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Stories of fate


下化衆生 (R-18)

下化衆生 (ジョーカー) 75

 その後、すぐに亨から召集がかかる。
 比較的暇な月だったので、大抵のメンバーは都合がついて集まることになった。

「美久ちゃん、行くの?」

 その日の夕方、会社から戻って、こそこそと支度を整えている美久を横目で見ながら、パソコン画面を追っている遼一は低い声で聞く。

「う、…お、お酒は絶対飲まないから…」
「お酒だけじゃないでしょ。タバコの煙とか」
「そ、そんなに長居しないから…」
「あのね、美久ちゃん」
「だ…だって、私もみんなに会って話したいんだもん」

 段々声が小さくなっていく美久を真正面から見つめて、遼一はため息をつく。

「分かったよ。でも、美久ちゃん、分かってる? 君が妊娠してるって誰も知らないでしょ? お酒が飲めない理由を、自分で全部説明する?」

 それを聞いて美久は愕然としてしまう。

 そうだった。
 あれ以来、菜月にすらマトモに連絡をとっていなかった。

 今回も、亨から遼一に連絡があって、美久ちゃんにも伝えておいて、というものだったから、菜月とは直接話してすらいないのだ。

 遼一と美久が付き合い始めた…ということを亨が皆に話したそうだが、それすら本気に受け取っていないメンバーがいるのに、いきなり中間をすっ飛ばして子どもが出来たなんて、どうしよう?

「その覚悟があるなら、どうぞ」

 遼一はどこか楽しそうにそう言って、再び仕事モードに入る。
 美久は、その意地悪な背中に恨みがましい視線を投げて、でも、いずれ分かることだし…とため息と共に諦めることにした。



 
「え~っ? 何、それ? 真面目な話?」

 予想通り、皆の反応は居酒屋中に響くような驚きの喧騒をもって迎えられる。
 乾杯の際、あ、私はウーロン茶。お酒は飲めないから…と美久が言い、なんで? と菜月が聞き、ええと…その、今、妊娠中で…と美久がぼそぼそ答えた瞬間のことだった。

「誰の子ども?」
「いつ、結婚したの?」
「いつ生まれるの?」

 一斉に皆から質問が飛び、美久は真っ赤になって俯く。
 亨と菜月だけが、半分呆れたような視線を遼一に投げた。

「遼一でしょう? 相手は」

 宮川が言うと、皆、ああ、そうか、という表情をし、遼一は「そうだよ」と事も無げに答えていた。

「もう、入籍してるの?」
「うん、挙式はまだだけどね」

 遼一の返答に、美久は、「えっ?」と彼を見上げた。

「入籍…してるの?」
「って、えええっ? なんで美久が驚いてんの?」

 菜月が呆れて二人を見つめる。

「ああ、そういえば言ってなかったっけ」

 遼一が思い出したように美久の方を見た。美久は、まだ呆けたような表情をしている。

「言ってなかった…って。そういう問題なの?」

 本気で呆れて固まる一同。そして、次の瞬間、とても迷惑そうな周りの客を無視して、おめでとう! という歓声の嵐が吹き荒れた。

「まあ、いつかそうなるだろうと思ってたけどね」

 というのが、大方の感想で、かつて遼一を好きだった宮川も複雑そうだったのは一瞬だけで、すぐに甘い微笑を浮かべて美久と乾杯を交わした。

「体調、どうなの? 大丈夫?」

 乾杯が終わって少し落ち着いた頃、美久のそばに来て菜月はこっそり聞く。

「うん。なんか、つわりもほとんどなくて、しばらく気付かなかったくらい」

 かなりどぎまぎと照れて美久は答える。
 その様子を見て、菜月は安心した。少なくとも、美久は今、幸せなんだな、と思ったのだ。

 そっか、と美久の頭をなでて、菜月はちょっと泣きそうになった。
 いろんな周りの思惑が絡んで、二人が引き離されることのないように、これで良かったんだと、そういう気がした。

 遼一とずっと幼なじみとして、家に翻弄され続けてきた彼を知っているから。
 それは、亨も同じだっただろう。

「予定日っていつくらい? 秋?」
「ええと…9月26日頃、だったかな」
「じゃあ、涼しくなってからだね。仕事は? いつまで続けられるの?」

 そういえば…、と美久はちらりと遼一を見る。
 彼は相変わらずのポーカーフェイスで、もう普通に男達と何か笑いあっていた。
 子どもが出来たら仕事は辞めてもらう、というようなこと、いつか言われていたなあ、と美久は思い出す。

「…分かんない」
「遼一しだい、か」

 菜月はグラスの氷をからり、と音を立ててチューハイを飲み干した。

「私たちは4月に式を挙げることになったから、その頃は美久も安定期に入ってるだろうし、出席してくれるよね?」
「うん、もちろんよ!」


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