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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 27

 庄司は、弥生と共に待ち合わせ場所に向かいながら、彼女がこれから行く場所、そして、助手をして欲しいと言われている羽鳥という人物に対する情報がほとんどないことに苛立ちを感じていた。

 庄司の意見で劉瀞が完全に納得した訳ではなかったが、彼の見立ては劉瀞の心を動かしたことも事実だった。それを思うと、庄司は余計に焦燥に駆られるのだ。

 実際は、今回、これだけ周囲が不穏な空気に包まれ、もう劉瀞の一存だけではどうにもならない事態まで進んだ数々の事件を目の当たりにして、彼は動かざるを得なくなった。『花籠』の一般のメンバーに対する攻撃は、劉瀞を戦慄させるのに、充分だったのだ。

 施設の子ども達の安全確保はもちろんのこと、‘外’に出て働いているすべての人員を守りきるのは不可能だ。それに、安全のために経済活動をストップする訳にもいかない。

 そういう一連の心配の中、弥生は劉瀞や庄司と関わりが深い分、危険である。だったら、『花籠』に預けた方が安全だと、劉瀞は考えざるを得なくなった、というのが本当だろう。

 彼のイライラした空気を感じ取って、弥生も少し不安に思う。彼女は、劉瀞の意図を幼なじみの美咲から伝えられてきた。しばらく、弥生も周囲に『花籠』の護衛が付いたりしていたので、何かが起こっていることは感じていた。そして、一度、施設へ呼び戻されたのだ。

「弥生、劉瀞…総帥からの伝言。『花籠』の本部にしばらく出向して、管理室のハトリという人を手伝って欲しいって。今、『スムリティ』は動きが取れない。彼らと協力しないとこの事態は終わらない。そして、向こうはそういう一般的な事務能力のある人材を欲しがっているそうなの」

 それを伝える美咲は、淡々と言葉のみを口にしながら、それでもこれ以上ないくらい青ざめていた。

「…絶対に、危険なことはない、って劉瀞は言ってる。むしろ、今は『花籠』内部にいた方が安全かも知れない、って。でも―」

 行かせたくない、と美咲の目は言っていた。

 しかし、彼女はそれを口にはしなかった。そして、弥生も幼なじみの震える声を聞きながら、その瞳に涙が滲むのを見つめながら、答えた。

「分かった。行ってくる」

 微笑んだ弥生に、美咲は抱きついて声を殺して泣いた。
「絶対、…無事に戻ってきて!」と彼女は弥生の耳元にささやいた。

 ずっと、守られて生きてきたことを、弥生は知っていた。似たような境遇の子たちと、温かい施設の中で。そして、働き始めていろいろなことも学んだ。美咲がさらわれて怪我をして病床に横たわる姿を見て、弥生は恐怖よりも悲しみよりも、怒りを感じた。それなのに、美咲は気丈に、大丈夫と微笑んだ。その笑顔に打たれた。

 こんな風に大切な相手を傷つけられる理不尽さ。精いっぱい生きて、生きているだけで必死な子ども達の姿が瞼の裏に浮かび、どうやって自分が立ち直ってきたのかもそのとき、リアルにその身体に感じた。

 あのとき、…家族をいっぺんに失ったとき、一緒に死んでしまいたかったと何度思ったか知れない。死を決意するまでの絶望に飽和された辛い生活を、どうして生への希望などと呼べただろう? 食べる物さえなくなって、両親がいつも自分たちの食事を我慢して子ども達だけに与えていたかを知っていた。暗い毎日に、楽しみを見つけてはいけない気にさせられていた。死ぬことを決めた当時、両親はすでに精神を病んでいたのかも知れない。その狂気に彼女も巻き込まれていった。

 生き残ってしまった罪悪。その‘闇’に一人彼女は置き去られていたのだ。

 公共の保護施設にではなく、劉瀞に拾い上げられたことが、弥生の転機だった。彼女が生き延びたのは、『スムリティ』に拾われたからだった。

 塞ぎこんで、閉じこもっていた彼女に、周りは優しかった。甘やかすのでなく、きちんと厳しさも見せながら、彼女の成長に、その傷ついた心に寄り添ってくれた。

 そして。友達を得た。恋もした。そのとき、初めて生きていて良かったと全身で震えるくらいに感じた。
 死んだ方が良い命なんてないんだ、と。生きているだけで素晴らしいのだと。
 役に立ちたい、と思った。

 今まで守られてきた分、恩返しをしたい、と。それでも、あまり身体が丈夫ではない彼女は気ばかり焦って、身体がついていかないこともあった。

 それでも。
 出来ることをしたかった。出来ることがあるなら、役に立ちたいと思ったのだ。だから、彼女は美咲の背中を抱いて、笑って言った。

「うん、生きて帰ってくる。待ってて」

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#1530[2012/02/05 17:24]     

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#1531[2012/02/05 18:00]     

弥生ちゃんも並々ならぬ覚悟ですね。

今までは庄司が守ってきたんだろうけど、庄司は今抱えていることが大きくて・・・

これで花籠とスムリティが連携して、事が上手く運ぶと・・・いうわけではないよなぁ、きっと・・・

けど、羽鳥姉さんが喜ぶ体制は取れる?
#1687[2012/02/21 22:42]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

はい、これ羽鳥一人が喜んでいるかも(・・;
でもあれです。
fate的には華やかな女の子の絡みは好きです。
って、羽鳥が可愛い女の子だって、言ってるよな~(^^;
(ネタバレ~)
ははははは。

しかしっ
もしかして、弥生ちゃんが羽鳥に会って、衝撃の事実が発覚するかもっ!!!
(いや、別に衝撃じゃないかも…(--;)
(どっちだよっ)

#1692[2012/02/22 08:42]  fate  URL 

これだけいろいろな角度、いろいろな視点で書いていたら混乱してきませんか? (@@;)

こういう書き方って、読者を置いてけぼりにする可能性が高い、実はとてもリスクある書き方なんですけど、
私は一読者として混乱せずについていけてます。

これはfateさんの腕あってのことなんでしょうね。

最後まで楽しみにしております。
#1743[2012/02/28 13:41]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

> これだけいろいろな角度、いろいろな視点で書いていたら混乱してきませんか? (@@;)

↑↑↑混乱はしませんでしたが、時間軸がぐちゃぐちゃになって、もんのすごい苦労しました~~~

> こういう書き方って、読者を置いてけぼりにする可能性が高い、実はとてもリスクある書き方なんですけど、

↑↑↑おおおおう、そうなんすねっ
なんてこった!
でも、他に描き方が浮かばんかった…

> 私は一読者として混乱せずについていけてます。

↑↑↑ありがとうございます~~~

> これはfateさんの腕あってのことなんでしょうね。

↑↑↑いや、ヒロハルさんが読みなれていて、素晴らしいだけでは???(^^;
最後までこんな感じであっちゃこっちゃに引っ張り回されますので、よろしくです!

#1748[2012/02/28 18:25]  fate  URL 














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