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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (奏でる旋律に乗せて) 24

 ジャスミンと李緒が向かったのは、とあるビルのエントランス付近。一階の正面側がほぼガラス張りの夜でも照明がやたら明るくて、更に外に伸びるタクシーの乗降口へ向かう屋根付きの廊下は豪華だ。支えに建つ大理石調の柱が白く光を照り返す幻想的な空間だった。

 オフィスビルであるそこは最上階のみがホテルになっており、特別な会員のみ宿泊が許されるという嫌味な建物だ。そこに出入りするということは、相応の身分の人間に違いない。

「ねぇ、李緒ちゃん、ちょっとこれから会ってみてもらいたい人物がいて、その男と同じ種類の人間を探して欲しいらしいんだけど…そういう目的で人に会うときって、話しをしたりした方が良いのかな? どの程度の接触で相手の特徴をつかめる?」

 それまで、他愛ないことを話して李緒を笑わせたりどぎまぎさせたりしていたジャスミンは、タクシーを下りて目標地点に近づいた頃、ふと思い出したような口調で李緒に話しかけた。

 李緒は、出掛けの深雪の態度や、ジャスミンのほんの少しぴりぴりした空気に、何かを感じていた。もっと言えば、これは単なる気まぐれや日常生活の一環ではなくて、何らかの意味を持った重要な行動であることを分かっていた。

 あのとき、ジャスミンに再会した日、李緒は一旦「死」すら覚悟した瞬間があった。スミレに出会って、ジャスミンに会わせて欲しいと訴えた、あの日。

 一度は明確な殺意が芽生えた彼の瞳に、李緒はそれでも何故信じたのだろう? ジャスミンへと続く道を。それはつまり、ジャスミンと同じ…、そう捉えた空気の色を信じたのだ。同じ種類の人間、その意味は大きい。偶然巻き込まれた人間を簡単に殺したり出来ない種類の人間だと、むしろ彼女はそちらを強く感じたのかも知れない。

 そして、奇しくもその独特の勘を買われ、アカシア、とジャスミンが呼んだ男が、困惑顔で李緒に聞いた。ジャスミンと同じ世界へ登録しないかと。言われた意味をあまり理解出来ずに、ぼうっとしたまま頷いた李緒の視線はずっとジャスミンに注がれたままだった。彼の反応をのみ、彼女は信じていた。ジャスミンが首を振ったら彼女は頷かなかっただろう。

「仮登録の状態だが、後はお前に任せるよ、ジャス」

 あの後、そう言って処遇を預けられて今まできた。訓練施設に放り込んでついいけるような子じゃないし、とジャスミンはいずれ護身術だけでも教え込もうと考えていた。椿が日本にいる間に。

 そういう流れで、これはジャスミンと同じ世界の仕事なんだと李緒は理解した。

 今までぼんやり感じるだけだった人の空気を嗅ぎ分ける能力のようなもの。それを意図的に使うということを意識してみた。

「話した方が…イメージがつかみ易い、です」
「そう、…了解」

 ジャスミンは少し考えて頷いた。あまり李緒をよく分からない男に近づけたくなかったのだろう。どうやってきっかけをつかもうかと、とりあえず、ジャスミンはターゲットの出現を待つことにした。




 呼び出されたビルは夜通し照明が点灯してはいるものの、真夜中を過ぎると一段、暗くなる。こんな夜更けにいったい何の用で呼び出されるのか分からず、白崎はメールの送信者を探す。24時間フロントには人がいて、ロビーは開放されているが、指定場所のロビーに相手の姿は見当たらない。

 フロントへ歩みより、メッセージが残されていないか尋ねてみる。

「失礼、白崎という者だが、私宛に何か伝言を預かっておらんかね?」
「はい、白崎さまですね? 少々お待ちください」

 相手は何やらパソコンでチェックしている。

「はい、ございます。こちらです」

 あっという間にプリントされて手渡されたメッセージカードを受け取り、白崎はそれを開きながら数歩進んだ。出入り口へ向かいながら、首をひねり、意味不明のメッセージを再度読み返す。

『出会った人物に丁寧に挨拶を。彼らが貴方の今後を決定的に左右するでしょう。』

 これは、パソコンに届いたメッセージをフロントで印刷してくれたものだが、ほとんど意味不明な上に、およそ、伯父の文章ではない。何かおかしかった。

「こんばんは~」

 その声にふと顔を上げると、エントランスに若い男が立っていた。そして、その一歩後ろに若い女の子の姿も見える。背後からの照明の方が明るくて、彼らの表情はあまりよく見えない。

 白崎は眉をひそめる。こんな時間に若い男女がこんなところで何をやっているんだ?

「あの、ちょっと道をお尋ねしたいんですけど?」

 白崎の不快そうな表情を意にも介さず、相手はにこにこと話しかけてくる。

「…道なら、この先に交番がある」
「交番?」
「そうだ、この先の交差点を渡れば…」
「いえ、俺は交番への道を聞きたいんじゃないんですけど」

 相手の言葉に、白崎は思わず失笑する。

「ああ、…すまん。どこへ行きたいんだ?」

 メッセージをポケットにしまって、彼は腕時計に視線を落とした。もうこんな時間だ。ああ、まったく無駄足だった。いったい何がどうなっているんだ?

