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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (最終楽章) 42

 コスモスが、‘竹’の店主を見つけたとき、彼はすでに息絶えていた。全身ひどい火傷を負っており、焼け爛れた背中には爆風とその衝撃で何かの刺さった跡、それでもここまで這ってでも歩いてきたのだろうという足を引きずった跡が地面にくっきり残っていた。

 それは、‘竹’のあった場所から幾分離れた小さな空き地で、今は使われていないらしいどこかの倉庫跡のような敷地の草むらのなかだった。そこまでの道に一切痕跡を残さずに、いったいどうやって移動して来たのか。腰の辺りに、半分煤けたカーテン生地のようなものを巻きつけて血の跡を地面に残さないようにしていたらしい。死に場所を選ぶときにまで、彼は徹底したプロだったのだろう。

 もっと早く発見していれば助かっただろうか?
 いや、彼は明確に死を覚悟していた。だからこそ、極力発見されない方法でこの場所を目指したのだ。もう、助からないことを、すでに悟っていたのだろう。

 彼は、何かを胸に抱えて、それを守るように身体を丸めて動かなくなっていた。

 コスモスは、額の前で手を合わせ、唇をぎゅっと結んで彼の遺体にそっと触れた。背中を丸めてうずくまるような姿勢だった彼の身体は難なくごろりと横向きに倒れ、彼が抱えていたものが見えた。

「…ああ…」

 コスモスの口から悲痛な息が漏れた。

 彼が抱えていたのは、半分焼け焦げた数枚のメモリーディスクだった。『花籠』では、パソコンの中にデータを置かない。ハッキングを警戒して、必ずデータの類は外付けハードディスクとメモリー媒体に保存してあるのだ。彼はそれを持ち出そうとしたのだろう。

 それで、その一瞬のために逃げ遅れたのだ。

「こんな…こんな、データなんて…龍一が、そんなことで貴方が命を落とすことを望む訳ないだろうっ? なんで逃げなかったんだ…、そんな物、放って、どうして逃げなかったんだっ!」

 コスモスは彼の傍らに膝を落として、叫びだしたいのを堪えて唇を奮わせた。

 まさか、とは思っていた。
 しかし、彼が殺られたなんて誰も信じていなかった。店との通信が途絶えたとしても、彼は逃げているだろうと思っていたのだ。連絡がないのは、通信手段が絶たれているからだと、或いは、怪我をして動けなくなっているのかも知れない、とコスモス他数名に捜索依頼が入った。

 龍一も、羽鳥も、そして彼自身も、信じていなかった、いや、考えたくなどなかった。まさか、彼をこんな風に失うことなんて。

「なんで…っ」

 もう冷たくなった‘竹’の煤けた髪を、苦しんだ筈なのに不思議に安らかな死に顔を指でそっと撫でながら、コスモスは涙を零した。

「こんな…こんな最期なのに、貴方は満足して逝ったのか?」

‘ええ、そうですね…’

 ふと、いつものどこか皮肉な、だけど温かい声が聞こえたような気がした。

‘私は、もう満足しているのかも知れない。『花籠』はそろそろ組織としても成熟してきて、龍一の周りにはたくさんの人間が増えた。彼を支える手は充分に育っている。もう私がいなくても立ち行くでしょう。’

「何言ってるんだよ! 龍一の周囲にいるのなんてまだガキばっかりだよっ、僕だって…まだ、あいつの支えになんてなれないよ。まだ、貴方のような人が必要なんだよ…」

‘組織の形が出来たら、創設に関わった者は身を引くときかも知れない。あまり船頭が多くっちゃ、これからの芽が育たない。もう、任せて逝くのが…ここらが潮時だったんだろうねぇ。後を頼むよ、コスモス。お前は椿の後をついていけ。あいつの後に続いてくれ。期待してるよ’

「僕は…僕は、どうすれば良いのさ。僕のことを褒めてくれたのなんて、貴方だけだったのに。話しを聞いてくれるのも、愚痴を聞いてくれるのも…もう、誰も、…誰もいない」

‘バカだね、お前にはたくさん仲間がいるじゃないか。皆、お前の仲間だ’

「…仲間…」

 コスモスは彼が知る限りのたくさんのメンバーの顔を思い浮かべた。その一人ひとりの背後に‘竹’の姿が見えた。その映像が見えているかのように淡い笑みを残し、すう、と漂っていた‘竹’の幻は消えていく。

「バカ~っ!」

 最期に、思い切り叫んで、コスモスは拳で涙をぬぐった。そして、携帯を取り出して、‘松’に連絡を入れる。‘竹’を葬るための要員の要請を。

 彼の遺体がここで見つかる訳にはいかない。警察にも敵にも知られる訳にはいかないのだ。
 どこか静かな場所…彼の生まれ故郷にでも埋葬してやりたかった。
 ‘竹’の生まれ故郷。龍一だけが知る小さな南の島へ。

 彼の抱えていたメモリーをそっと受け取り、コスモスはスカートの中のナイフのポケットに隠した。この半分焼け焦げているこのディスクのデータが生きているのかは分からない。しかし、これは龍一へ届けるべきだ。これが、彼の生きた証であり、命と引き替えに守ったもの、そして龍一への‘愛’だろう。

 コスモスは、巻いていた真っ赤なストールを外して‘竹’の身体をふわりと覆った。
 真っ赤なストール。血のように赤い。呪いのように、祈りのように。
 

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~ Comment ~


バカ~っ!
でもこれは’竹’のせいではないのですよね。
三本柱の一本が・・・痛い・・・

コスモス、竹の精神は君に残っているようですね。
それを大事に^^

#1838[2012/03/08 08:45]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> バカ~っ!

↑↑↑ああああ、言われると思った~~~~

いや、もうコスモスが叫んでいたし(^^;
大変、ヤバいことに、彼の後を考えていない。
関東拠点どうなるんだろうね。
東北も…

#1840[2012/03/08 09:27]  fate  URL 

コスモスの脳裏に響く、竹の声が、なんとも悲しいです。
彼は最後までプロだった。
立派です。
こんな立派な人なのに・・・なぜ今まで出番が少なかったんだ~><

竹とコスモス、こんな絆があったんですね。
彼の出番も、これから増えて行くんでしょうか。
#1847[2012/03/10 01:27]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

> こんな立派な人なのに・・・なぜ今まで出番が少なかったんだ~><
> 竹とコスモス、こんな絆があったんですね。

↑↑↑ひゃあああああっ…
じ、実は…っ
外伝に入るときっと意味分かると思います。
このエピソードも、実は、外伝の後に生まれたので慌てて加筆した箇所だったりします。
はははは…(^^;

#1851[2012/03/10 09:20]  fate  URL 














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