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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (襲撃) 7

 杞憂に終わるかと思ったアカシアの心配は、二人が分かれてすぐ、現実のものとなって店から伝わった。

『花籠』の連絡中継地であり、仕事用の物資調達の店、‘松’‘竹’‘梅’のそれぞれの店主は、花篭龍一からの緊急の通達を受け、それぞれ連絡の取れるメンバーへ警告を発した。

「牡丹が襲われた同時刻に、何人かのメンバーの行方が分からなくなった。行方不明者の捜索と、保護。まずそれを最優先で頼む。そして、各メンバーに護衛の配備と出来るだけ一人きりでの外出を避けるよう通達を出してくれ。詳細な割り振りは各店主に一任する。」

 花篭の声は落ち着いてはいたが、静かな炎の揺らぎを感じさせた。彼は滅多に声を荒げたり取り乱したりはしない。自身への攻撃も恐らくそれほど動じないだろう。しかし、抱えているメンバーに対する卑劣な攻撃に彼が心底怒っているのが伝わった。こういうところは劉瀞と似ているのかも知れない。

「劉瀞が逃がした子ども達は、どうも人買い集団の更に先があったらしい。」
「そんなことだろうと思ってましたよ。」

 と‘松’の店主。彼はもう百歳近いのではないかという白髪の老人だ。深い皺が顔中に刻まれ、白い口ひげを生やしている。見た目は仙人のようで、年の割には瞳も肌も生き生きとしている。動きは静かでゆっくりだが、いざと言うときの俊敏さは若者に引けを取らなかった。もっとも、それを知っているのは龍一くらいかも知れないが。

 出身も本当の年齢も、本名もすべてが不明だ。そして、‘松’の店主が龍一に進言してこの店のシステムが出来上がっていたのだ。彼も『花籠』創設時のメンバー、そして、花篭龍一の父親を知る数少ない生き残りでもあった。

「私が調べたところと羽鳥の見立ては一致したようですな。」

 花篭は、ああ、とパソコンの前にかじりついたままの羽鳥の小さな姿に視線を移す。長い栗色の髪をきっちりと後ろで結わえ、一心不乱に画面と対話している、ように見える。こいつにかかってはどんな巧妙なハッカーもどこまでも追われ、追いつめられて正体を晒してしまうであろう。海外のサーバーを通す、というよくある手を今回も使われていたが、そのサーバー自体が羽鳥の領域でもある。まさに飛ぶ鳥のようにこいつの前には国境など存在しない。

「こちらで管轄するメンバーは任せてください。ダブっている何人かはこれから話を通します。花篭、貴方は以後、我々に一切連絡を取らないでください。狙いは貴方ですから。」

 かつて北朝鮮が行ったようなスパイ活動の一環として、特定地域の子ども達を拉致し、スパイとして教育し、或いはテロリストとして育て上げる。それをしようと目論んだ地下組織があったのだ。

 旧ソビエト連邦の負の遺産。そして、彼らは世界中のテロ集団とつながっている。ヨーロッパに散らばるナチスの残党、日本赤軍、アジアのマフィア。むしろ、秩序のない集団と相性が良かったのだ。

 その水面下の組織からの依頼でアジアのテロリストとも言えない一派が、報酬金目当てに日本、中国、韓国それからオーストラリアやニュージーランドで子どもの誘拐を行った。それとは知らずに、スムリティ日本支部の劉瀞が、捕まっていた子ども達の情報を仕入れてその子ども達を発見し、逃がしたことが二度あった。二度目でこちらの正体がバレ、報復が始まった。

 その他の国際的な犯罪に関しては情報を入手したところでほとんど手は出さないが、子どもが絡む案件に関してだけは彼らは全精力を傾ける。中には臓器売買目的や、富裕層の子どもが出来ない親へ高値で赤ん坊を売りつけるための商品もあったようだが、犯罪の種類にこだわりはない。

 信頼を失って大金を得る手段をフイにされ、怒った彼らの怒りの矛先は劉瀞と、その本部組織と関わりの深い花籠に向かったらしい。初め、劉瀞暗殺の動きだけが目立って『花籠』への攻撃が隠れていたのだが、今まで動かなかった地下の大物が日本に渡ったとの情報が入り、椿が急遽呼び戻された。名目上は休暇願いということで。

 それでも、奇妙に静かな時間が流れ、椿も息を潜めていた。

 狙いは当初‘花篭龍一’と思われていた。
 しかし。
 思わぬ方向へ事態は動いた。狙われたのは、組織の中でも攻撃能力を持たない一般メンバー達だったのだ。

 『花籠』は、ローズや椿、アカシアなどのような『花籠』の仕事を生業とする専属メンバーと、能力の登録はしていても、それを本業とはせずに、普通に仕事を持ち、ごく普通の日常生活を送りながら、その能力が必要な依頼が入ったときだけ仕事をする一般メンバーとがある。メンバーのほとんどが、実は一般登録である。

 椿を呼び寄せてはいたが、龍一は彼に守ってもらおうと思ったのではない。自身に何か起こったときのために、組織を束ねる役を彼に委ねるつもりだったのだ。死ぬつもりはなかったにしても、相応の覚悟はしていたのだろう。劉瀞から依頼を受けて、美咲を助けたときに、いずれ全面戦争に突入するであろう予想は立てていた。攻撃の大半は『花籠』のプロが動いていることは先方にも筒抜けであっただろうし、いずれ、相手を壊滅、或いは組織として機能しない程度に追い込むつもりはあったのだ。

