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Stories of fate


下化衆生 (R-18)

下化衆生 (陰謀) 83

 遼一と美久が後部座席に、梶原が助手席に乗った。
 遼一は、目を閉じてずっと何かを考えているようだった。美久は胸の前で手を握り締めて真理子の無事をひたすら祈っていた。梶原も運転席の男も無言だ。

 町の弁護士事務所に辿り着くと、そこには葛西の車があった。
 運転席の男が「少し、お待ちください」と中へ入っていく。

「梶原さん…」

 遼一は、彼に何かを小さく耳打ちした。美久は目を伏せて必死に祈りを捧げているようで、彼らの行動には関心を示さない。

 戻ってきた男が、運転席のドアを開けて、少し慌てたように告げた。

「すみません、先生がちょっと所用で別の場所にいらっしゃるそうです。それで、更に助手の方もいらっしゃるとのことですので、この車では皆様をお連れ出来ません。幸い、葛西さんがいらっしゃいましたので、若奥さまとボディガードの方は、そちらに移っていただいてよろしいですか? それで、恐縮ですが、遼一さまは私と一緒に先生をお迎えにご同行をお願いしても…」
「ああ、分かった」

 遼一は言った。そして、美久を一緒に降ろして、梶原に目配せをする。彼はすぐにどこかに電話を掛けた。

「美久ちゃん、良いかい? 君は梶原と一緒に菜月の家に戻るんだ。あそこが一番安全だ。二度は言わない。言うことが聞けるね?」

 遼一の声は、ぞっとするほど静かで低かった。美久は、何かを言いかけて…だけど、黙るしかない。彼の声は、これ以上ないほど、切迫していた。

「必ず迎えに行く。待ってて。」

 一瞬、背中をぎゅっと抱いて、遼一は美久から離れ、梶原を見つめた。

「タクシーを手配しました」

 梶原は言い、遼一は頷いた。そして、慌てて事務所から出て来た葛西とぽかんとしている男に向かって言った。

「悪いけど、俺は葛西と先に屋敷に向かうよ。君、弁護士の先生の迎えは頼むよ」
「えっ? いえ、しかし、葛西さんの車には…っ」
「ああ、大丈夫。美久ちゃん達はタクシーを呼んだから。それより、早く頼むよ。おばあさまは何でも弁護士頼みだ。待ってるんだろ?」
「遼一さま、遼一さまは、私が…」
「俺は、一刻も早く屋敷へ向かいたい。姉の容態が気になるからね。先に向かわせてもらうだけだ。葛西さん、お願いします」

 はい、と葛西はエンジンを掛ける。

「遼一さま、では、私がお送りします。若奥さま達をタクシーなど! 葛西さんに送らせてください」

 遼一は慌てて彼の腕を掴もうとする男の手を振り払って葛西の車に乗り込んだ。そして、梶原を振り返って、遼一は言った。

「梶原さん、よろしく」
「…分かりました」

 どこか緊張した面持ちで、梶原は美久の背後に立った。遼一は葛西の車に乗り込み、ドアを閉める。

「遼一っ」

 よくは分からないが、美久は、不安になって叫んだ。

「遼一っ」

 葛西はハンドルを切って、駐車場を出て行った。男は青ざめて車に乗り込み、電話を掛けながら大慌てで葛西とは別の方向に向かって走り去る。その姿を梶原は目の端に捕えながら唇を噛み締めた。

 間もなくタクシーが到着し、怯える美久を抱きかかえるようにして、梶原は一緒に乗り込み、菜月の家を告げた。

「…梶原さん…どういうことですか? お姉さんは? お姉さんは大丈夫なんですか? 遼一は…遼一は、どうして?」
「菜月さんの家に向かいます。…遼一さんをお待ちしましょう」

 梶原はそれしか言わなかった。
 ざわざわと背中が寒くなっていく。

「梶原さん、…梶原さん、私も、私も行きます。お願い、遼一のところに連れて行って」

 梶原は、無言で、首を振った。

「梶原さんっ」

 美久の声は震えた。言いようのない不安が真っ黒な雲を伴って押し寄せてくるような、そんな暗い予感に怯えながら。



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