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Stories of fate


花籠 4

花籠 4 (襲撃) 4

 都内一等地の高層ビル。その最上階のオフィス。そして、周囲を一望できるプライベート・ルームに、ミルク色の髪、碧眼の白人が外の風景を見下ろして立っていた。年齢は50代半ば程度。だが、実際はもっと上かも知れない。淡い外見的特徴とは裏腹に、彼の瞳は暗く淀んだ光を宿し、鍛え上げられた肉体と精悍で整った顔立ちをしている。眉が太く、唇が薄い。

「見渡す限り、建物ばかり。自然のない都会ってのは地球上珍しいね。」

 ロシア語で皮肉を述べるその男は、背後に立つ数人の日本人にちらりと視線を走らせて葉巻を一本取り出して火をつけた。

「どれだけ内側から浸食されても、取り返しがつかなくなるまで気付かない。危機管理能力がないのにも程がありますね。そう思われませんか?」

 部屋の扉の前に数名の部下が立ち、応接用のソファには数人の日本人が座っている。一人はこのビルのオーナー、一人はその息子であり会社役員の中年男性。更にもう一人は息子の従弟、つまり彼の甥である。この中でロシア語が分かるのはその甥だけで、あとの二人はミルク色の髪の北欧人の言葉に、お互いに顔を見合わせるだけだ。

 ビルのオーナーは白髪の老人で一代で会社をここまで大きくした成り上がり。そして2代目の息子もその経営を引き継ぐやり手、つまり金の為なら何でもするような非道を歩む人間である。二人ともどこかぎらついたものを持った脂ぎった顔をしている。スーツから肉がはみ出し、窮屈そうである。

 彼らは不知火グループの幹部役員であり、地下で各国のテロリスト集団に資金援助をし、麻薬取り引きや密売に手を染める関東屈指の暴力団との繋がりを噂されてもいる。今回、旧ソビエト連邦の秘密結社と結託し、密貿易のルートの斡旋の約束を取り付け、それと引き替えに人身売買の組織をアジアに引き入れる手伝いをしようとしていた。

「その方がご都合がよろしいのでは? アリョーシャ?」

 相手が日本語を操れることを知っている唯一の部外者、甥の白崎喬(しらさきたかし)は、敢えてロシア語を使わずに暗殺要員であるアレクセイに、静かな視線を向ける。彼らは‘アリョーシャ’と呼ばれる旧ソビエト連邦の暗殺者の名前を知らない。彼は今までほとんどこうやって依頼者に素顔をさらしたことなどなかったということも。白崎が彼をそう呼んだのは、「アリョーシャ」がアレクセイの愛称だと知っていたことと、彼が初対面でふとそう名乗ったからだ。恐らく、名乗ることで相手の反応を見たのだろう。そして、まったく知られていないことに安堵したのと同時に、どこか優位性を感じたのだろう。

 白崎は、グループの子会社の社長だったが、彼の会社はほとんどグループとは関わりのない経営をしており、大きな利益は望めなくても、まっとうな商売をしていた。本社の人間と関わりたくなかった彼だったが、今回、ロシア語の通訳として呼ばれていたのだ。

 比較的、彼は贅肉が少なく、スーツ姿も様になっている方だ。それでも、血筋が分かる程度に顔は従兄に似ている。

 名前を呼ばれた暗殺者、アレクセイは、僅かだが不快そうに眉をひそめた。不用意にその名を口に出されることに、僅かながら警戒を感じていた。しかし、そんなことはおくびにも出さずに、すました顔で相手を見据える。

「‘彼’の所在はつかめましたか?」
「それは、私の管轄ではありませんので。」

 白崎はどこか責めるような相手の視線をさらりと交わして答える。

「追ってはおりますよ。しかし、その存在すら定かではないんです。」

 オーナーの息子である、不知火兵吾(しらぬいひょうご)が重々しく答える。アレクセイの日本語能力はそれほど高くない。早口で話すと途端に彼は不快の意思表示をする。しかし、祖国以外を訪問する場合、相手の国の言葉で話し合いをすべきと考えている兵吾は、ロシア語を勉強するつもりはまったくない。

