それが例え、多少難しい、大変なことでも、頼みこむと良いそうです。
鬱病なんかに陥ってしまう人って、真面目で人と真摯に向き合う人だから、頼まれると決してそれをおろそかにして死んだりしないそうで。
それを完遂するまでは必死にこなして、そうやって必死に生きている内に、自分にもまだ出来ることがあるんだ、と生きる気力が沸いてくるんだとか。
だから、疲れきっていて可哀相と思わずに、頼みごとを、しかもちょっとやそっとで完成しないことを頼むのが良いそうだ。
あああ、ハナシがズレた。
きっと、椿もそういう目論みがあったんじゃないだろうか。
ぼーっとしているようで、実はあの父子はスルドイから。

> ダンベルにも意味があるのさ。ね。
> 早く退院しろ、庸。女神の命令だ。

↑↑↑ダ、ダンベル…。
ははははは。
とにかく早く退院してもらわないと、劉瀞の調子が狂っちゃうことは確かだ。
お姉さまには、ほんとに必要なときにちょこっと会うくらいがちょうどいいんだと思う(^^;
#1940[2012/03/22 08:06]  fate  URL 

素敵でした。^^
庸と劉瀞との短い会話に、二人の語らない思いや絆が感じられて。

もうすこし庸は、この際だから、劉瀞を苛めてやってもよかったかな^^
結局ダンベルをとられちゃったけど。

久々の翔慧ですね。
やはり彼の弱点はこの姉かな?

いや・・・でも、荒療治が待っていそう。
庸、早く退院してね^^

う~、また庸の話書いてほしいなあ。ダメ?
#1943[2012/03/22 11:56]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

ありがとうございました~

> もうすこし庸は、この際だから、劉瀞を苛めてやってもよかったかな^^

↑↑↑はははは~
そうですかぁ? じゃ、いつか、もうちょっとイジメてみよう。
でも、庸はイジメようと思ってる訳じゃないだろうから(当たり前じゃ(--;)意図してイジメるのはお姉さまであろう(^^;
この弟はもう少し鍛えられないとね。
龍ちゃんに比べりゃ動いてはいるけど、ツメが甘いかも知れない。
年というより、性格的なものと背景であろうか。

> う~、また庸の話書いてほしいなあ。ダメ?

↑↑↑う、…そういうことをおっしゃられるとfateはすぐにその気になるんだから、イカンです。
まだもう一個の外伝すら仕上がっていないのに(^^;
#1945[2012/03/23 07:47]  fate  URL 

苦しい生い立ちですね。
でも、庸自身にはなんの関係もないこと。
もちろん母親には辛く悲しい出来事だったでしょうが。
まだ幼い内に母から引き離されてよかったです。
もう少し遅かったら、彼はもっとひどい人生になっていたように思います。こういう子を助けるのが劉瀞の、スムリティの目的なんでしょうか。
最後の「命令」が愛情に満ちていてよかったです^^
#1954[2012/03/26 14:04]  あび  URL 

あびさまへ

あびさん、

コメ返遅くなりました。
ものすごく珍しく体調が、ちょっと…。

はい、本当に、子どもには‘罪’はない、んです。
そして、『スムリティ』の存在意義はその通り、そこにあります。そういう子を集めて養育し、仕事、つまりは生きる意義を与える。
人はやはり社会とのつながりがなくては孤独です。
そして、やはりあびさんはさかってらっしゃるなぁ、と思うのは。
そうなんです、実際、(結果論ですが)早い内に母親と引き離されて良かったんです。
あの状況で母親が自分自身や相手の男、その結果として生まれてしまった赤ん坊を許せる日なんて来なかったと思うから。よほど、彼女自身を分かってくれて愛してくれて、そして赤の他人の赤ん坊を一緒に育ててくれるような奇特な男性が表れない限りは。

> 最後の「命令」が愛情に満ちていてよかったです^^

↑↑↑愛情…なのかな(^^;
単に、劉瀞が、見舞いに来る度に翔慧に会わなきゃならんことに耐えられなかったからという噂も…
ははははは。
#1958[2012/03/27 19:32]  fate  URL 














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