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Stories of fate


花籠 外伝集

蒼天の彼方 3

 庸は、母親に恨まれ、憎まれ、虐待に近い扱いを受けて最終的には捨てられた。その詳しい事情を彼は知らずに育ったが、彼の母親はある国家が秘密裏に潜入、工作活動を行った未開地の現地の女性だったようだ。そこで、若く美しかった彼女は白人の兵士たちに慰み者にされ、そして、生まれてしまったのが彼だった。黒髪、浅黒い肌の彼らとは似ても似つかない赤ん坊。その母親は婚約者のある身だった故、裏切りの烙印を押され、その村を追い出され、一人で赤ん坊を育てる羽目に陥った。

 自分の人生を狂わせた金髪・白い肌の男に瓜二つの赤ん坊。それを愛せる筈などなかった。子どもは母親の憎しみの対象として酷い扱いを受けてそれでも数ヶ月を生き、耐えられなくなった母親は絶望のあまり、遂に自害した。

 それをどういう経緯でか、赤ん坊は椿に拾われた。そして、彼は『スムリティ』本部の女性職員に預け、赤ん坊は椿に‘庸’と名づけられ、その頃、まだ同じように子どもだった時期総帥、劉瀞のボディガードとして育てられることとなった。

 『庸』それは、中庸の‘庸’だ。行き過ぎた行為に寄る、行き過ぎた母親の憎しみ、行き過ぎた感情に翻弄された赤ん坊。それをリセットして、プレーンに戻して生きて欲しかったのだろう。

 庸の封印された記憶に宿るのは、彼の可哀相な母親の姿だった。

 生み出してくれた母親に憎まれ、呪われ、捨てられた彼は、長い間、まったく意思表示の出来ない子どもだった。育ててくれる女性にも、なかなか心を開けず、初めは口もきけないのではないかと思われていた。

 しかし、彼には役目があったのだ。
 「人を守る」
 という。

 命令、に過ぎないのに、そのとき、彼に生まれたのは明確な「生きる意味」だった。誰にも祝福されず、必要とされずに生まれてきた彼は、育ててくれる手ですら、厄介者と思われているのではないかという怯えを常に抱いていたのだろう。

 そこへ、彼は役目を与えられたのだ。若干、5歳の頃だ。
 初めて劉瀞の写真を見せられ、「これがお前が生涯かけて守る相手だ」と言われた。

 自分が、守る。
 その衝撃的な事実に彼の心は躍動した。初めて、心が動いた。

 必要としてくれる手。

 日本に連れてこられ、劉瀞に会った日のことを庸は今でも鮮明に覚えている。「よろしく」と心得たもので、すでにそのとき上に立つ者の貫禄を備えた僅かに年上の男の子。彼はためらいもせずに庸に右手を差し出した。その小さなぬくもりを、決して忘れない。

 この手を、守る。
 命を賭けて。



 
 その後何度か、庸は本部に出来たばかりの訓練施設で椿の訓練を受け、最期の仕上げとして数ヶ月、人を殺す技を叩き込まれた。今回のこの事件を予想していた訳ではなかっただろう。しかし、劉瀞の確固たる正義感は両刃の剣だと、椿は感じていた。命を狙われる立場にある人間を守ること。庸にとっては、それは生きる理由そのものだった。
 
 目を閉じると浮かぶ抜けるような青空。それを痛みを伴わずに思い出せるようになったのは、いつの頃からだったか。

 日本で見上げる空は淀んでいるのに、生まれた国の澄んだ青空より、美しいと思った。
 そこに立つ男を見るのが、蒼天を睨む彼を見ているのが心地良いと、庸は知った。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[短編小説

~ Comment ~


悲しい生い立ちですね、庸。
でも、そんな背景を背負って、初めて庸という人格があるような気がします。
母には母の事情があるとしても、子には罪はないのに。

最近こうやって望まれずに生まれた子の物語を書こうかと思って思案してたのですが、なかなか明るい展望にならず、悩んでいます。

庸にとって、「守る」という使命を与えられたのは救いでしたね。
うちの陽も、生きていけたのは、坂木を守りたいと思ったからですから。
(彼の場合、もともとは母親を守りたかったのですが)

愛されずに育ってしまった子は、どこか曲がってしまうという定説は、信じたくないですね。
その子の人生が、ダメな親に左右されて欲しくない。

でも、母親って・・・やっぱり子供にとって、大きな存在なんでしょうね。よくも悪くも。
#1920[2012/03/21 01:16]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

この生い立ちは、実は、ある漫画のパクリでした。どんだけ? ってくらい、そういうことをやらかしてますが(^^; 実際にありそうな悲劇だと思って、恐らくそういう赤ん坊は数限りなくいた気がします。
その中の一人でも、救ってあげたくて生まれたのが‘庸’でした。
生まれる前から母親の憎しみを受けてきた子は、きっと‘愛’というものを知らない。
そんな幼い子どもをどうやって救って良いのか分からない。
だけど、もしかして椿自身も似たような傷を負っているんじゃないかと思います。だから、「命令」という形で否応なく生きる「意味」を庸に与えることで生かそうとした。
椿にとっての深雪さんも、ある意味、そういう存在なんだろうと思います。愛情とかではなく。必ず、守る相手。まぁ、そこに愛が育っていたのかも知れないけど、それは知らん。
だから、ジャスミンが恐ろしく淡々とした性格に育ってしまっている。
愛のある家庭に育ってにしては情緒欠陥過ぎるから。
はははは。

> 庸にとって、「守る」という使命を与えられたのは救いでしたね。
> うちの陽も、生きていけたのは、坂木を守りたいと思ったからですから。
> (彼の場合、もともとは母親を守りたかったのですが)

↑↑↑はい、分かります。
そして、子どもはどうしたって‘母親’が大好きってのも。
子どもに罪はない。そうなんです。

> 愛されずに育ってしまった子は、どこか曲がってしまうという定説は、信じたくないですね。
> その子の人生が、ダメな親に左右されて欲しくない。

↑↑↑これは、どうしたって歪みが生じます。だいたい第1期が6歳。そして、最終的には12歳までに決定されるそうです。それ以降、どんなに環境を整えても無理だそうです。庸の場合は、5歳で明確に人生が決定付けられたので、まだ間に合ったかな。そして、そういう子はそんなに幼くても変に大人びている。きっと普通の5歳のガキではなかったでしょう。
女性職員と言っても、彼女も仕事を持っている訳だし、母親の経験がない人だったら、つきっきりで子どもの世話をするのは難しかっただろうし。
でも、子どもに罪はないんです。
‘育てられなかった子ども’をどんな風に救えるのか?
実はそれを、それだけを思い切り模索したのが「Sacrifice」でした。まぁ、設定はあり得ませんが(--;
fate worldだとそんな風にあり得ない世界を構成出来ますけど、limeさん世界で、そういう子を描くのは、どう救って良いのかが難しいっての分かります(^^;

ああ、なんだか、limeさんへのコメ返が最近重い…
#1924[2012/03/21 08:37]  fate  URL 














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