 アレクセイの部下が、携帯電話で何かの連絡を受けたようだ。その様子に気付いて視線を向けたボスにゆっくりと歩み寄り、部下は何事かを彼に耳打ちする。

 アレクセイは頷いて奇妙な笑みを浮かべた。そして、やがて厳しい表情を作って不知火親子に向き直る。

「情報こそすべてです。今のままでは動きようがありませんね。」

 ゆっくりと日本語を話しながらも、しかし、アレクセイは何かを喜んでいた。彼が命じていた計画が執行されて、それがうまくいったのだろう。

 そう、既に、戦いの火蓋は切って落とされている。それまで受けた屈辱に、彼のプライドはもう限界まで軋みの音をあげていた。

 平和ボケした日本での暗殺など本気を出すまでもない、と見くびっていた彼の配下はすでに何度も敗北していた。ある一つの組織に寄って。それを束ねるある一人の人物に寄って。お陰で、彼自身が今回直接赴くことになったのだ。

「早急に、求める情報を仕入れてください。」

 アレクセイは唇の箸をあげただけの笑顔で三人を見つめた。

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~ Comment ~


え~! 狙われてるー! 
龍ちゃん、狙われてるでしょうー!

牡丹がやられた背景も少し分かりました。
この人たち、やばいですね。
人身売買なんて世界は本当にやばいです。

fateさん、誰かが逝ってしまう、ってネタバレ、何ですかっ!? ダメダメ。泣くよっ。
#1422[2012/01/26 07:59]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

ヤバいんです、ほんとに。
いや、このstoryがじゃなくて、現在、執筆の訳の分からなさ加減が(--;
(そっちかい)
こんなハードな世界描いたことなくて、ぜいぜい息切れしてる割に進まないし、あああっ!!! こんなんじゃダメだっ!!! っとかって、戻って加筆したりしているので、描き終えた箇所ですら、コワクテなかなかup出来ないし…

> fateさん、誰かが逝ってしまう、ってネタバレ、何ですかっ!? ダメダメ。泣くよっ。

↑↑↑あああ、これはっ
誰がそんなコトをっ???
疲労のあまりしてはいけないネタバレを…っ
いや、まだ死んでない人もいます(救いにならんし(--;)。でも昨日いろいろコロシテしまって、お陰でやつらの怨念で今朝は相当夢見が酷かった…
しかも、地震はあるし。
(まぁ、地震のない日って年末以来ないので、こちらは一日一回揺れて当たり前になってしまったが)

これ以上何かしゃべるともっと余計なコトをしゃべってしまい、更に、やっぱりあの件はやめよう、とかってネタバレどころか嘘つきになりそうなので、静かにします…

#1424[2012/01/26 09:27]  fate  URL 

つ、続ききになるぅうう!!!
つづきいいいいいいい!!!!
#1425[2012/01/26 18:16]  結 麻月  URL  [Edit]

結 麻月さまへ

結 麻月さん、

わははは、嬉しいです、その絶叫。
昨夜、ようやく一応描きあげました。
が、すんげー、突っ込みどころ満載になってしまって…
加筆するかどうか、考え中です。
#1427[2012/01/27 07:45]  fate  URL 

花籠の龍ちゃんに、こんな外側から敵が攻撃を仕掛けてこようとは。
でも、こういう組織には、警察なんかよりもよっぽど花籠のほうが怖いでしょうしねえ。

>いや、まだ死んでない人もいます(救いにならんし(--;)。でも昨日いろいろコロシテしまって、

な、な、な、なんですか~~!
いろいろ殺さないでくださいよ~~。
そして誰もいなくなったとか、無しですよ~~。

まあ、私もけっこういろいろ殺しちゃいましたが(^^ゞ
最近はないです。(何自慢)

ああ、でも~、ローズとか、ジャスとか、スミレとか、危なげ・・・・・・。i-201
#1500[2012/02/02 09:14]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

ああ、ようやくパソコン復活!
今朝まで作業する度に10秒くらい固まって、次の操作をするとまた固まって…を繰り返していて、くっそぉぉぉぉっ!!! ぜってぇ~この豪雪のせいだ!!!
とかって、(-"-* になってましたが、復活したようです。
いや、fateも外に出てかなり雪かきしてきましたが…

