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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (オーケストラの奏で) 34

 翌朝、ジャスミンは李緒を会社へ送り、そのまま帰らずに近くの喫茶店でそれまでのことを整理しようと飲み物をオーダーする。電車に乗って、バスを使って、公共の交通機関で二人は一緒に歩いてきた。
店に入って、注文を聞きにしたウェイトレスに、つい口にした‘ジャスミンティー’に、彼自身が「あれぇ?」と苦笑した。コーヒーを頼むつもりだったのだ。

 そして、ふと、ジャスミンの名前の由来を思い出し、笑みがこぼれた。

 それは、深雪がジャスミンティーを大好きだったからに他ならない。母はジャスミンの香りを愛し、その儚げな花を愛し、そこからいろんなハーブに興味を抱き、ハーブの栽培を始め、今では店を開くに至っているのだ。

 薫、という名前すら、深雪が花やハーブを、その香りを愛していたからだ。
 彼の周囲には紅茶が好きな女性が多い。そういえば、李緒もいろんな紅茶を集めていたっけ。

 椿もジャスミンもどちらかと言えばコーヒー党なのに、それをそれぞれが言い出せずにいることがなんだか可笑しくも微笑ましくもあった。

 昨夜、李緒を仕事に連れ出して、指定場所へ向かいながらも、ジャスミンは詳しいことを李緒に特に何も説明しなかった。

 李緒はそのとき、ちょっと緊張した表情で闇を見つめていた。その瞳が、いつもより少し大きく見開かれているように感じて、ジャスミンは、くすりと笑う。一生懸命な様子が可愛かった。

 昨夜、ジャスミンが‘竹’から戻るのを待って、李緒は部屋から顔を出した。そしてそのとき、彼女はちょっとすまなそうに言った。

「あの人…特に変わった空気は感じ取れなかったんだけど…」

 ジャスミンは、うん、と頷いた。それほど、今回、彼女に期待している訳ではないことを彼は知っていたし、確かに白崎はジャスミンにもごく普通の会社員にしか思えなかった。そして、それは帰り道に聞いてもいた。

「ただ…」

 李緒は一生懸命言葉を探す。

「誰かに酷く怒っていた。…ううん、嫌悪のような…何か強い感情の流れがあって、その先にいる人が…」

 そこで李緒はちょっと言葉を切ってジャスミンを見上げた。

「すごく、怖かった」
「…あの男が怒っている相手が、怖かったの?」

 李緒は小さく頷いた。いつもはそんなところまで探ろうとしたりはしない。積極的に相手の空気を読もうとしている訳ではないから、大抵は受身で、相手が強烈に発するある特定の波動を感じるのみなのだろう。しかし、今回、ジャスミンに頼まれたことで、李緒は全神経を集中して、初めてある意図を持って対象を捉えてみた。

 相手が怒っているのか寛いでいるのかは普通の人間でもある程度は感じられるだろう。しかし、その感情の向いた先の相手の姿をぼんやりとでも捕えられるなど、ジャスミンは考えていなかった。

 それは、かなり特殊な能力ではないだろうか。

「どうして怖いと感じたか分かる?」
「あの…たぶん、思い浮かべた人がたぶん二人以上いたと思うの」

 李緒は記憶を辿るように微かに眉をひそめ、考えながら言葉にする。

「一人は、きっとあの人と同じような人…。そして、その後にちらりとだけ浮かんだ人が…人、なのかな? なんだか、氷のようで、冷たくて、まったく動きがなくって、怖かった」

 ジャスミンは李緒の言わんとしていることを必死に辿ってみる。

「…感情が読めない相手ってこと?」
「分からない。ただ、あの人自身がきっとものすごく嫌悪感のようなモノを抱いていて、関わりたくないのに頼られている…みたいな、逃げたい、って思いがあるみたい。そんな感じ」
「ふうん」

 会社の前で、彼女がしっかり扉の中に消えるのを確認して、ジャスミンはその出入り口が見える店に陣取った。そして、昨夜の会話を反芻し、咀嚼する。

 あの男は誰かに憤っていた。それは彼も感じていた。まぁ、あそこに誰か他の名前を使って理不尽に呼び出されたのだ、それは理解できる。恐らく、怒っていた相手は呼び出しに使われた相手のことだろう。呼び出した張本人が現れなかったのだから。それは、李緒が、‘同じような人’と表現した相手。まぁ、つまりは同じ会社の…上司とか、そんな類のものだろう。

 しかし、背後にいるらしいもう一人が気になった。関わりたくないのに、関わってしまっている。
 それが、探しているターゲットである可能性はどのくらいだろう?

