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Stories of fate


下化衆生 (R-18)

下化衆生 (調教という凶行) 29

 目を開けて、美久はすでに遼一が着替えて部屋に備え付けのパソコンに向かっている背中をぼんやり見つめた。あまりの身体のだるさに声もなく、身体を起こそうとする気力もなかった。

 部屋の中はすでに片付けられていて、美久を縛った鎖も紐も跡形もなく、あれは夢だったのではないかとすら思えた。いや、思いたかった。キーボードを叩く単調で軽い音が響き、美久はその明るい静かな空間に、その穏やかな空気に、このまま時間が止まってくれれば良いとほんの少し祈ってみた。

「昼までは延長したけど、…連泊する?」

 不意に、遼一が振り返って言った。

「…え」

 ほとんど声になっていない。そして、目覚めたことを彼が気付いていると思わなくて、美久はただただ驚いた。

「起きて、帰れる?」

 遼一は穏やかな表情をしていた。気が済んだのか、何かを納得出来たのか美久には分からなかったが、とりあえず彼女はほっとする。

 身体を起こそうとすると、かなりだるいが、なんとか起き上がることは出来た。そして、「何か食べる?」と聞いてきた遼一の声に、少し空腹を感じて頷く。

「サンドイッチとかサラダとか…頼んだら持ってきてくれるみたいだよ」
「…なんでも…」

 声が出ているのか怪しかったが、遼一はふっと笑みを浮かべた。昼間の光の中で見る彼の笑顔は神々しいほど綺麗だ。昨夜の修羅の目をした男と同一人物とは思えない。

 そして、結局は逃げようとする訳でも誰かに助けを求めようと考える訳でもなく、こうやって良いように翻弄されている現状に、美久は大きなため息をついた。だけど、大きく息を吐き出しながらも、それを違和感なく受け入れてしまっている現実に茫然となる。諦めなのか? それとも何かを期待、いや、祈りのように望むものがあるのか…。

 そんなバカな…と思うのに、はい、と水の入ったグラスを差し出され、遼一がこうやって優しくしてくれると、ふっと緊張が解けてこの空間に身を委ねてしまう。無防備に、また縛られるような事態を自ら招き寄せている気がしてならない。

「美久ちゃん」

 はっと気付くと、飲み干した空のグラスをすっと取り上げて、遼一は片手にグラスを握ったまま美久の背に手をまわし、その顔を覗き込んでいた。

「二度目はないからね。もう、俺を怒らせるような真似はしない方が良いよ」

 にこりと、遼一は言った。遼一の手は温かかったのに、ぞくりと背筋に冷たいものが走る。その瞳には狂気の光はなかった。だけど美久は咄嗟に彼の腕から逃れようともがいた。身体の反射的な防御反応だった。
しかし、せっかく必死に身体を起こしたのに、あっという間に押し倒されて、口を塞がれ、美久は必死に彼の身体を押し戻そうと腕を突っ張る。

「ぅんんんっ、ん…っ」

 それほど深追いせずに、遼一は弱々しく暴れる美久の腕を軽く捕えて笑った。

「まだ抵抗する力はあるんだ」
「あ…あの…っ」

 だからって、もうこれ以上のセックスには耐えられないからねっ
 と涙目で訴える美久を冷然と見下ろし、ふふん、と遼一はイヤな笑みを浮かべる。

「それは君次第だよ、美久ちゃん」
「…そっ」
「俺をその気にさせないように、良い子にしてな」

 言葉を失って、美久はとにかく素直に頷いた。逆らってはいけない。特に、今は、これ以上抱かれたら壊れてしまう…。心臓の鼓動が激しくて、相手に聞こえたんじゃないかと思う。それでも、そんなこと、遼一にはお見通しなんだろう。

 不意に柔らかく髪を撫でられ、美久はその気まぐれさについていけないと思うのに、優しくされると心がざわめく。本当の遼一の姿を探そうと目を凝らしてしまう。美久が知っていた‘彼’が、どこにいるのかと。
 

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~ Comment ~


揺れてるんですね。

fateさんのお作には珍しく、直接的暴力? 暴力とはちがうのかな、って思っていたのですが、そこまでは行かなかったのですね。

でも、かなり過激でしたよ、やっぱり。
だからって私は嫌悪感なんて抱きませんが。うー、すごいなぁと思いつつ読ませていただいています。

この次のサブタイトルも強烈っぽいですね。
このストーリィは長いようですから、じっくり楽しませていただきます。
#1702[2012/02/23 01:02]  あかね  URL 

Re: 揺れてるんですね。

あかねさん、

> fateさんのお作には珍しく、直接的暴力? 暴力とはちがうのかな、って思っていたのですが、そこまでは行かなかったのですね。

↑↑↑誰が、ってfateが躊躇してしまうんだろうな。
一度、そういう理性をかなぐり捨てていろいろやってみたい気もすするが、今、すでにそこまでの気力はないらしい(^^;

> でも、かなり過激でしたよ、やっぱり。
> だからって私は嫌悪感なんて抱きませんが。うー、すごいなぁと思いつつ読ませていただいています。

↑↑↑これの直接の参考にさせていただいた方も結局、凶行に至らない方で、けっこう好きでした。
精神的ないたぶり? 今は小説サイトから消えてしまいましたが、心理描写が上手かった!
一人、小説サイトにさすがにfateも二度と読まん! と決意させるに至ったスゴイ方がいらして。
ここでお名前あげるのはあれなので、『傀儡』とか『監禁』とかって作品を描いていらっしゃる方です。
一作品だけを流し読みして、ダメだな、と思ったので二度と近づいたことはありません。あかねさんならどう思われるだろう? とちょっと思います。かなり、というかあり得ないくらい過激です。

> この次のサブタイトルも強烈っぽいですね。
> このストーリィは長いようですから、じっくり楽しませていただきます。

↑↑↑かなり過激でしたよ、と言われてしまっておりますので、これも別にたいしたことないっすよ、とは言いませんが(^^; でも、たいしたことない…と思います。
実質的なモノはないので。
(なんのこっちゃ(--;)
まぁ、長いと言っても、後半は普通の物語に少しは近づきます。
たぶん(^^;
#1708[2012/02/23 08:40]  fate  URL 














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