次に気がついたとき、もう、辺りはすっかり明るかった。いつ、どうやって眠ったのか覚えがない。いや、あれから、訳も分からず涙が溢れて、遼一の胸に抱かれていたような気はした。しかし、なんだか何もかも曖昧で夢の中のことのように思える。
片方の布団はまったく使われた様子もなく綺麗に整ったままで、美久は遼一の腕の中で目覚めた。
「おはよう、美久ちゃん。よく眠れた?」
とっくに起きていたらしい遼一はそう言って美久の頬にそっと触れる。
遼一が着ている浴衣の中に一緒にすっぽりと抱かれて美久は眠っていたらしい。
「…おはよう」
声がまだかすれていた。
なんでだろう? 泣いていたんだろうか?
いや、それにしてはそんなに目の奥は熱くないし、泣いた後の独特の頭痛もないなぁ。
「朝食は一階の広間で食べられるそうだけど、どうする?先にもう一回温泉にでも入る?」
身体がだるくて、ずっしりと重い疲労感を抱えていた美久は小さく首を横に振る。
「もう少し、寝る…」
「そう。じゃ、出かけた先で何か食べようか」
遼一のいつになく優しい言葉を聞きながら、美久は眉間に皺を寄せて考える。
「っていうか、私、なんでこんなにだるいんだろ?」
「そりゃ、昨夜あれだけに乱れればね」
澄ました顔で遼一は答える。一瞬、言われた意味を理解出来ずに、ぼうっとした美久は、はっと真っ赤になる。
「…え、え、えええっ? 何、それ?」
「覚えてないの?」
「覚えて…って、そんなのウソっ」
「おや、でも身体は覚えていると思うよ。ほら―」
遼一の手が美久の背中のラインをすうっと撫でながら下へおりて、足の間に滑り込む。茂みの中に確かにしっとりとした湿り気を感じて、美久は愕然とする。
そして、うっすらと思い出した。
酔いも手伝って忘れていた昨夜の情事を。
何か、強烈な喪失感、焦燥感、そういうモノに突き動かされて遼一を激しく求めたことを。
どうして、繋がった刹那にそのまま一つに溶け合ってしまえないのか、と本気で切なく祈った想い。あれはなんだったのだろう? 誰の意志? 誰かの記憶?
「…あ、あ、あれは…っ」
あれは、私じゃないからっ
美久は耳の付け根までかああっと朱に染まって、遼一の胸の中に逃げ込んだ。
「うん、とっても良かったよ、美久ちゃん」
「ちがう~っ」
くっくっくっと、遼一は可笑しそうに笑い、美久は結局そのまま顔をあげることすら出来なかった。
片方の布団はまったく使われた様子もなく綺麗に整ったままで、美久は遼一の腕の中で目覚めた。
「おはよう、美久ちゃん。よく眠れた?」
とっくに起きていたらしい遼一はそう言って美久の頬にそっと触れる。
遼一が着ている浴衣の中に一緒にすっぽりと抱かれて美久は眠っていたらしい。
「…おはよう」
声がまだかすれていた。
なんでだろう? 泣いていたんだろうか?
いや、それにしてはそんなに目の奥は熱くないし、泣いた後の独特の頭痛もないなぁ。
「朝食は一階の広間で食べられるそうだけど、どうする?先にもう一回温泉にでも入る?」
身体がだるくて、ずっしりと重い疲労感を抱えていた美久は小さく首を横に振る。
「もう少し、寝る…」
「そう。じゃ、出かけた先で何か食べようか」
遼一のいつになく優しい言葉を聞きながら、美久は眉間に皺を寄せて考える。
「っていうか、私、なんでこんなにだるいんだろ?」
「そりゃ、昨夜あれだけに乱れればね」
澄ました顔で遼一は答える。一瞬、言われた意味を理解出来ずに、ぼうっとした美久は、はっと真っ赤になる。
「…え、え、えええっ? 何、それ?」
「覚えてないの?」
「覚えて…って、そんなのウソっ」
「おや、でも身体は覚えていると思うよ。ほら―」
遼一の手が美久の背中のラインをすうっと撫でながら下へおりて、足の間に滑り込む。茂みの中に確かにしっとりとした湿り気を感じて、美久は愕然とする。
そして、うっすらと思い出した。
酔いも手伝って忘れていた昨夜の情事を。
何か、強烈な喪失感、焦燥感、そういうモノに突き動かされて遼一を激しく求めたことを。
どうして、繋がった刹那にそのまま一つに溶け合ってしまえないのか、と本気で切なく祈った想い。あれはなんだったのだろう? 誰の意志? 誰かの記憶?
「…あ、あ、あれは…っ」
あれは、私じゃないからっ
美久は耳の付け根までかああっと朱に染まって、遼一の胸の中に逃げ込んだ。
「うん、とっても良かったよ、美久ちゃん」
「ちがう~っ」
くっくっくっと、遼一は可笑しそうに笑い、美久は結局そのまま顔をあげることすら出来なかった。
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