 依頼報酬の発生しない仕事であっても、龍一は自らの正義で動く男である。今回、この戦争に勝たなければ『花籠』にも『スムリティ』にもまっとうな未来はない。それどころか、アジアの治安が侵される。

 送り込まれた暗殺要員は大分片付けたとはいえ、劉瀞殺害も恐らく諦めていまい。彼には引き続き護衛が必要である。そして、龍一本人ではなく一般のメンバーを狙った卑劣さと、どこから漏れたのか、その情報力に龍一は歯噛みする。メンバー情報は漏洩を怖れて、彼はコードネームと技能の種別、仕事の日付と報酬の支払い記録だけしかパソコンに落としていなかった。しかし、それをハッキングされていたと羽鳥に聞かされたのだ。

 メンバー一人ひとりに関する詳細は当然すべて調査済みではあったが、それは機密扱いで彼しか知らないファイルに保管されている。そこから漏れる筈はなかった。

 恐らく、今までの‘仕事’を詳細に追って、現場にあったカメラや目撃情報やテレビ放映など、あらゆる情報を駆使して調べ上げ、更に警察などに情報の提供者がいるものと思われた。
 

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~ Comment ~


背景深いですね。さすがです。美咲ちゃん誘拐もこれ故だったのですね。それにしても、弱いもの狙いの姑息な手で迫る相手は厄介ですね。

龍ちゃんと椿は懇親の間柄なのですね(あ、羽鳥もきっと)。二人が面したときにどんな会話がなされるのか楽しみです。シリアスなのか、どうなのか。

壮大なるハードボイルド・アクション・サスペンス・ストーリー(?)になってきましたっ。龍ちゃん、アジアを、いや、世界を、を守ってくれい。

突っ込みのコーナー:‘松’の店主のじーさん。
きっといつかヨーダのようなシャープな動きを見せてくれるだろうことを、過度に期待。
#1450[2012/01/29 07:43]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

お分かりになりましたか~(^^;
こんな壮大な世界に手を出してしまって、収拾がつかなくなった背景が~
いや、どんだけ壮大になろうが、矮小な世界であろうが、こいつらのやることは変わらないんで別に良いっちゃあ良いんですが…

> 壮大なるハードボイルド・アクション・サスペンス・ストーリー(?)になってきましたっ。龍ちゃん、アジアを、いや、世界を、を守ってくれい。

↑↑↑ぎゃあああああっ、そ、…そんなモンにはなってないっす!!!
うひゃああ、ここでそんなプレッシャーは反則技ですよ、女神さま~~~~~

> 突っ込みのコーナー:‘松’の店主のじーさん。
> きっといつかヨーダのようなシャープな動きを見せてくれるだろうことを、過度に期待。

↑↑↑ああああっ、そ、そんなっ
まだぜいぜい言ってるのに、今度は松のじいさんっ???
いや、こいつはカッコつけだけですって~~~~

#1455[2012/01/29 09:24]  fate  URL 

んんん~、許せない。
防御能力の低いメンバーを狙うとは。
卑怯な。
龍ちゃん、頑張って。
負けちゃだめよ。椿に協力してもらっても、戦わなきゃあ~。

壮大な物語に展開して行きましたね。
警察組織の及ばない犯罪は、今もなおはびこっていて、「闇の子供たち」というほとんどドキュメントの映画を見ながら、やはりOEAは必要だなあと思った事があります。

がんばれ花籠&スムリティ!
(助っ人がいるならOEAのメンバーも貸すよ。みんな暗いけど・・・。会話が続かないけど・・・。)
#1533[2012/02/05 22:49]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

おおおう、さすが、目の付けどころが違うっ
もう、こうなったら、OEAとか総動員して! ってことでどうっすかね?
なんか、組織として手を組んでも良かったかも知れないですが、OEAパートは秋沙さんじゃないから、fateには描けん(ーー;
うう、カナシイ。
綿密な計画の元に、limeさんに描いてもらえばおもしろかったかもですな。
劉瀞…じゃね、今回は龍ちゃんから、協力要請入れれば良かった~~~~~
く、悔しい…っ

> 壮大な物語に展開して行きましたね。

↑↑↑…う、背景ばっかり壮大で、物語はちまちましてます(--;
え? これで終わり? とかってすべての人に言われそう…

> がんばれ花籠&スムリティ!
> (助っ人がいるならOEAのメンバーも貸すよ。みんな暗いけど・・・。会話が続かないけど・・・。)

↑↑↑爆笑しました。
やはり、混じらず、それぞれのパートを任務として分かれてやった方が良いかも(^^;
でも、ジャスミンとかが辰巳さんに会いに行ったら何を言われるか聞いてみたい~~~
(陰でこっそり覗いて爆笑したい!)
#1538[2012/02/06 18:19]  fate  URL 

かなり大規模なお話になってきました。
映画化してもよさそうな大作になりそうですね。これは。

その時は私もキャストに入れてください。
「街人その1」でいいので。笑。
#1600[2012/02/11 16:29]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

> かなり大規模なお話になってきました。
> 映画化してもよさそうな大作になりそうですね。これは。

↑↑↑いや、ここで騙されちゃいけませんぜ(--;
西幻さんworldなら映画化もあり得ますが、これは、背景が壮大なだけで、人物はほとんど何にもしとりません。けっこうちまちましたことで騒いでいるだけで、「え? 終わり?」となりそうな…
はははは(^^;

> その時は私もキャストに入れてください。
> 「街人その1」でいいので。笑。

↑↑↑おおおおおおっ、良いなぁ、それっ!
何気にヒロハルさんには台詞もあるかもっ
ふふふふふ。

#1605[2012/02/12 10:19]  fate  URL 














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