 氷のようで、動きのない相手。
 なんとなく、既知の人物と重なるような気がした。父がかつて関わったことのある‘殺し屋’。ターゲットがバッティングしたことがあったのだ、と。そのときはつまり敵同士ではなかった。ただ、お互いに一目で相手の実力を知った。お互いに、関わりたくないものだと思って目を見交わしただけで別れたという旧ソビエトの氷の殺人者。

「とりあえず、‘竹’に連絡を入れるかぁ、俺が考えてたって仕方ないしぃ」

 運ばれてきた紅茶を飲み干して、ジャスミンは席を立った。

 李緒には、深雪がお弁当を持たせていた。彼女は夕方まで会社の中だ。それまで、ちょっと出来ることはやっておこうと、レジで支払いを済ませる。そして、「ありがとうございました」とレジの女性が顔をあげたときには、たった今まで目の前にいたはずの客の姿は煙のように消えていた。

 そして、そのときになってようやくジャスミンは知る。
 もはや、‘竹’は存在しないことを。アカシアとしばらく連絡が取れずに、彼に知らせが届いていなかったのだ。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[短編小説

~ Comment ~


私も紅茶派です。というか、お茶全般いきます。

ふふふ。ほーら、ジャスミンティー・・・(ほくそ笑む)

けど、私が思ったのは、湯飲みで飲む茶のほうで、カップで飲むティーのほうではなかった・・・そんなことはどうでも良い。

李緒ちゃん、鋭い。けど、関わりたくないよねぇ。

近づくことの無いよう、お祈り。。。
#1747[2012/02/28 16:42]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> 私も紅茶派です。というか、お茶全般いきます。

↑↑↑おおお、そうなんですかっ
fateくんはコーヒー党です。
でも、何でも飲みます。

> ふふふ。ほーら、ジャスミンティー・・・(ほくそ笑む)

↑↑↑ほぉら、喜ばれてしまった~~~
ふははははは。
(笑って誤魔化す(--;)

> けど、私が思ったのは、湯飲みで飲む茶のほうで、カップで飲むティーのほうではなかった・・・そんなことはどうでも良い。

↑↑↑え???(・・;
それって、違うんすか???

李緒ちゃんは今回頑張りました。
この力、いつか役に立つかも。(fateが外伝描けばな(--;)
#1752[2012/02/28 18:41]  fate  URL 

私はコーヒー派です~~。
休日は、一日5杯は飲みます^^
(飲みすぎ)

ハーブや紅茶は、ちょいと苦手かな~。
女性らしい趣味を持ったフェミニンな女性は、なんとなくハーブティーなイメージですね^^
(私は全く、女性らしい趣味がないなあ・・・)

そうか、ジャスミンは竹がもう存在しない事を知らなかったのか・・・。
びっくりするよね。
ご主人は無事なんですよね??

でも、これからいろいろ、激しい展開になって行きそうですね><
(ここはまだ、平和でよかった)
#1777[2012/03/01 19:13]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

> 私はコーヒー派です~~。
> 休日は、一日5杯は飲みます^^
> (飲みすぎ)

↑↑↑いや、fateも時間が空けば常に飲んでます。
休日は、じゃなくって、いつでもどこでも。外に出ても喫茶店ではコーヒーだし。ミスドのコーヒーはおかわりするし。

あれなんです。(どれ?)
ジャスミンと李緒ちゃん宅って、ヤバくってもあんまりヤバい感がない。
ローズ宅を描いて、ちょっとこう重くなって戻ってくると、こっちでは、にゃんこがゴロゴロしてる感じ。

なんか、間違ってるんだろうか???
#1780[2012/03/01 19:58]  fate  URL 














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