はい、なんだか、そういうハナシになってしまったんです。
『スムリティ』ネタ、しつこい!!!
牡丹だって、最初は単なる通り魔の予定だったのに…
何故、こんな展開に?
訳が分からん。

> な、な、な、なんですか~~!
> いろいろ殺さないでくださいよ~~。
> そして誰もいなくなったとか、無しですよ~~。

↑↑↑こ…これは、すんごくネタバレしたいっ
…けど、さすがにやめましょう。
何しろ、加筆している間にもどんどん「え? そ…そうだったのか…」と愕然とする新事実が…
(誰が描いてるのか分かりゃしない(--;)

> まあ、私もけっこういろいろ殺しちゃいましたが(^^ゞ
> 最近はないです。(何自慢)

↑↑↑そうですよ~~~~(ToT)
あ、でも秋沙さんもけっこう…
最近はないんですな?
よし!(何の気合? (・・;)

> ああ、でも~、ローズとか、ジャスとか、スミレとか、危なげ・・・・・・。i-201

↑↑↑fate的にはローズが一番危なそう。
スミレもたぶん大丈夫っぽい。なんか、死にそうにない。っていうか、死ぬとことが思い浮かばない(--;
(どんな人間?)
#1502[2012/02/02 11:03]  fate  URL 

怪しいグループ

でてきましたねぇ。
なんか今回、話が大きいですね!
かなり大掛かりな相手のようだし、バラバラに動いていていいのか花籠!
これは確かにスムリティとの連携がほしいところですね。
犠牲者もでるとかいうし・・・・ハラハラしちゃいます>w<
#1746[2012/02/28 15:24]  あび  URL 

Re: 怪しいグループ

あびさん、

> でてきましたねぇ。
> なんか今回、話が大きいですね!

↑↑↑そうなんですよっ
なんで、こんな壮大な背景になったんでしょうかっ???
fateにもよく分からんっ!!!
でも、結局、背景がいかに壮麗であろうが、宇宙的に広かろうが、こいつらがやってることって、あんまり変わりゃしません(^^;

いろいろ言い訳予告してますが…
はははは。
#1751[2012/02/28 18:33]  fate  URL 

二度目

こんにちは~^^
どうやら花籠4の続きが出たようで、記憶がちょっと飛んでいるのでもう一度最初から読むことにしたところです!人物を頭の中で整理しなおすぜ!!

週末にかけてちょっと色々あってバタバタしそうなんですけど(ってどうでもいいですよね)、早く追いつきたい私なのでした。

本当にいつも精力的に書かれていてウラヤマシイです><
#1821[2012/03/06 17:44]  たつひこ  URL 

Re: 二度目

たつひこさん、

> こんにちは~^^
> どうやら花籠4の続きが出たようで、記憶がちょっと飛んでいるのでもう一度最初から読むことにしたところです!人物を頭の中で整理しなおすぜ!!

↑↑↑ほええええっ、こんな世界を読み直していただいて嬉しいです~~~
でも、確かに人物が増えすぎた感があって、ちょっと反省です(・・;

> 週末にかけてちょっと色々あってバタバタしそうなんですけど(ってどうでもいいですよね)、早く追いつきたい私なのでした。

↑↑↑おお、偶然です。
こちらも今後、週末までバタバタして、…いや、fateがじゃないんだけど、パソコンが使えないというだけだけど~

> 本当にいつも精力的に書かれていてウラヤマシイです><

↑↑↑いや、実は執筆自体はほとんど終了した感があります。
一時期は、人物を軽く設定して、不意に浮かんだ冒頭を描いただけで後は物語が勝手に進む…という時期があったんですが、今はもう新たな世界を立ち上げること自体なくなりかけてます。
『花籠』が唯一、最近、本気で描いた世界だったかな~

もう、fateくんは吐き出したい闇をある程度吐き出し切ったかも、です。
毒々しさが抜けちゃったら、fateじゃないから~(^^;
#1824[2012/03/07 08:11]  fate  URL 














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