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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (犠牲者) 14

 山茶花(さざんか)は占い師として『花籠』に登録してあったが、実際、彼が依頼を受ける仕事は占いとは関係のない事例の方が多かった。彼は小道具や星図などを使った一般的な占いではなく、相手の悩みを直接聞くことに寄って方向性を示してやる…といったむしろカウンセラーのような占い方をするのだ。対話に寄って流れてきた相手の未来図が彼の脳裏に描かれ、このまま進むとこうなります、という警告を行い、或いはその運命を避ける方法の助言を行う。しかし、それは彼にとってものすごく精神疲労を伴う作業であり、出来ればしょっちゅうはやりたくない。そういう能力(力)であった。

 そして、彼はそれ以外に妙な特技をいくつか持っていた。
 写真記憶能力。見た物を写真で撮った如く記憶出来る。

 それから、模写。これは、記憶に残った映像を他人に説明するために描き始めたものが、せっかくだからと少し本格的に勉強した挙句、趣味が高じた形で出来るようになった副産物である。

 と、いうことで、彼は美術品の模写やモンタージュ作成などによく借り出されるのだ。
 普段、彼は真面目な塾の講師であり、彼の特技を知る者は周囲にはいない。

 その日、彼はやはり残業で少し遅めの帰宅となっていた。車で自宅へ向かう途中、住宅地に入った途端、薄暗い十字路から人が飛び出してきて、彼の車の前に倒れた。それほどスピードを出していなかった彼は、驚いて急ブレーキを踏み、そして車の外に飛び出した。

 48歳。既婚者、子どもはまだいない。それでも、落ち着いた妻帯者という空気をまとい、むしろ年より老けて見える。うっすらと前の生え際には白髪が混じっている。目の光が柔らかいのに、奥に何かが揺れているのを感じられる。

「き…君っ、どうしたんだ? 大丈夫か?」

 うつ伏せに倒れている相手を助け起こした途端、その相手は不意にナイフを彼に向けてその腕を思い切り振り上げた。

「う…わぁっ」

 慌てて身を引いたが遅かった。鋭い刃先が彼の胸を切り裂いた。ばっと血しぶきが飛び散り、ナイフを握った男は立ち上がった。痛みよりも驚きで傷を押さえ、山茶花は地面に転がった。噴き出す血の量が半端ではない。マズイ! と彼は思った。彼を見下ろしていた相手が、ゆらりと揺れ、山茶花は咄嗟に脇へ転がった。動けると思っていなかったらしい相手が少し慌ててこちらに向き直り、そのとき、街灯にちらりと照らされたその顔が目に入った。

 若い見たことのない男だった。有名な俳優に似ている…、誰だっけ? そんなことを冷静に思う自分に呆れる。
 動いたことで、傷口が更に開いたらしい。山茶花はもう声も出なくなった。

 呼吸が苦しい。
 脳が酸欠状態らしい。次第に視界が暗くなってきた。

 妻の顔が浮かんだ。彼の副業、『花籠』のことも、彼の変わった特技も彼女は何も知らない。同じ喫茶店で何度か見かける内に、お互いなんとなく挨拶を交わすようになった。そして、店が込んでやむなく相席になったとき、初めて言葉を交わし、デートするようになった。

 いつも落ち着いた清楚な服装をする女性で、彼女はだいたい文庫本を読みながらコーヒーをゆっくり味わっている人だった。一口、ブラックでその深みを味わったあと、彼女はいつも砂糖をスプーンで半分くらいをさらさらとカップに注ぎ、次いで、ミルクをたっぷり流し込む。ミルクが広がる様を見つめながら、彼女は淡い笑みを浮かべる。その笑顔が綺麗だった。真っ黒なコーヒーが白い闇を抱く様。それを別の次元から眺めている不可思議な生き物に見えた。

