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Stories of fate


下化衆生 (R-18)

下化衆生 (揺らぐ想い) 71

 いつ、眠ったのか分からない。
 翌朝、美久は目覚める直前にみていた悪質な夢に、はっと目を開ける。身体を起こそうとしたが、力が入らなくて、窓の方を見た横向きのまま、部屋の中に視線を走らせる。

「…遼一っ」

 いつも、そばにある彼の気配が感じられなかった。すとん、とどこかに落ち込むような感覚を得て美久は悲鳴をあげる。

「いやあっ! 遼一…っ?」

 彼が消えたあの朝の記憶が蘇り、身体が冷える。絶望と孤独。あの、吹雪の中に置き去られたように心細さと恐怖が全身を包んだ。

 モウ、イナイ…
 モウ、会エナイ…
 モウ、愛シテクレル人ハイナイ…

「遼一? 遼一…っ」

 叫ぶ美久を不意に背後から誰かの腕が抱き寄せた。

「ああ…」

 振り返らなくても、それは遼一の腕だった。
 泣きそうなほど安心して、美久はその腕にしがみつく。

「…美久ちゃん」
「イヤ!」
「美久ちゃん…」
「イヤッ」

 遼一の腕にしがみついて、美久は首を振り続ける。涙が次から次からと溢れて、ぽたぽたと遼一の腕を濡らす。

「バカだね」

 遼一の声が、一瞬、震えたように感じられた。

 俺が、君を置いて出ていくわけ、ないだろう?

 そういう意味ではない、と美久は思った。

 せっかく、君が自由になれる最後のチャンスだったのに…。

 遼一は、そう言っているのだ。

「…身体、辛くない?」

 耳元で遼一はささやく。きっと、美久が目覚める前に、動けずに追って来られない間に、彼は姿を消すつもりだったのだ。
 美久は首を振る。しかし、本当はまだ身体中が鈍い痛みを引きずっていた。本当は、身体を起こすことすら辛かった。

「どこにも行かないよ。だから、少し横になってて」
「やだ、イヤ! 遼一」
「あのね、美久ちゃん」

 遼一の声が、いつもの調子に戻った。

「残念ながら、本当に、もう、君は逃げる機会を失ったんだよ。もう、君は一生俺に従うしかないんだよ」

 美久の身体をふわっと横たえて遼一は美久の顔を上から覗き込む。

「だから、寝なさい、と言ったら寝なさい」

 泣いたあとのような顔だった。
 それでも、その瞳には、もういつもの冷たい光が宿っている。揺らぎのない支配者の。

 美久は、遼一の手をぎゅうっと抱きしめたまま、目を閉じる。額にかかる髪をすうっとかきあげる遼一の手のぬくもりを感じ、美久は安心する。

 どうしてなのか分からない。
 遼一が美久の中に母性を求めるように、美久は、彼の中に我が子、とでもいう存在を感じることがある。なのに同時にまったく別の強烈な想いが美久を翻弄する。それがどういうものなのか美久にはさっぱり掴めないのだが。




 それから丸二日間、二人はほとんど外へも出かけず、部屋を掃除してもらうときだけレストランに食事に下りて、あとはほぼ部屋で過ごした。

 テレビもつけず、窓のカーテンも開けず、ベッドの中で。
 お互いの肌の温かさをただ感じていた。
 生きている証を。
 触れ合っているだけで欲情してきて、何度も愛し合った。
 そういう蜜のように甘い時間を貪った。本能の求めるままに。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

~ Comment ~


そして……?

この次の章のタイトルは、ジョーカーなんですねぇ。
ルール違反の覗き見をしたくなっては我慢我慢。
どうなるのかなぁ。

このストーリィも完結しているのですよね。

遼一くんに守られているようでいて、実は彼を守っている美久ちゃん。
うまく表現はできませんが、そんな愛の形が伝わってくるような気がします。
#1873[2012/03/14 00:45]  あかね  URL 

Re: そして……?

あかねさん、

> この次の章のタイトルは、ジョーカーなんですねぇ。

↑↑↑あ、…これは、あんまり深く考えてはいけません(--;
ちょっとした、昔読んだ漫画からのパクリです。

> このストーリィも完結しているのですよね。

↑↑↑完結どころか、リメイクでした~~~(^^;

> 遼一くんに守られているようでいて、実は彼を守っている美久ちゃん。
> うまく表現はできませんが、そんな愛の形が伝わってくるような気がします。

↑↑↑これ、どの子に関しても最終的にはそう思われます。
女の子って、けっこうしなやかで強い。虐げられているようでいて、実は操っているのは女の方! って感じ。
やはり、女は怖いぞ~~~!!!
#1878[2012/03/14 07:39]  fate  URL 














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