「渋谷ビルへ」
「…そんなものは聞いたことがないな」
「屋上に遊園地があるんですけど」

 にこっと相手は無邪気な笑顔を見せる。その顔がどこかバカにしているように感じられ、彼は疲れも手伝って、カッと頭に血がのぼる。

「ふざけてるのかっ?」

 思わずイライラして彼は叫び、その声の大きさに慌てて周囲に視線を走らせる。夜中だったこともあり、声が響いた割には人の数も少なく、それほど注目は浴びなかったようだ。

 くそっ、こんなことになったのも、そもそも、あの男の通訳なんぞを引き受けたからだ! 思い出すとムラムラと怒りが湧き起こってくる。

 男は、彼の剣幕にまるで動じる様子はなく、不意に妖艶な笑みを浮かべた。ずっと背後にいた女の子の肩を抱き寄せて、「分かる?」と男よりかなり背の低い女の子のその髪に口付ける。目の前での、彼にとっては破廉恥な行為に絶句している間に、二人は何かを静かに話し合ったようで、そのまま闇に溶けるように消え去って行った。

 茫然と二人を見送り、いつの間にか掻き消すように消えたその奇妙さに、不意に白崎はさきほどのメッセージカードの文章を思い出した。

‘彼らが貴方の今後を決定的に左右するでしょう’

 ぞうっとした。

 彼ら? 彼らとは…今の男女のことか?
 今後の運命を決定するとは?
 よくは分からないなりに、白崎はパニックを起こしかけた。闇に消えた男女。あれは本当に人間だったのか? もしかして、あの二人が見えていたのは自分だけだったのか?

 羽鳥がふざけて送ったメッセージに過ぎないのに、奇妙に状況が噛みあってしまい、白崎はあたふたと逃げるようにその場を離れた。

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~ Comment ~


ふふふ。ジャスと李緒ちゃんが君の今後を決定的に左右するのだ。挨拶はどうした、挨拶はぁ~~

交番への道のりを説明しようとするなんて、ボケとるぞ。

李緒ちゃん、何を掴んだかな。
ジャスミン、褒めてあげてね^^
#1655[2012/02/18 11:40]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

お分かりでしょうか。
ローズと奈緒ちゃんの方はあれだけ緊迫しとるのに、こいつらが出ると途端に緊張感がなくなってしまうことが…
fateのせいじゃないっす。ジャスミンが真面目になればなるほど、どこかズレていくんです。
李緒ちゃんも良い感じにぽーっとした子なので、「オカシイだろっ」と突っ込む人が誰もいない。
更にジャスミンのご両親も世間ずれしているから、ここに常識は存在しないんだ~~~

だから、どうした?
って言われちゃ、いや、別に…ってなモンすが…

#1658[2012/02/18 11:51]  fate  URL 

ほんとうに緊張感の無い二人ww
でも、白崎くんは、ぞっとしたんでしょうね。逆に。

あのメッセージは羽鳥の仕業なんですね。
なるほど。

そして、いよいよ李緒ちゃんの初仕事。
大好きな人に信頼されて仕事をするって、これ以上幸せなことはありませんよね。
たとえちょっとばかり危険でも。
李緒ちゃん、良かったね。
#1707[2012/02/23 08:38]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

kimeさん、

> ほんとうに緊張感の無い二人ww
> でも、白崎くんは、ぞっとしたんでしょうね。逆に。

↑↑↑だしょ?
こいつら、何も考えてないだろ! って思う。
いや、無心の勝利ですかね。

基本、フザケた世界なので、あまり一つ一つに意味がないっす(^^;
龍一がフザケたヤローなんで。

でも、李緒ちゃんもその気になればけっこうヤバいくらいに鋭いかも知れない。
あ! 今描いてる外伝ネタ、突然ひらめきました。
行き詰って投げてたんで!
limeさん、ありがとう~~~~
#1711[2012/02/23 08:47]  fate  URL 

そうだよね、白崎よびだしたのは花籠側だよね。
ていうかはとりんだったんだね♪ やるな♪
さぁて、これは本格的に李緒ちゃんにもコードネームが必要になりそうですね。なにがいいかなぁ?
「菜花」とか「秋桜」なんてイメージだけど^^ なんてつくか楽しみですね♪
#1817[2012/03/06 14:49]  あび  URL 

あびさまへ

あびさん、

> ていうかはとりんだったんだね♪ やるな♪

↑↑↑はいはい、はとりんは活躍中です(^^)

> さぁて、これは本格的に李緒ちゃんにもコードネームが必要になりそうですね。なにがいいかなぁ?
> 「菜花」とか「秋桜」なんてイメージだけど^^ なんてつくか楽しみですね♪

↑↑↑コードネーム!
おおう、ちょっとドキドキしました~~~(^^;
ははははは。
今後、まだ人物が増える予定です~~
#1818[2012/03/06 15:15]  fate  URL 














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