 似た者同士の二人は、淡々とした落ち着いた時間を過ごし、数年を経て結婚した。

 妻となった女性も山茶花と同じ年だった。だから、二人は無理して子どもを望まなかった。孤独だったお互いが伴侶を得ただけで充分だと思ったのだ。

 ずっと、一緒に生きていこうと。
 …それがたった一つの約束だった。

「ごめん…」

 声にならないささやきで彼の世界は暗転した。
 



 その後、マリーは土手の草むらの中で、山茶花は郊外に乗り捨てられた彼の車の中で、血塗れの遺体となって発見された。

 ローズが二人の捜索に出てすぐ、‘竹’の店主から連絡が入る。

「ローズ、捜索対象の変更だ。」
「どういう意味ですか?」
「つい先ほど、二人の遺体が発見された。正式に花篭から依頼だ。彼らの死因と犯人を割り出してくれ。」

 どくん、と心臓が鳴った。

「…分かりました。」

 なんだろう? すでに彼らの思念派を感じた気がした。死者からのメッセージとしての叫びが。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


山茶花さんの奥さんにはどう連絡が・・・うう・・・

仲間の思念を読まなくてはいけないローズが辛そう・・・

奈緒ちゃんがそばにいないんだけど、大丈夫?
#1524[2012/02/05 11:23]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

はい、山茶花の奥さんは…もう本当にお気の毒です。
巻き添えみたいなもんですもん。
(う…もしかしてまだネタバレ状態でしたっけ???)

> 奈緒ちゃんがそばにいないんだけど、大丈夫?

↑↑↑スルドイ!
これが悲劇を生むんです…
#1526[2012/02/05 13:22]  fate  URL 

善良に、穏やかに生きてるメンバーをあえて狙う手口が憎たらしい~!
けちょんけちょんにしてやりたい。

死にゆく人は、やはり最後は愛する人を思い浮かべるのかな。
その瞬間、後悔とかだけだったら辛い。

ローズに是非ともがんばってほしいけど、この残留思念を受け取るのは、すごくつらいでしょうね。

奈緒ちゃん、慰めきれるかな・・・。
#1636[2012/02/16 18:07]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

> 善良に、穏やかに生きてるメンバーをあえて狙う手口が憎たらしい~!
> けちょんけちょんにしてやりたい。

↑↑↑良いっ、この表現っ!!
笑いました。

そして、そうなんです。
何もかも、そうそうそう、そうなんです!
とかってコメントを拝見して叫んでおりました。

今後の展開が重いっす…
#1640[2012/02/17 09:03]  fate  URL 

ついに犠牲者が>w<

すぐに亡くなってしまう人でも、それぞれの背景を描いてられるところがfateさん優しいなぁと思いましたですよ(;w;

世の中、毎日、ついこの瞬間にも何人もの方が亡くなっているんだけど、それぞれに関わった人がいて、涙を流しているんですよね。先日、夫婦そろって90+のご夫妻の旦那様に続き奥様の方も亡くなられたんですが、こうなるともうお葬式といっても皆さん明るかったです。病院に搬送されたけど体調をもちなおし、お子さんに向かって「それじゃまた明日ね」と笑って手を振ったのが最後になられたそうです。お二人とも腰も曲がらずぼけもせず、こんなご夫妻もいるんだなぁと、お葬式なのになんだか嬉しく思いましたね^^
#1774[2012/03/01 12:30]  あび  URL 

あぁ、書き忘れ

↑だからなんだって言いたかったかというと。

そんな老後と死でありたいと、理想を見た気がしました。って言いたかったんです。人生なかばにして殺されるなんて、お話の上とはいえ辛いですよね>w<
#1775[2012/03/01 12:33]  あび  URL 

Re: ついに犠牲者が>w<

あびさん、

いらっしゃいますよね、そういう理想のご夫婦。
fateも日本ではあまり見かけないけど、Australiaでは何組か、おおおお、と感動的なご夫婦を存じております。
日本人がどうのじゃなくって、単にその方々個人の問題だろうけど。

> すぐに亡くなってしまう人でも、それぞれの背景を描いてられるところがfateさん優しいなぁと思いましたですよ(;w;

↑↑↑この方たちを描いているとき、殺してしまうか、重症程度に収めておけるのかが実はまだ曖昧でした。
スリのマリーちゃんなんて、その探している人に会わせてあげたかったし、山茶花もせめて死に目に奥さんを呼んであげたかった。
この箇所はかなり辛くて、実は読み返すのイヤっす(^^;
じゃあ、殺すなよ、って思いますね、マジで(--;

穏やかに死を迎えたいですね、その素敵なご夫婦のように。
ヒトはやはり一人で生きるものじゃない、とそういうお話をうかがうと改めて感じます。
#1778[2012/03/01 19:37]  fate  URL 














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