FC2ブログ

Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 28

 指定されたのは都内のホテルだった。着いてみると、そこはかなりの高級ホテルで、それとは分からない形で監視カメラが至るところに設置されていたし、エントランスには警備の姿もあった。ロビーに入ると、すぐに係の人間が近づいてきた。

「庄司さまと弥生さまですね? どうぞ、こちらへ」

 名乗る間もなく、二人はフロントを素通りして奥へ案内される。ホテルに近づくところを既にどこかで監視されていたのだろう。案内されたのは宿泊用の部屋ではなく応接用の個室と思われた。朱色のジュータン張りの豪華な部屋に、一人の女性が待っていた。

「こんにちは、庄司さん、弥生さん、花篭の代理でコスモスと申します。」

 年の頃は20代後半か…いや、その落ち着きをみれば30代前半くらいだろうか。声が低く、目元が涼しげなのに、その瞳は妙に鋭い。長い黒髪を後ろに束ね、ショッキングピンクのドレスにも見える長いスカートを穿いていた。しかし、それが艶めかしくよく似合っている。上半身に真紅のストールを巻き、身体の線は分からない。
庄司は無言で会釈をし、弥生は慌てて「あ、弥生です」と頭を下げた。

「では、これから弥生さんにはちょっと変装を施しますが、よろしいですか?」
「変装?」

 庄司がぴくりと眉を動かす。

「ええ、可愛い男の子に見えるようにして差し上げます。このホテルは直接の攻撃の対象とはならないでしょうけど、見張られていると考えた方が良いです。そこに『スムリティ』の庄司、貴方はけっこう有名ですよ? 貴方が女性を伴って入った。その女性が誰であるか直ちに調べられるでしょう」

 明らかに顔色を変えて、何か言いかけた庄司を制して、コスモスは続けた。

「『スムリティ』の弥生さん、貴女は美咲さんのご友人であり、総帥がいろんな意味で特に目をかけている女性です。そんな貴女の動きは何か大きな意図があると見抜かれます。つけられて、龍一の居所を突き止められる訳には決していきません。今後のこともありますし、今はかなり微妙な時期です。あまり関係施設に出入りした記録は残さないに越したことはありませんから」

 言いながら、コスモスは背後にあった大きなバッグからいろいろな物を取り出し始めた。たくさんの衣装や化粧品、鬘のようなモノや数々の小物。

「どうぞ、こちらへ、弥生さん」
「え、あ…はい」
「それから、庄司さん、ご心配なく。ここで襲われることはありません。敵は、龍一の居場所を知りたいんです。案内役を殺してしまっては元も子もありませんから」

 庄司は何も言わなかった。どこか不安そうに自分を見上げた弥生に、彼は口を結んだまま頷いてみせる。

「ええと、今お召しになっている物を一旦脱いでいただきたいんですけど」

 二人の様子を注意深く見守って、コスモスは言いながらちらりと庄司に視線を走らせる。すると、弥生もはっと意味を理解して赤くなる。

「あ…俺、じゃ、外に…」

 視線の意味を理解して、庄司はまだどこか不安に思いながらもそう言うと、「いえ、この扉の向こうにもう一つ部屋がございますから。そちらでお休みになってください。そうですね、10分もかからないと思います」とコスモスは壁側の扉を指した。

「…大丈夫か?」

 最後に、庄司が弥生にそう声を掛けると、彼女は微かに頬を染めて頷いた。庄司が気に掛けてくれたことが嬉しかったのだろう。庄司は既に化粧品を取り出しているコスモスの様子をちらりと一瞥し、そして、微かな違和感を抱きながらも扉へと手を掛けた。

 扉を開けてみると、そこは単なるすとんとした真四角な部屋があるだけで、窓からの明かり以外、照明も設置されてしない。不思議な空間だった。

 そして、庄司が、何もないその空間でふといろいろな思いを巡らしている間に、コスモスはさっさと弥生を着替えさせ、簡単な化粧を施し、髪を束ね上げてピンで留め、ちょっと洒落た帽子をかぶせてあっという間に彼女を‘可愛い男の子’に仕立て上げた。

「庄司さん、どうぞ」

 扉を叩かれ、庄司ははっと我に返る。その間、僅か7分くらいだった。そして、そこにいる弥生を見て、彼は思わず目を疑う。柔らかな印象だった彼女の表情は目元や頬に施された化粧品のマジックで、キリッとした少年のものに変わり、ふっくらとした衣装は彼女の華奢な身体の線を隠し、一見してお金持ちの遊び人のお坊ちゃんのようになっていた。

