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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 26

 メールの着信を知らせる微かな音が響き、羽鳥は、はっと身体を起こす。デスクに突っ伏したまま転寝していたようで、少し腕が痺れていた。背中に薄い毛布が掛けられているのに気付いて、羽鳥は龍一の姿を探す。

 すると、彼もまたソファに寄り掛かったまま腕を組んで寝息を立てていた。

 龍一は近くに人の気配があると決して眠らない。ウトウトはしても、僅かな物音、或いは空気の動きで目を開ける。しかし今、彼は本気で眠っているようだ。それだけ疲労が濃いのだろう。

 半年ほど前に『スムリティ』本部の悠馬と椿から、近く劉瀞に刺客が放たれるかも知れない、と連絡を受け、彼は緊急に臨戦態勢を敷いた。椿が育てた精鋭を日本に呼び寄せ、劉瀞とその周囲の警護に当たらせたのだ。

 そして、俄かに忙しくなった羽鳥の仕事の軽減を目論んで、『スムリティ』の子を事務処理の助手として欲しいと要請してみた。しかし、劉瀞が妙に渋り、電話のやり取りだけでは進まないことが分かり、交渉要員としてローズ達を送ってみた。その後、庄司の進言に寄って劉瀞も折れたらしく、ようやく迎えを送るところまで漕ぎ付けた。

 庸は、元々は椿が拾った子だった。彼の素性を知るのは椿のみで、恐らく、生まれてはいけない類の子だったらしく、闇に葬られようとしていたところを救われ、一旦『スムリティ』本部に預けられ、その後、劉瀞の護衛として育てられた。その後、あまりに不穏な事件が続き、椿は彼を訓練施設に呼んだ。数ヶ月でコロシの基本を教え込み、劉瀞を守って死ね、と彼の元へ送り返したのだ。

 施設の子、美咲が攫われたのは、まさに庸を訓練施設に呼んだ僅か数ヶ月の間隙だった。

「龍ちゃん、‘竹’から写真届いたよ」

 声を掛けられて、ようやく龍一は目を開けた。

「あ、ああ…悪い。なんだって?」

 羽鳥も少し目を瞬かせて欠伸を噛み殺す。

「…っと、あと、『スムリティ』との連携はどうなってるのか? って。」
「…ああ? どういう意味だ?」
「今回の一連の事件の発端が『スムリティ』との関わりだってことで、不満が出ているらしいよ。向こうは何か協力してくれてるのか? って。」

 龍一はまだどこかぼんやりしていたようだ。ふるりと頭を振って立ち上がり、デスクの羽鳥に近づいて画面を一緒に見つめる。得体のはっきりしない殺し屋が日本に潜入するという情報を得てから、二人はほとんど寝ていない。体力はかなり限界に近づいていた。

「龍ちゃん、弥生ちゃんの件は進んでる? …それと、今回は‘庸’を借りておいでよ?」
「…弥生ちゃんの件は、交渉成立だ。近く迎えをやることになっている。…しかし、庸はダメだ。あいつは劉瀞の護衛に付けておく必要がある」
「でも、龍ちゃん、あっちは今のところは大丈夫だよ。まずは邪魔な‘花篭龍一’を潰してから、守りのなくなった『スムリティ』本部を一気に襲おうと思ってるだろうから。何しろ、あそこは商品の宝庫、宝の山だろうからね」

 柔らかいのに吐き捨てるような口調で羽鳥は顔をしかめた。

「こっちも精鋭を集めて一気に行った方が良いって。‘松’と連絡取って、こっちの守りに人員をまわしてもらおうよ」
「大丈夫だよ」

 龍一は何故か頑として譲らない。まぁ、予想はしてたけど、と羽鳥は小さく息をついた。

「ねぇ、なんだって、『スムリティ』にそんなに肩入れをすんの? いや、違うか、劉瀞がそんなに大事?」
「…あいつは、恐ろしくまっすぐな男だからな」
「どこが?」
「守るべき者のためにすべてを賭けている、っていうのか。そのブレない信念が面白いからさ。つい、助けたくなってみてるのかなぁ?」
「あのねぇ、龍ちゃん」
「いや、大丈夫だって」

 はぁ、とため息を漏らして羽鳥は座っている椅子を回して自身をくるくる回転させる。

「そういえばあっちも字が違うけど‘りゅう’ちゃんだもんね。もしかして、腹違いの双子?」
「それは、双子とは言わん」
「じゃ、魂が双子なんじゃない?」

 すると、龍一は少し嬉しそうに笑った。

「いや、俺はあんなに純粋じゃないからなぁ」
「そんなの分かってるって。でも、あたしはあっちの総帥みたいな真面目っ子はムリ! あんまり一途過ぎて疲れちゃうし。龍ちゃんで良いよ」
「それは有り難いね」

 くすりと龍一は、それこそ父親のような表情で羽鳥を見つめた。

「それより、本当に、誰かに応援を要請しないの? 椿もコスモスも手一杯だよ?」
「…いや、もう少し粘ってみるよ。もしかしたら、悠馬に連絡を頼むかも知れないが」
「あ、ごめん、龍ちゃん…」

 羽鳥が何か言いかけたそのとき、緊急の信号が点滅した。

「…?」

 二人は同時にその発信先を確認し、愕然とする。

「‘竹’が殺られた…!」
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


緊迫の連続で、さすがに皆さん、お疲れですね。

あの会合がうまくいったのは、庄司の度量によるところが大きかったのですね。庄司えらい。

龍ちゃんと、劉ちゃんは、ソウル双子か。守るべき相手なのですね。龍ちゃん、大きい・・・

すべてが上手く回ると良いんだけど・・・
#1674[2012/02/20 17:20]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

はぁぁ、はい、緊迫している筈なんですが。
なんか、緊迫感がない。
どうしたらいんすかね?(--;

背景を壮大にしちゃうと途端に苦しむんだから、やめとけば良かったのに…
今更ですが。

まだまだ渦中です。
やだね~~~(^^;
#1680[2012/02/21 08:24]  fate  URL 














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