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Stories of fate


下化衆生 (R-18)

下化衆生 (再会、見合い、SM) 33

 11月の月半ば、遼一抜きで何人かが集まった。

 遼一を誘わなかったのではなく、忙しくて参加出来ないと断られたのだ。大抵誘えば集まるのは皆、暇なんだろうか? と美久は苦笑する。実際、美久は部署を異動してかなり暇になってしまった。久志は他支店へ異動になったらしい。もう噂も聞かない。

 いつも早い亨と二人、先に店に陣取った美久は、ふと彼に昔の遼一のことを聞いてみた。
 大学で出会ってからの遼一しか知らない美久よりは、きっといろいろ分かっているだろうと思ったのだ。

「ねぇ、遼一って、時々ものすご~く、怖くない?」

 そう言って美久が見上げると、亨はビールを飲みながら笑った。

「う~ん、あいつはもともと支配階級の出身だからなあ」
「…何、それ?中世ヨーロッパの話かなんか?」

 言葉の意味がつかめなくて、きょとん、と美久は亨を見上げる。

「遼一があまり公にしたがらないから言ったことないんだけど、あいつはSETAグループの御曹司なんだよ」
「…って…あの、ホテルの?」
「そう。それから、金融、建設、他にもいろいろ持ってるよ」
「え~っ?」

 絶句する美久。亨は苦笑して言った。

「僕からこんな話して良いのかなあ。まあ、もう言っちゃったけどさ」
「…そう…なんだ…」

 美久の頭はまだまったくその話を受け入れられない真っ白状態で茫然とする。そ…それって、じゃあ、遼一が普通に付き合ってくれてたこと自体、スゴイことだったってこと? そういう、お金持ちくさいというか、お金のあることを鼻にかけたような態度は見たこともなかったし、そんなに派手な生活もしていない。

 それでも。
 すでに一般庶民とは違う。そういえば、人に命令をくだす態度は生まれながらの貴族のようだ。…確かに支配者階級だわ。

「そう言われると納得するところ、あるだろ? 妙に品が良いところとか、怒ると命令口調になるところとか。僕はあんまりそういう場面に出くわしたことないけど、他の友達に言われたことあるよ、声のトーンが変わって目が据わったときの威圧感はものすごいって」

 まさに、その通り! 身に覚えのある美久は本気で頷いた。
 怖いです、本当に。
 あれは、絶対に人格が変わってる!

「でもさ。…遼一の根底に‘復讐’がある限り、僕は、遼一自身が救われないと思うんだよな…」

 不意に亨は遠くを見るようなぼんやりした瞳で空(くう)を見上げる。

「復讐?」

 ぞっとして美久は目を見開く。
 亨ははっと美久に視線を落とす。

「ああ、ごめん。なんでもないよ。ほら、よくあるだろう?お金持ちの内部のドロドロが。でも、今は渦中から抜けているから大丈夫だよ。美久ちゃんがそばにいるし」

 美久はあまり深く関わるのはよそう、と敢えて何も突っ込むのはやめた。

「だから、美久ちゃんに救って欲しいんだ」
「は? …私? …どうやって?」
「ただ、そばにいてくれれば良いよ」

 亨は静かに美久に微笑む。もともと優しい目をしている彼がこうやって目を細めると本当に穏やかに優しい空気をかもし出す。

「…それで、救われるの?」
「もちろん! そう、思ってるよ、僕はね」

 そんな訳ないじゃん…、だいたい、私は遼一のことをどう思っているのかよく分からない。それに、遼一が私をどう思っているのかもさっぱり分からない。

 なんて言うんだろう?
 逆らうから従わせたいだけ?
 他の子みたいに彼に特別に関心を寄せなかった私が珍しくて振り向かせてみたいだけなんじゃないだろうか?

 菜月が現れて、話題が別のことになって、その話題にはもう誰も触れなかったのだが、その日の亨の話はどこか引っ掛かり続けて心に染みていた。


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