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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (序曲) 18

「良いの? 面会時間過ぎてるよ?」

 9時を過ぎて、病院内はひっそりとしている時間帯だった。
 牡丹はそれでも嬉しそうにアカシアを見上げた。

「…傷は…どうなんだ?」
「うん、痛むけど大丈夫だよ。それほど深くなかったみたいで、臓器には損傷なかったらしいし。傷が塞がれば平気みたい。」

 ヒソヒソと声をひそめて二人は話す。アカシアの表情がどこか痛々しかった。彼が自分のせいだと感じていることが分かって、牡丹は努めて笑顔を見せる。

「お前…明らかに今の男は怪しかっただろう? 迂闊に注射されたりするんじゃないよ。」
「ああ…」

 牡丹は頷いた。

「‘毒’はある程度慣れてるし、アイリスさんに解毒薬の種類もけっこうも持たされているし、まぁ、最悪、それでなんとかなるから」
「…アイがここに来たのか?」

 牡丹は静かに首を振った。

「ううん、今じゃない。この間、仕事のときに。他は何も荷物持ってこられなかったけど、携帯用に身に付けられるアイテムと一緒に。指輪とかネックレスとか。っていうか…アイさん、どうかしたの?」
「いや、あいつは無事だよ。違う。襲われたのはお前だけだ。…俺らの中ではな」

 牡丹は敏感にその意味を察した。

「他に…誰が?」
「いや、俺も直接は知らん。ただ、他のメンバーが数名。まぁ、一緒に仕事をしたことのあるやつじゃないから詳しいことは分からん。それより、お前…」

 アカシアは更に一段声をひそめた。

「何か、ヤバイことを見つけたんじゃないか?」
「え? …なんで? だってこれって、通り魔だって、警察の人が言ってたよ?」
「『花籠』メンバー限定のか?」

 牡丹はようやく事態を飲み込み、息を呑んだ。

「…じゃ、襲われたのって…みんな、そうなの? だとしたら、これは、何? 警告? それとも…」
「それに関する何か、お前、覚えはないか? それから、お前、相棒はどうしてるんだ?」

 ふと思い出してアカシアは尋ねた。まさか、病室に蛇を伴うことは出来ないだろう。

「…あのあと、逃げろ、って言っておいた。去って行く気配は感じていた。だから、きっとあの周辺にいるとは思うんだ。無事…だよね?」
「ああ、それなら大丈夫だろ。蛇が出たってハナシは聞いてない。お前が望んだ通り暗闇にひそんでいるんだろう。お前が迎えに来るのを待って」

 牡丹は、そう…と呟いて、ほんの少し笑みを見せた。

「ヤバイ情報なのか分からない。だけど、最近、『花籠』の名前にやたら反応するハッカーが出没しているらしいんだ。一度ヤバイサイトに引っ張り込まれそうになって慌てて振り切った。いや、振り切ったつもりだったけど、そのとき、既に調べられていたのかな。すべてのサイトからアカウントごと削除してしばらく気配を消していたんだけど。…でも、おかしいんだ。そいつ、たくさんの名前を語っているけど、恐らく一人で、そして、…日本人じゃない。チャットの言葉の使い方の雰囲気だけど。そして、…確証はない。でも、そいつは日本にいる」
「なんだって…?」
「東京って言葉が出ていた。もっと詳しく何区、だったかな?…もしかして、企業とか、何か日本の組織と繋がっているのかも知れない」
「そんなこと、分かるのか?」
「だって、日本語がそれほど達者でなくって、手引きしてくれる同胞がいたとしても、日本事情の分かるしかもそこそこ力のある日本在住人の助けって必要じゃないのかな。それに…機械って結局、操るのは人間だからね。少なくとも日本人の協力者はいるよ」

 牡丹の瞳がきらりと光を放つ。それは、一瞬、次元の隙間にぱっくり開いた闇のように見えた。

 まるで無機物のような動きの少ない爬虫類。何を考えているのか、そもそも考えなどあるのか分からない、ほぼ本能のままに動く蛇という生き物。蛇が牡丹の意志を受け取って動くとき、彼らは一種の媒体となり、身体を明け渡した状態になるらしい。そして、牡丹自身がそこへ入り込み、彼らの目を通してモノを見、その身体を使うのだ。

 それを蛇たちがどう捉えているのか分からない。いや、彼らが喜んでその身を差し出しているとは言わないが、ある種の信頼のような感情を抱いてはいるのだろう。

 感情豊かなごく普通の青年なのに、彼はそういう機械的な冷たいものに惹かれるらしい。そして、そこに息吹を感じ取る。波動なのか、僅かな感情の揺れなのか。コンピューターと爬虫類。それらを愛し、それらに愛される不思議な青年。

