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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (序曲) 15

 実行犯は複数いた。少なくとも、5~10人。ただ、彼らは金で雇われただけの素人同然の一般人らしい。もともとある種の精神異常を抱えてはいても、普通に社会生活を送っている、或いは程度の軽い引きこもりのような若者たちだ。もともと猟奇殺人や異常心理に興味を抱いて、そういうサイトを放浪している頭のおかしな人間たちだ。すべて、依頼はネットから。そのサイトに接触し、詳細を問い合わせれば、仕事の内容が知らされる。

 そして、依頼を受ける意思表示をすれば、狙う相手の顔写真と住所などが送られてきて、前金が支払われる。それで気を良くした彼らは実行に移す。相手を必ず殺す必要はなく、襲って怪我を負わせるだけで残金が支払われる。

 一度接触したIDは二度と使えず、二度目の依頼はない。そうやって依頼主は永久に姿を消す。それでも、仕事をしただけの支払いをもらっているので、参加者は文句は言わない。彼らはネットゲームと変わらない感触で楽しんだだけ。その程度の感覚しかないのだ。

 それぞれの遺族から、生前の知り合いだと名乗って、遺品を借りる。
 夕刻、それを持ってローズは指定されたホテルの部屋へこもった。

 思わぬ依頼に、何も準備する暇はなかった。本来ならスミレに連絡を取って事後処理を頼まなければならなかったが、彼は今別の仕事を請け負っている。連絡を取ってもすぐに駆けつけることは難しいだろう。

 時間が、なかった。相手がまだ逃げの算段に入る前にその正体を捕えなければならない。

 しかし、ローズがそうやって、決死の覚悟で辿った犯人像は役に立たなかった。山茶花は相手の顔を克明に覚えていたし、マリーも相手の個人情報が書かれた手帳をポケットに仕入れていた。実行犯は分かった。しかし、彼らは単なる一般人に過ぎない。そこへ制裁を加えても意味はない。ローズの仕事は‘復讐’ではないのだ。

 諦めて引き返そうとしたとき、不意にローズは何かを感じた。山茶花の残した最後の想い。マリーが伝えようとした微かな言葉。

 なんだろう? そこへ至ろうとした瞬間、どくん、と心臓が鼓動を早めた。
 いけない。これ以上進んでは危ない。

 明確に警鐘が鳴り響いた。しかし、ローズは一瞬の躊躇いの後、進むことを選ぶ。このままこんなことが続けば、いずれ、龍一が表に出てくる。彼に何かあれば『花籠』は崩壊する。そして、何より。いつ、魔の手が奈緒に伸びるか分からない。守りきれるかどうかなど、彼には分からなかった。

 相手の懐に飛び込んで手帳をすったマリーが垣間見た相手の‘闇’と、そこから繋がるサイトの相手の素顔。
 山茶花が最後に使った占い師としての能力。彼を切り裂いた男を通して伝わって来たサイトの相手の未来。

 しかし、浮かび上がったそのイメージは取り留めのないモノで、まるで捉えどころがなく、ローズは苦痛と苦悩の声をあげる。流れ込んでくるものは真っ黒な邪悪の塊。組織ぐるみの巨大な悪の権化。それを取り込んでしまえば精神が崩壊する。

「う…あ、ああああああぁぁっ」

 止めてくれるスミレの手が今はなかった。引き戻してくれる温かい手も。共鳴する‘闇’が闇を呼び、絡みつくような真っ暗なモノが彼を翻弄した。

 掴もうと手を伸ばした影が大きく膨れ上がって彼を呑み込もうとする。しかし、それを掴まない限りここまで来た意味はない。

 自我がバラバラになりそうな、まるで重力に押し潰されそうな苦痛が彼を襲う。
 内側から食い尽くそうとする悪意。
 ぼやける影。微かに見え隠れする背景の白い風景。いや、それが見覚えのある一点を映し出そうとしていた。そして…。

 白い肌。青い目。…これは…?

 どんっ! とまるで破壊音のような耳障りな音が響き、弾け飛ぶように意識がきしんだ。

「チェリー…」

 手を伸ばした先に、温かいものが触れた…気がした。しかし、それは、崩壊への序曲の甘い旋律だったのかも知れない。


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~ Comment ~


 こちらでは初めまして、千石柳一と申します。どこにコメントしたらいいかちょっとよく分からなかったのでとりあえず最新記事の方に失礼します。
 うちのブログにご訪問頂いて、何度かコメントもいただきまして本当にありがとうございます! 私もこちらの作品を読ませていただきたいと考えております。

 結構たくさんあるようなので、どれから読もうか迷っております(笑)最初にこれ読むべき、とかのお勧めみたいなものはございますでしょうか?

 取り急ぎ、今日はこれで失礼いたします。乱文失礼いたしました!
#1483[2012/02/01 09:26]  柳一  URL 

千石柳一さまへ

柳一さん、

ご訪問ありがとうございます!
えええと、お勧めですかぁ(^^;
ど、どうなんでしょう…

とりあえず、カテゴリ上半分ならどれでも似たようなモノかと。
軽いのは『永遠の刹那』ちょっとトーンが重いのは『紺碧の蒼』そして、『花籠』シリーズは、描きあげてはおりますが、現在up中の連載モノといったところです。
上から4つの作は、けっこうお気軽に入り易いかと思います。希望的観測で(^^;
『蒼い月』は一番短くて、すぐ読めるかと思いますが、実はまったくfate色のない異色バージョンです。

なんか、言い訳っぽくなってきましたが、そんな感じです~
なんとなく読んでやっても良いぜ、とお思いになるモノがございましたら、どうぞ覗いてやってくださいませ。
#1484[2012/02/01 09:49]  fate  URL 

序曲とは崩壊への序曲、ということなのですか。

ローズ、そんなに深いところまで一人で行ってしまって、本当に心配です・・・

ぼやける影の人物は、あの日本語喋んない人ですか?
ローズ、そんなものを感じてしまって大丈夫? で、なさそう?

なんだか近づいてきている・・・?
何にかは伏せとく。。。
#1544[2012/02/06 19:48]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> 序曲とは崩壊への序曲、ということなのですか。

↑↑↑けいさん、そんなこと大きな声で言ってはいかんす!
じ…実はそうです。他サイトに一旦掲載した分は明確に「崩壊への序曲」というサブタイトルになっとります。
でも、静かにお願いいたします…

ええと…
まぁ、いろいろしゃべくりたいことはありますが、とりあえず、今はfateも静かにしときます…

#1547[2012/02/06 21:49]  fate  URL 

ローズがとんでもないものに、絡め取られて行く感じがします。
大丈夫なの?いやきっと大丈夫じゃない><

深く深く追跡して行った意識の先に見えたには何でしょう。
・・・と、fateさんに訊いても答えれる訳もなく。

心して、じわじわ読んで行きます。
無事を祈って。

(同時進行で公開中のお話も、きになります・・・)
#1646[2012/02/17 17:40]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

そうなんです。
これ、ここまで重くするつもりはなかったのに、あれっ??? って感じもありますが。
でも、人の限界を超えるってことをけっこう描きました。

うう、無事を祈っていただき、ありがとうございます。
こういう精神系の能力って、一番消耗するかも知れませんね。
limeさん宅の春樹くんも大丈夫かな~!!
ウチの春樹は何故かコメディになりますが、彼も実は今回けっこうヤバいっす。
はははは。

> (同時進行で公開中のお話も、きになります・・・)

↑↑↑ひゃああああああっ、
そ、そんな…(^^;
ははははは…
#1651[2012/02/18 07:55]  fate  URL 














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