 絶句している庄司に、弥生は不安そうに彼を見上げる。

「庄司さん、そんな顔して弥生さんを不安がらせないでください。何か言葉を掛けて差し上げてくださいよ」

 コスモスは笑いながら道具をバッグに詰め込む。

「あ、…ああ、可愛い…よ」

 どう言葉を掛けて良いのか、庄司にも分からなかったのだろう。しどろもどろの彼に、弥生はようやく笑顔を見せてくすくす笑った。

「男の子に見える?」

 声は弥生のものなのに、その印象はまったく違う。まだどこか庄司は茫然としていた。

「あ、ああ。…すごいな」
「じゃ、出かけます。庄司さん、貴方はここまでで、お引き取りいただきます。後は私が責任を持って『花籠』本部へお連れいたしますから」
「しかし…っ」
「そういうお約束です、申し訳ございませんが」

 コスモスは微笑みながらもきっぱりと告げる。

「失礼だが、君、本当に弥生を守れるのか?」

 すると、コスモスは、ああ、と微笑んで、不意に表情を崩した。

「僕は、男です。こんな格好はしてますが、スカートの中には武器を仕込んでありますし、周囲に更に護衛がつきます。ご心配なく」

 少し高めではあったが、その声は間違いなく男のもので、そして、表情も一段男性的な色を帯びていた。
 それを見て、庄司と弥生は言葉を失い、唖然とする。そして、次の瞬間、庄司は叫んだ。

「お前、…お前っ…弥生の裸を…っ」
「大丈夫です、下着は外してませんし」

 不意に女性に戻ってコスモスは微笑み、きゃっ、と弥生は真っ赤になった。


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 27    →花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 29
*Edit TB(0) | CO(8)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


華やかな女の子の絡みと、衝撃の事実に期待大のけいです。

弥生ちゃん、いよいよ本部に招かれるのですね。

庄司、不安だろうけど、ここは新キャラのコスモスちゃん・君(?)を信じて。

庄司も有名人なら、自分の身のことも考えておかないと。
#1700[2012/02/22 17:50]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> 華やかな女の子の絡みと、衝撃の事実に期待大のけいです
> 弥生ちゃん、いよいよ本部に招かれるのですね。

↑↑↑わはははは~~~
それほどでもないっす。
衝撃の事実って程でもないし(・・;

> 庄司、不安だろうけど、ここは新キャラのコスモスちゃん・君(?)を信じて。
> 庄司も有名人なら、自分の身のことも考えておかないと。

↑↑↑そうっすね。庄司くんは有名みたいです。けっこううろちょろしているから。
でも、今回、秘かに活躍しているのは彼かなぁ。いや、花籠メンバー以外ではね(^^)
#1705[2012/02/23 08:20]  fate  URL 

コスモスさん、男でしたか!
私もこれからの展開に期待大!
(男が良いんだろ、とか、指摘しちゃダメ)

弥生ちゃん、だめだよ、裸を見られるくらいでたじろいでは!慣れましょうw。(なぜ上から目線。そしてちょっと楽しんでる)

今までちょっと影が薄いように見えた弥生ちゃんですが、これから活躍するんでしょうか。
そしてやっぱり庄司は弥生ちゃんのことが、・・・なのかな?
#1725[2012/02/25 14:04]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

コスモスさん、はい、男でした。
途中からそうなったんだろ、とおっしゃられたら、実はそうだったりして。
はははは。

弥生ちゃんに、彼女らしい活躍の場を設けてみました。
美咲ちゃんみたいな役回りは無理なんで。

limeさん、やはり男が良いんですね。
しかも、可愛い男の子が良いんですね!
でも、男はfateに苛められるぞ~~~


> コスモスさん、男でしたか!
> 私もこれからの展開に期待大!
> (男が良いんだろ、とか、指摘しちゃダメ)
>
> 弥生ちゃん、だめだよ、裸を見られるくらいでたじろいでは!慣れましょうw。(なぜ上から目線。そしてちょっと楽しんでる)
>
> 今までちょっと影が薄いように見えた弥生ちゃんですが、これから活躍するんでしょうか。
> そしてやっぱり庄司は弥生ちゃんのことが、・・・なのかな?
#1727[2012/02/26 05:39]  fate  URL 

なんちゅう羨ましいしちゅえーしょん!
#1759[2012/02/29 17:07]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

爆笑っ!!!
そ、そうすか~~??(^^;
#1766[2012/03/01 07:12]  fate  URL 

コスモスはもういたか・・・

んじゃ李緒ちゃんは桃とか花橘とか・・・・いや桔梗とかナデシコもいいかな?
しかし、ここにきて男に裸みられたとかw
庄司くーんw
細かいこと気にするなぁw
#1828[2012/03/07 17:30]  あび  URL 

Re: コスモスはもういたか・・・

あびさん、

うう、いろいろ考えていただき、ありがとうございますっ
なかなか良い線いってます!
っていうか、ちょっとドキリとしました(^^;

> しかし、ここにきて男に裸みられたとかw
> 庄司くーんw
> 細かいこと気にするなぁw

↑↑↑わはははは~
庄司くんにとっては、弥生ちゃんは大事な女性だったんで、ちょっとキレ気味でしたね。
訳分かんない組織に預けて、しばらく引き離されるから、やはり不安なんであろう。
#1833[2012/03/08 07:52]  fate  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 27    →花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 29