「…そうか。それだな、恐らく」

 アカシアは呟いた。

「その後、そいつとは接触はあったのか?」
「一応、動きは見ていた。あちこちに現れるから追いやすかったしね。でも、まだ探し回っている感があったから、見つけてはいないんだよ。目指すモノを」
「目指すモノ、なんだ? それは…」
「今思えば…恐らく、『花籠』の本拠地。或いは花篭龍一本人じゃないかな」
「なんで、そう思う?」
「ある一定のキーワードを打ち込むと強制的にあるサイト画面が開くんだ。そこに誘い込まれると、こっちのIDを盗まれるんだ。そして、恐らく関係者を片っ端から当たっているんだと思う。それは、どこかに辿り着きたいからだよ」
「…」
「僕も気になって、『花籠』を探ってみたんだ。だけど、本部って、あまり情報をパソコン管理してないみたいで、ほとんど得られるものなんてなかったよ。メンバーのコードネームと特技、しかもそれすら暗号で入ってるから、外部の人間には分からない。しかも、個人情報ってそれだけだよ。組織の匂いすらしない。それに、本部がどこにあって、花篭本人がどこにいるのかさっぱり分からない。まぁ、…こんな風に僕が入り込める程度なんだから、そんな場所に重要な情報を置かないってのが賢いんだろうけどね」

 あまりコンピューター関係に詳しくないアカシアは、何気なく聞き流してしまったが、ハッキングなんて本来そう簡単に出来るものではない。牡丹は実は羽鳥にはかなわないまでも、相当の能力があるということだ。

「それから、もう一つ。そいつ以外におかしな動きをする人間が少なくともあと一人いる。辿ってみたら、発信元は都内。しかも中心部だったよ」
「…」

 淡々と語る牡丹に、アカシアは眉をひそめた。

「なんで、言わなかった?」
「…ごめんなさい。だって、まさかこんな大掛かりなことになるなんてそのときは思わなくて。ハッカーって暇な人間のいたずら目的の愉快犯が多いんだ。本当に事件を起こすバカは少ないんだよ。それに…すべて今思えばってことで、そのときにはまったく何がなんだか、分からなかったんだ」
「ああ、まぁ、そうだろうな。しかし、もうそういう段階は過ぎた」
「…?」
「テロの可能性もあるだろうよ」

 そんなバカな…と言いかけて、牡丹は黙った。テロとは言わずとも、それに近いことは確かに起こっても不思議ではない。世界中が今は不穏な空気に包まれている。

「良いか、牡丹。くれぐれも気をつけろ。俺も頻繁に訪ねる。周りの人間を信用するな。白衣を着てたって医療者とは限らんからな」

 牡丹から聞いた情報を‘竹’にあげるべく、アカシアはそっと病室を出た。他の病室では容態の急変した患者が出たらしい。医師や看護師が慌てて走り回っていた。


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~ Comment ~


ひっそりとした中で、ずいぶん危ない会話がなされていますね。

東京で、何か起こるのでしょうか。
情報の取り合いはすでに始まっているんですよね。

牡丹ちゃん、意外な能力(?)が。
でも、ほどほどにね(女神からの忠告)
#1579[2012/02/09 20:04]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> ひっそりとした中で、ずいぶん危ない会話がなされていますね。

↑↑↑まったくっす。よく周囲の患者さんが気付かないよな、とかって突っ込みたくなります(--;
誰か一般人をちょっと絡めても面白かったのかな、と今更思います。

> 牡丹ちゃん、意外な能力(?)が。
> でも、ほどほどにね(女神からの忠告)

↑↑↑おおおお、女神さまから啓示が???
っていうか、マジで牡丹ちゃん、もう大人しくしてないと危ないって!

ありがとうございました(^^)


#1592[2012/02/11 08:16]  fate  URL 

はとりんLOVE

羽鳥(はとりん❤て呼んでました)が出てくるとつい身を乗り出してしまいます。はとりん頑張れぇ♪

冒頭のシーンは牡丹だったんですね。
しかしオチオチ入院もしてられないんじゃキツイですね>w< しかも消えたアイリスも気になるし。彼女はなにをつかみどう動いているんでしょ? 牡丹にまるで形見分けみたいなことまでして・・・。
間一髪のとこでもいいからアカシアいいとこ見せてよぉ! あーローズもジャスミンも気になるし・・・・。なんかあっちでもこっちでもヤバくなってきたじゃないですか>w< ところで椿はなにしてるんだろー?
#1785[2012/03/02 18:07]  あび  URL 

Re: はとりんLOVE

あびさん、

> 羽鳥(はとりん❤て呼んでました)が出てくるとつい身を乗り出してしまいます。はとりん頑張れぇ♪

↑↑↑おおお、なんだか、そんなことをおっしゃっていただけると、はとりんの外伝を立ち上げたくなってしまいますな。
龍一もはとりんも謎ばっかりですから(^^;

> 間一髪のとこでもいいからアカシアいいとこ見せてよぉ! あーローズもジャスミンも気になるし・・・・。なんかあっちでもこっちでもヤバくなってきたじゃないですか>w< ところで椿はなにしてるんだろー?

↑↑↑うう、アイちゃんもアカシアも、実はfateにも所在がつかめなくなって…
はははは。椿って何してるんでしょう、確かに。
謎ばっかりや~
#1788[2012/03/03 07:35]  fate  URL 














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